第3章 緊急事態への対応 

1 不審船・武装工作員などへの対応

不審船への対処

(1)基本的な考え方
 不審船には、警察機関である海上保安庁が第一義的に対処するが、海上保安庁では対処することが不可能又は著しく困難と認められる場合には、機を失することなく海上警備行動1などを下令し、自衛隊が海上保安庁と連携しつつ対処する。
 このような役割分担の下、防衛庁・自衛隊では九州南西海域不審船事案2も踏まえ、不審船に対して効果的かつ安全に対処するため、関係省庁と連携を強化し、政府として万全を期すべく検討を行っているところである。

 
共同訓練準備のため入港中の海自第2ミサイル艇隊(ミサイル艇「はやぶさ」「わかたか」)と海保特殊警備艇「ほたか」(昨年7月 福井県若狭湾)

(2)能登半島沖不審船事案を踏まえての措置など
 99(同11)年の能登半島沖での不審船事案3では、自衛隊創設以来初めての海上警備行動が発令され、海上自衛隊(海自)は護衛艦や哨戒(しょうかい)機(P-3C)などにより対処した。
 本事案で得た教訓・反省事項を踏まえ、海自は、1)新型ミサイル艇の速力向上など4、2)「特別警備隊」5の新編、3)護衛艦などへの機関銃の装備、4)強制停船措置用装備品(平頭弾6)の装備、5)艦艇要員充足率の向上、などの事業を実施した。
 また、99(同11)年、海上保安庁との間で「不審船に係る共同対処マニュアル」を策定し、不審船が発見された場合の初動対処、海上警備行動の発令前後における役割分担などについて規定した。
 さらに、海自は、不審船に対する追尾・捕捉の要領や通信などの共同訓練を海上保安庁と行っており、連携の強化を図っている。

(3)不審船対処のための自衛隊法の改正
 能登半島沖不審船事案での教訓・反省事項を踏まえ、不審船を停船させるための武器使用権限のあり方を中心に法的な整理を含めた検討が行われ、01(同13)年、第153回臨時国会7で海上警備行動時などの武器使用に関して自衛隊法を改正し、次のような規定を新設した。
 海上警備行動時などに、職務上の必要から立入検査を行う目的で船舶の停止を繰り返し命じても乗組員などがこれに応じずに抵抗したり、逃亡しようとしたりする場合において、一定の要件8に該当すると防衛庁長官が認めたときは、海上警備行動などを命ぜられた海上自衛官は、その船舶を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由があれば、事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。その結果、人に危害を与えても法律に基づく正当行為と評価されることとなる。

(4)九州南西海域不審船事案を踏まえての措置など
 01(同13)年12月の九州南西海域不審船事案への対応について、政府が検証作業を行った結果を踏まえ、防衛庁・自衛隊は次のような措置を講じている。
1) 哨戒機(P−3C)から基地への画像伝送能力9及び基地から中央への写真画像など大容量の情報伝送能力を強化する10
2) 不確実な情報であっても、早い段階から、内閣官房・防衛庁・海上保安庁間で不審船情報を共有する。
3) 工作船の可能性の高い不審船については、不測の事態に備え、政府の方針として、当初から自衛隊の艦艇を派遣する。
4) 遠距離から正確な射撃を行うための武器を整備する。
 また、政府としては、不審船対処の基本、情報の集約・評価、対応体制など、武装不審船への政府としての対応要領を策定することとしている。
 
(5)15年度予算における関連事業の概要
1) 不審船の発見・分析能力向上のため、P-3C用静止画像伝送装置を整備する。
2) 不審船に対する停船措置のため、護衛艦などの射撃指揮装置を改善し、高性能20mm機関砲に対し水上射撃機能を付加するとともに、平頭弾を整備する。
3) 停船後の対応措置のため、特別警備隊を増員する。

 
訓練のため高速変針中の海自第2ミサイル艇隊(ミサイル艇「わかたか」)



 
1)正式には、「海上における警備行動」という。
 海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合に自衛隊がとる行動。内閣総理大臣の承認が必要。

 
2)監視活動中の哨戒機が不審な船舶を発見、巡視船、航空機で追尾・監視を行った。不審船は海上保安庁の度重なる停船命令を無視し逃走を続けたため、射撃警告の後、威嚇射撃を行った。しかし同船は引き続き逃走し、追跡中の巡視船が武器による攻撃を受けたため、巡視船による正当防衛射撃を行い、その後同船は自爆によるものと思われる爆発を起こし沈没するに至った。捜査過程で判明した事実などから、北朝鮮の工作船と特定。

 
3)監視活動中の哨戒機が能登半島東方、佐渡島西方の領海内で日本漁船を装った北朝鮮の工作船と見られる不審船2隻を発見した。巡視船、護衛艦、航空機などで1昼夜にわたり追跡したが、両船は、防空識別圏外へ逃走し、北朝鮮北部の港湾に到達したものと判断された。

 
4)昨年3月、2隻が就役。主に次の点を充実させている。
 1)速力を不審船を追尾可能な約44ノットに向上
 2)12.7mm機関銃の装備
 3)艦橋への防弾措置を実施
 4)暗視装置の装備

 
5)2001(平成13)年3月、海上警備行動下に不審船の立入検査を行う場合、予想される抵抗を抑止し、その不審船の武装解除などを行うための専門の部隊として海自に新編された。

 
6)護衛艦搭載の76mm砲から発射する無炸薬の砲弾。砲弾の先端部を平坦にして、跳弾の防止が図られている。

 
7)同国会においては、海上警備行動時などの武器使用に関して自衛隊法が準用する海上保安庁法も同時に改正された。

 
8)1)当該船舶が、外国船舶(軍艦及び政府公船を除く。)と思われる船舶で、国連海洋法条約第19条に定める無害通航でない航行をわが国の内水又は領海において現に行っていると認められること、2)当該航行を放置すれば、これが将来において繰り返される蓋然性があると認められること、3)当該航行が、わが国の領域内において重大凶悪犯罪を犯すのに必要な準備のために行われているのではないかとの疑いを払拭できないと認められること、4)当該船舶の進行を停止させて立入検査をすることにより得られるであろう情報に基づいて適確な措置を尽くすのでなければ、将来における重大凶悪犯罪の発生を未然に防止することができないと認められること。

 
9)平成13年度末までに、鹿屋、那覇基地への機動展開用の静止画像伝送装置を取得した。

 
10)平成13年度末までに、メール用回線の高速化、メール送信にかかわるマニュアルの整備などの改善策を講じた。


 

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