第3章 緊急事態への対応 

武装工作員などへの対処

(1)基本的な考え方
 武装工作員1などによる不法行為には、警察が第一義的に対処するが、自衛隊は、生起した事案の様相に応じ、基本的に次のように対応する。
ア 侵入者の実態や生起している事案の状況が不明確な場合には、状況の把握に努め、自衛隊施設の警備強化などを行うとともに、必要に応じ、警察官の輸送、各種資器材の提供などにより、警察機関に協力する。
イ 生起している事案が明確となり、一般の警察力をもっては治安を維持できないと認められる場合には、輸送支援、各種資器材の提供に加え、治安出動により警察機関と協力し、武装工作員などの鎮圧、防護対象の警備などを行う。

(2)武装工作員などへの対処のための自衛隊法の改正
 武装工作員などへの対処を迅速かつ効果的に行うため、01(平成13)年、第153回臨時国会で自衛隊法を改正し、次のような規定を新設した。
ア 治安出動下令前に行う情報収集
 防衛庁長官は、治安出動が下令されること及び小銃、機関銃などの強力な武器を所持した者による不法行為が行われることが予測される場合、その事態の状況の把握に資する情報の収集を行うため特別の必要があると認めるときは、国家公安委員会と協議の上、内閣総理大臣の承認を得て、武器を携行する自衛隊の部隊にそのような者がいると見込まれる場所及びその近くでそれらにかかわる情報の収集を命ずることができる。
 また、情報収集の職務に従事する自衛官は、その職務を行うに際し、自己又は自己とともにその職務に従事する隊員の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用できる。その際、正当防衛又は緊急避難に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
イ 治安出動時の武器の使用
 治安出動を命ぜられた自衛隊の自衛官が、事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用した結果、人に危害を与えても法律に基づく正当行為とされる場合として、従来の、
1) 職務上警護する人、施設又は物件に対する暴行又は侵害を排除する場合
2) 多衆集合して行う暴行又は脅迫を鎮圧又は防止する場合
に、次の場合を追加した。
3) 小銃、機関銃(機関けん銃を含む。)、砲、化学兵器、生物兵器などの武器を所持し、又は所持していると疑うに足りる相当の理由のある者による暴行又は脅迫を鎮圧又は防止する場合

 
治安出動を想定した共同図上訓練を青森県警察と行っている陸自第9師団(本年6月 青森県警察内)

(3)警察との連携強化のための措置
ア 治安出動にかかる基本協定の改正 
 武装工作員などへの対処に当たっては、警察機関との連携が重要である。このため、00(同12)年、治安出動の際における自衛隊と警察との連携要領についての基本協定(54(昭和29)年に締結)を改正し、暴動鎮圧を前提とした従来の協定を、武装工作員などによる不法行為にも対処できるようにした2
イ 警察との共同図上訓練
 昨年5月末までに、陸上自衛隊(陸自)の師団などと全都道府県警察との間で、治安出動に関する現地協定が締結されたことを踏まえ、現地レベルでの相互の連携を一層緊密なものとするため、現地協定の締結主体である師団などと都道府県警察との間で共同図上訓練が開始された。
 昨年11月、陸自北部方面隊と北海道警察とが共同図上訓練を行った。これは、治安出動を想定した武装工作員などへの対処に関する自衛隊と警察とのはじめての共同訓練であったが、事態への対処に関する相互理解が図られたほか、両者の連携要領などについても活発な検討がなされた。
 このような共同図上訓練は、他の府県でも実施している3



 
1)殺傷力の強力な武器を保持し、わが国において破壊活動などの不法行為を行う者や、その協力者などをいう。なお、事態の初期においては、相手方の国籍・所属(正規軍か不正規軍か)、意図、人数、能力などが不明であると思われる。

 
2)正式名称は、「治安出動の際における治安の維持に関する協定」。
 防衛庁と国家公安委員会との間で締結された。

 
3)本年2月には、第10師団と福井県警、第3師団と大阪府警、第1師団と茨城県警、第6師団と宮城県警との間で、3月には第13旅団と広島県警との間で実施された。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む