第2章 わが国の防衛政策 


解説 新中SAM、能力向上型イージス艦、能力向上型ペトリオット

1 新中距離地対空誘導弾
 陸上自衛隊(陸自)は、防空のための作戦に必要な各種の地対空誘導弾を保有している。中でも改良ホークは、陸自が保有する最も射程の長い地対空誘導弾であり、防衛大綱に基づき、全国に8個高射特科群を配置している。しかし、現在の改良ホークでは、近年の航空軍事技術の進歩や経空脅威(航空機、ミサイルなど)の趨(すう)勢に対応困難となってきており、また、装備品の機動力の向上や省力化が必要であることから、平成15年度予算から、改良ホークの後継として、新中距離地対空誘導弾(新中SAM)を装備化することとした(部隊などへの配備は平成17年度以降)。
 新中SAMは、ホークと比較し、多目標対処能力、超低空目標やミサイルへの対処能力、電子妨害下での能力に優れているほか、少人数で操作でき、軽易に長距離移動させることができるなどの特徴がある。
 防空のための作戦を効果的に行うためには、目標を遠方から撃破する長射程の誘導弾、地形などを利用してさらに侵攻してくる目標を撃破する中射程の誘導弾、超低空から不意に出現する目標に対する瞬間交戦能力に優れた短射程の誘導弾や火砲、などの対空火力を重層的に組み合わせることが必要であり、中射程の改良ホークの後継である新中SAMは、その役割を継承するものとして必要な装備である。

 
新中距離地対空誘導弾(写真は発射機のみ)

2 イージス・システム搭載護衛艦(イージス艦)
 海上自衛隊(海自)は、対水上戦・対潜戦・防空戦などの各種作戦に必要な護衛艦を保有している。現在、艦隊などが行う防空のための作戦における主な脅威の一つである対艦ミサイルは、高性能化(超高速、シースキマー(超低空飛行)化)、小型化、発射母体の多様化(ミサイル搭載可能な航空機等の増加)がその趨勢といえる。それらに対処するためには、遠距離目標の探知能力や複数目標の同時追尾能力などの情報処理能力に優れ、目標発見から射撃までの対処時間が短いイージス・システムを護衛艦に装備することが求められている。
 このため、海自は、これまで4隻のイージス艦の整備を完了しているが、平成15年度予算では、14年度(1隻)に引き続き、ターターミサイルシステム1搭載護衛艦の除籍に伴う代替更新のため、6隻目のイージス艦を整備することとした。これは、従来のイージス・システムより防空能力が向上(電子妨害下での対処能力向上など)し、また、ヘリコプター格納庫が確保されることから、護衛艦部隊における航空機運用の柔軟性の向上にも資するものとなる。
 なお、イージス艦は、高い防空戦能力に加え司令部機能や居住性が優れており、このような特性にかんがみ、「きりしま」と「こんごう」が、テロ対策特措法に基づきインド洋に派遣された。

 
能力向上型イージス・システム搭載護衛艦イメージ図

3 ペトリオット・システムの改善
 航空自衛隊(空自)は、防空のための作戦に必要な装備品としてペトリオット・システムを保有している。ペトリオット・システムは、空自の主要な防空システムの一つとして経空脅威に対処するため、防衛大綱に基づき、全国に6個高射群を配置している。しかし、現有のペトリオット・システムでは経空脅威の趨勢への対応が困難なことや、強靭な組織的戦闘を継続する必要性から、平成12年度予算から現有ペトリオット・システムの改善を開始し、平成15年度予算では、2個高射群分の改善を行うこととした。
 これにより、レーダーの探知性能、目標識別能力、ミサイル誘導性能が向上し、より有効かつ確実に目標に対処できるとともに、AWACS2との電子的な連接により、目標情報の相互交換が可能となり、防空司令所との連絡が途絶えた状態でも組織的な戦闘を継続することが可能となる。
 例えば、従来のペトリオット・システムでは探知できない程度の低高度の領域(低高度の場合探知が困難)から同システムでは撃墜できない程度の高速で侵入してくる目標があった場合でも、本改善を行うことで、AWACSから送られる情報をもとに低高度の目標を捕捉するとともに、誘導性能強化弾3でより高速な目標にも対処することができる。
 空自は、今後も、脅威の態様変化、能力向上などに対応するため、引き続き現有ペトリオット・システムの改善を進めることが必要である。

 
ペトリオット・システム



 
1)イージス・システム導入以前に採用された対空ミサイルシステム

 
2)国土から離れた洋上における早期警戒監視機能を有し、地上の警戒管制組織を代替する管制能力を有する航空機

 
3)目標の近傍に誘導する能力と目標の近傍で正確に信管が反応する能力を向上させた誘導弾


 

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