第1章 国際軍事情勢 

韓国

(1)全般
 韓国では、87(昭和62)年の憲法改正による大統領直接選挙制導入などを経て、現在民主化が定着している。昨年12月の大統領選挙では、政権与党の盧武鉉候補が、野党候補を破り、本年2月、大統領に就任した。対北朝鮮政策については、金大中前政権では「包容政策」と呼ばれる融和政策が一貫して進められ、00(平成12)年6月には、南北分断後初めての南北首脳会談が行われた。盧武鉉大統領は、この「包容政策」の考え方を継承する「平和繁栄政策」を掲げている。
 朝鮮戦争の停戦以降、現在に至るまで陸軍を中心とする米軍部隊が駐留している韓国は、米韓相互防衛条約を中核として、米国と安全保障上極めて密接な関係にある。昨年12月の米韓安保協議会で両国は、北朝鮮の核の脅威の除去、ミサイル開発・輸出中止での協力、テロ対策での協力、在韓米軍の必要性などについて確認し、米韓同盟が北東アジアの平和と安定に寄与することで一致した。その一方で、昨年6月、訓練中の在韓米軍車両が起こした人身事故に関して、同年11月に米軍兵士に無罪評決が下った直後から、韓国各地で抗議デモや地位協定改正要求などが起こるなど1、米韓関係への影響が懸念される出来事もあった。
 韓国は、米国における同時多発テロに際してアフガニスタンへ医療部隊を派遣するとともに、米国などによるアフガニスタンでの軍事作戦を支援するため、海軍や空軍による輸送活動などを行っている2。本年2月には新たに工兵部隊を派遣した。また、米国の要請を受けて、本年4月、イラク復興支援のため工兵部隊及び医療部隊を同国に派遣した3
 韓国と中国との間では、92(同4)年の国交樹立以降、軍事交流は漸進的なものであったが、最近になって進展がみられており、00(同12)年1月には遅浩田国防部長(当時)による初の訪韓が実現した。また、01(同13)年12月には韓国国防部長官の2度目の訪中が金東信国防部長官(当時)により行われ、軍高官の相互交流を拡大することなどで合意した。さらに、昨年5月、中国艦艇による韓国訪問が初めて実現し、同年9月には中国人民解放軍総参謀長が訪韓するなど、各層において軍事交流が行われている。このように、韓国と中国との関係は政治経済のみならず安全保障の分野でも拡大しつつある。
 韓国とロシアとの間では、近年、国防相レベルの相互訪問を実施するなど軍高官の交流が行われている。99(同11)年にはセルゲーエフ国防相(当時)が訪韓し、両国による共同捜索救難訓練の実施などを盛り込んだ軍事交流の覚書(おぼえがき)が署名され、本年4月に行われたイワノフ国防相による訪韓で、両国は軍事技術・防衛産業・軍需分野の協力と軍事交流の促進の重要性について一致し、軍高官の相互訪問を持続的に推進していくことで合意した。一方、00(同12)年5月には趙成台国防部長官(当時)が訪露し、韓国海軍とロシア太平洋艦隊の間で緊密な連絡体制を構築することで合意している。

