第2章 わが国の防衛政策 


解説 ミサイルによる攻撃と自衛権との関係の法的整理について

 わが国に対してミサイルによる攻撃が行われた場合におけるわが国の自衛権の発動については、第156回通常国会(本年)でも議論されているが、本件について、政府は、従来から、次のような見解を明らかにしてきている。
 「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば、誘導弾などによる攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。」(昭和31年2月29日、衆議院内閣委員会 鳩山総理答弁船田防衛庁長官代読)
 また、本年の通常国会では、これに関連し、わが国に対してミサイル攻撃を行うような国があった場合、いかなる状況になれば、法理上、わが国に対する急迫不正の侵害、すなわちわが国に対する武力攻撃が発生したと考えるべきかについても議論がなされた。
 これについては、政府は、従来から、「わが国に対する武力攻撃の発生」した時点とは、「相手が武力攻撃に着手した時」であると考えられ、「この武力攻撃が発生した場合とは、侵害のおそれがあるときではなく、また、わが国が現実に被害を受けたときでもなく、侵略国がわが国に対して武力攻撃に着手したときである、(中略)わが国に現実の被害が発生していない時点であっても、侵略国がわが国に対して武力行使に着手しておれば、わが国に対する武力攻撃が発生したことと考えられ、自衛権発動の他の2つの要件を満たす場合には、わが国としては、自衛権を発動し、(中略)攻撃することは法律上可能となる、こういうふうに考えております。」との答弁(平成11年3月3日、衆議院安全保障委員会 野呂田防衛庁長官答弁)にもあるように、武力攻撃のおそれがあるだけでは武力攻撃の発生とは認められないが、他方で武力攻撃による現実の侵害の結果の発生を待たなければならないというものではないとの考え方を明らかにしてきている。
 なお、現実の事態において、どの時点で相手が武力攻撃に着手したかについては、そのときの国際情勢、相手国の明示された意図、攻撃の手段、態様など様々な事情を勘案して判断する必要があるので、一概には言えず、個別具体的に判断すべきものである。
 いずれにせよ、わが国が自衛権を発動するのは、「わが国に対する武力攻撃の発生」などいわゆる自衛権発動の3要件に該当する場合に限られることは当然であり、政府は、従来より、未だ武力攻撃が発生していないのに武力攻撃のおそれがあると推量されるだけで他国を攻撃するいわゆる先制攻撃は、わが国憲法の下では許されないと説明している。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む