第1章 国際軍事情勢 


解説 中国の宇宙開発

 中国の宇宙開発が近年急速に進展している。中国は有人宇宙船「神舟」の開発を進め、これまで1号から4号までを無人で打ち上げて各種試験を行ってきており、本年中には「神舟5号」で初の有人飛行を行う予定である。これまでに有人飛行を実現したのはロシア(旧ソ連)と米国のみであり、これが実現すれば、中国の宇宙開発において大きな意味を持つことになるであろう。また、本年5月には3機目となる航法衛星「北斗1号」を打ち上げ、独自の航法衛星システムを完成させたとしている。中国は宇宙ステーションやスペースシャトルの開発、さらには月面探査や火星探査も目指しており、他の国々による宇宙開発が予算の問題などに直面している中、世界有数の宇宙開発大国になる可能性を秘めている。
 その裏付けとなる技術力についても、例えばロケット打ち上げ技術については、中国の技術力は既に高く評価されている。中国の運搬ロケットは「長征」と呼ばれるシリーズだが、このうち「長征3B」は、静止軌道への移行軌道に約5トンの積荷を打ち上げる能力を有しているとされており、これは、欧州の最新型である「アリアン5」には劣るものの、日本の最新型である「H−IIA」や欧州の一つ前の型である「アリアン4」に匹敵する。また、「長征」のシリーズは1970(昭和45)年から96(平成8)年までに7回打ち上げに失敗したが、その後は連続成功記録を伸ばして安定性も評価されており、そのコストの安さもあって、世界の商業衛星打ち上げ市場における代表的なロケットの一つとなっている。さらに、中国は10(同22)年までに低コスト・高性能・高信頼性・無公害の次世代ロケットの開発を行う予定である。
 こうした宇宙開発は、軍事科学技術とも密接な関係を持っている。中国のロケット開発は、弾道ミサイル開発と並行して開始されたものであり、「長征」シリーズについても、中距離弾道ミサイルである東風4及び大陸間弾道ミサイルである東風5をベースに開発されたと言われている。また、軍事科学技術の発展において、偵察衛星やGPSなど、宇宙を利用した技術の重要性は増加の一途を辿っている。
 中国は宇宙空間の平和利用を主張しているが、中国の宇宙開発関係機関の多くは人民解放軍の機関と言われていることもあり、中国の軍近代化の動向を考える上で、中国の技術力を示すものとして宇宙開発を見ることは有益といえる。今後ともその動向について注目していく必要がある。


 

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