(2)軍事
ア 国防政策
 韓国は、全人口の約4分の1が集中する首都ソウルがDMZから至近距離にあるという防衛上の弱点を抱えている。
 韓国は、北朝鮮を「主敵」と位置付け4、「軍事的脅威」であると認識しており、その膨大な陸上戦力をはじめとする軍事力の増強を深刻な脅威と受け止め、国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)の2〜3%程度を国防費に投入してきた。ただし、近年は、国防政策の前提である軍事的脅威としては、「主敵」である北朝鮮の現実的脅威のみならず、韓国の生存権を脅かすすべての外部の軍事的脅威も含むとしている。
 なお、国防政策の前提となる原則は、相手の「企図」ではなく相手の「能力」を見極めて、これに備えることであることから、南北関係の肯定的な変化にもかかわらず、現在まで北朝鮮の軍事能力をはじめとする脅威の実体に変化がないとして、北朝鮮を「主敵」5と位置付けている。
 このような脅威認識の下に、基本的な国防政策として、次の3点を設定している。
 第一に、北朝鮮の脅威に重点的に備える国防政策から、北朝鮮のみならず将来の不確実な脅威にも同時に備える。
 第二に、能力に基づいた国防発展を追求することで、国力に見合った防衛力を整備する。
 第三に、対外的軍事関係を強化し、二国間又は多国間の戦略的協力関係を構築する。
 そして、「先進精鋭国防」の建設を国防政策の基調の1つとしている。これは、朝鮮半島統一後、軍事大国である周辺諸国との安全保障環境力学の中で、韓国の国家利益を保護し、北東アジアの安定と平和を維持するためであるとしている。具体的には、防衛態勢の自主化、国防人材の精鋭化、兵器体系の科学化、運営体系の合理化、国防の情報化などを実現することであるとしている。そして、このような未来志向的な軍の建設には、より多くの国防財源が必要となることから、所要の財源の安定的確保が政府レベルで保証されるよう、軍として努力するとしている。
イ 軍事動向
 韓国軍の勢力については、陸上戦力は、3個軍22個師団と海兵隊2個師団、合わせて約59万人、海上戦力は、3個艦隊約210隻約14.4万トン、航空戦力は、空軍・海軍を合わせて、9個戦闘航空団などF-16を含む作戦機約600機からなる。
 近年では、「国防情報化」6を目指しつつ、海・空軍を中心として近代化に努めており、潜水艦、ヘリコプター搭載駆逐艦、F-16戦闘機などの導入を進めているほか、早期警戒管制機(AWACS:Airborne Warning and Control System)の調達も計画している。次期戦闘機(FX)については昨年4月、F-15Kが選定された。また、国産駆逐艦(KDX-I、II、IIIを各3隻)の調達も進めている。この内、KDX-Iはすでに3隻就役しており、さらにKDX-II(KDX-I改良型)の3番艦が05(同17)年に、KDX-III(イージス駆逐艦)の1番艦が08(同20)年に就役予定である。韓国海軍はこの他に大型輸送艦を10(同22)年までに2隻建造する予定である。なお、本年度の国防費は、対前年度比約6.5%増となっている。
 また、韓国は、米国との取極(とりきめ)で180kmまでに制限されていたミサイルの射程を、ミサイル技術管理レジーム(MTCR:Missile Technology Control Regime)が制限射程としている300kmまで延長することを求め、95(同7)年から米国との協議を続けてきたが、01(同13)年1月に両者は合意に至り7、それを受け、韓国政府は独自のミサイル開発・生産・保有についての新しい指針を発表した。01(同13)年11月には、韓国国防科学研究所が短距離ミサイルの試験発射を行うなど、ミサイルの国産化を進めているものとみられている。



 
1)ブッシュ米大統領は被害者家族に謝罪し、金大中大統領(当時)は地位協定の改善を指示した。昨年12月の米韓安保協議でも、地位協定の運用改善について話し合われた。

 
2)海軍艦艇1隻、空軍機4機のほか、医療支援団も派遣している。

 
3)韓国国会は本年4月、「国軍部隊のイラク戦争派遣同意案」を賛成多数で可決し、同月末から5月中旬にかけて工兵部隊575名及び医療部隊100名がイラクへ派遣された。

 
4)韓国「国防白書2000」において、「主敵である北朝鮮」と規定している。

 
5)「主敵」との位置付けに対し、北朝鮮の朝鮮中央放送は昨年5月、「『主敵』という表現をこれ以上使用したり、それに固執したりするのをやめるべきである」と批判しており、「主敵」表現をめぐって国防白書の発刊が延期されたとの指摘もある。国防白書の発刊をめぐっては、韓国国防部は2001(平成13)年11月、発刊をそれまでの毎年から隔年にすることとし、次の国防白書は昨年5月に発刊する予定である旨、発表した。しかしながら、昨年5月、韓国国防部は再び国防白書の発刊を延期する旨、発表した。なお、延期について韓国国防部は、「白書の発刊と関連し、多様な意見が表出している点にも留意した」とも説明している。こうした中で、昨年12月、金大中政権(当時)の国防政策の集大成となる「1998〜2002国防政策」が発刊された。なお、この中では「主敵」表現は使われていない。

 
6)韓国「国防白書2000」において、「国防情報化は、コンピュータと情報通信技術を利用し、国防構造全般を知識・情報中心の環境へと転換するものである。その目標は、戦時においては、戦場で必要な情報をリアルタイムで提供して必勝の指揮統制を支援し、平時においては、効率的な国防資源管理により経済的な軍運営を保障することに置かれている。」とされている。そして、2015(平成27)年までに全国防衛情報システムを知識情報化社会に適合するシステムとして構築し、世界で10番以内に入る「情報化強軍」を建設するとしている。

 
7)なお、韓国は2001(平成13)年3月にMTCRに参加した。


 

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