第3章 緊急事態への対応 

わが国領土の防衛のための作戦(着上陸侵攻対処)

 島国という特性をもつわが国の領土を占領しようとする場合、侵攻国は、侵攻正面で海上・航空優勢を得た後、海又は空から地上部隊などを上陸又は着陸させる着上陸侵攻を行うこととなる。
 侵攻する地上部隊は、艦船や航空機で移動している間や上陸又は着陸の前後は、組織的な戦闘力を発揮するのが難しいという弱点がある。着上陸侵攻対処のための作戦では、この弱点をとらえ、できる限り沿岸海域と海岸地域の間や着陸地点で対処し、これを早期に撃破することが必要である1

(1)沿岸海域における対処
 各自衛隊は、護衛艦、潜水艦、哨戒機、支援戦闘機、地対艦誘導弾により、地上部隊を輸送する敵の艦船などをできる限り洋上で撃破してその侵攻企図を断念させ、またはその兵力を消耗させることに努める。
 また、空自の要撃戦闘機や陸・空自の地対空誘導弾により、地上部隊を輸送する敵の航空機を努めて空中で撃破する。

 
索敵をしつつ攻撃前進(訓練)を行っている陸自第73戦車連隊(昨年10月北海道大演習場)

(2)海岸地域における対処
 海自は、掃海母艦などにより機雷を、陸自は、敷設装置により水際地雷などを敷設(ふせつ)して、上陸する敵の行動を妨害・阻止する。
 陸自は、海岸付近に配置した部隊の戦車・対戦車・野戦特科2火力などを集中して、敵の地上部隊の上陸を水際で阻止する。敵が上陸した場合、野戦特科火力と戦車を主体とした機動打撃力により、敵の侵入を阻止・撃破する。この間空自は、支援戦闘機により陸自の戦闘を支援する。
 この際、敵の地上部隊の上陸と連携して行う敵の空挺(くうてい)攻撃3やへリボン攻撃4に対しては、主に野戦特科火力と機動打撃力により、早期に撃破する。
 また、陸自は、地対空誘導弾をはじめとする対空火力を用いて部隊などの防空(個別的な防空)を行う。

(3)内陸部における対処
 万一、敵地上部隊などを上陸又は着陸前後に撃破できなかった場合、内陸部において、あらかじめ配置した部隊などにより、支援戦闘機による支援の下、敵の進出を阻止する(持久作戦)。この間に、他の地域から可能な限りの部隊を集めて反撃に転じ、進出した敵地上部隊などを撃破する。

 海自は、これらの各段階を通じ、護衛艦、潜水艦、哨戒機などにより、空自は支援戦闘機により、敵の地上部隊増援のための艦船輸送の阻止や、海上補給路の遮断に努める。
 また、着上陸侵攻対処のための作戦全般を通じ、各自衛隊は、作戦遂行に必要な防空、情報活動、部隊・補給品の輸送などを行う。

 このような着上陸侵攻に加え、わが国が多くの島嶼を有しているという地理的特性から、わが国に対する武力攻撃の形態の一つとしては島嶼部への侵攻が予想される。
 島嶼部における作戦は、着上陸侵攻対処の形態と共通する点が多いが、陸自の部隊を配置・増強するにあたっては海上・航空輸送によらなければならないことなどから、統合調整がより重要になるという特性がある。このため、各自衛隊は相互に連携して、部隊を早期に集中し、侵攻部隊を阻止・撃破する。

 なお、わが国領土の防衛のための作戦の実施に際し、米軍は、日米防衛協力の指針の下、主として自衛隊の能力を補完するための作戦を行う。その際米国は、侵攻の規模、態様その他の要素に応じ、極力早期に兵力を来援させ、自衛隊の行う作戦を支援する。

 
わが国領土防衛のための作戦の一例



 
1)わが国の領土は、細長い弧状の列島からなり、奥行きに乏しく、相手の戦闘力を十分に吸収・消耗させることが容易ではない。このため、領土に直接侵攻を受けたときには、対応に制約を受けるという特性もある。

 
2)陸上自衛隊の戦闘職種の一つであり、長射程・大口径のりゅう弾砲やロケットを保有し、歩兵、軽装甲車両、施設などを目標として、それらを撃破したり行動を妨害するために使用する。

 
3)輸送機などに攻撃部隊が搭乗し、重要地形付近に降下した後、地上において攻撃を行うもの。特別に編成・装備・訓練された部隊が行い、長距離を迅速に空中移動できる手段である。

 
4)輸送ヘリコプターなどに攻撃部隊が搭乗し、重要地形付近に降着した後、地上において攻撃を行うもの。空挺攻撃に比して、作戦準備が容易であり、軽易に運用できる手段である。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む