第1章 国際軍事情勢 

軍備管理・軍縮

 近年、一部の国においては、大量破壊兵器や弾道ミサイルなどの運搬手段を含む兵器の取得や開発が顕著な形で進められている。大量破壊兵器やその運搬手段の移転・拡散が新たな脅威として懸念されており、このような兵器の移転・拡散問題への対応は、国際社会の抱える緊急の課題となっている。国連などにおいては、軍備管理・軍縮に関する様々な努力がなされている。現在、移転・拡散の防止のため、各種の不拡散体制を強化・拡充して、大量破壊兵器などの移転・拡散を防止する努力が行われているほか、通常兵器や関連汎用品・技術に関する輸出管理が行われている。

(1)大量破壊兵器・ミサイル
  ア 核兵器
 核兵器の拡散防止に関しては、核不拡散条約(NPT:Nuclear Non-Proliferation Treaty)と原子力の平和利用の促進と軍事目的への転用防止のために設立された機関である国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)の保障措置を中核とする不拡散体制が存在するほか、わが国を含む40か国が参加する原子力供給国グループ(NSG:Nuclear Suppliers Group)1により、原子力専用品及び原子力汎用品並びにその関連技術の輸出管理が行われている。NPTについては、95(同7)年のNPT運用検討・延長会議において、無期限延長が決定されるとともに、包括的核実験禁止条約(CTBT:Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty)2が発効するまで核兵器国は核実験実施を最大限自制することが合意された。さらに、00(同12)年5月、NPT運用検討会議が開催され、明確な期限があるわけではないが、核兵器全面廃絶についての核兵器国の明確な約束などを含む最終文書を採択した。NPTには、92(同4)年に中国とフランスが加入し、98(同10)年には、ブラジルも加入するなど、締約国数は188か国(昨年11月末現在)となっているが、イスラエル、インド、パキスタンなど未締結の国も存在する。
 核実験の禁止に関しては、96(同8)年、CTBTが国連総会において圧倒的な賛成多数により採択された。同年、CTBT機関(CTBTO:CTBT Organization)準備委員会が発足し、国際監視制度の整備などを進め、条約発効に向けた体制作りが始まった。01(同13)年11月にはCTBT発効促進会議が開催され、条約の早期発効のために各国に署名・批准を呼びかけ、核実験モラトリアム(一時休止)3を要請するなどの最終宣言を採択した。本年5月末現在、署名は167か国、批准は日本、英国、フランス、ロシアを含め、100か国である。条約の発効にその署名・批准が必要とされる国のうち、インド、パキスタン、北朝鮮が未署名であり、米国が批准に反対と方針を転換する4など、現在、速やかな条約発効の見通しは立っていない。
  イ 生物・化学兵器
 化学兵器については、これを全面的に禁止するとともに、その検証措置を規定した「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」(化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention))の署名式が93(同5)年に行われ、97(同9)年にわが国を含む原締約国87か国により発効し、本年3月現在、151か国が締約国となっている。CWCは化学兵器の開発、生産、取得、貯蔵、保有、移譲、使用を禁止し、その廃棄を義務付けることにより化学兵器の廃絶を目指すものである。
 生物兵器については、現行の「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」(生物兵器禁止条約(BWC:Biological Weapons Convention))が75(昭和50)年に発効し、本年5月現在、150か国が締約国となっている。BWCは生物兵器及び毒素兵器の開発・生産・貯蔵などを包括的に禁止するものである。この条約では、検証措置などが規定されていないことから、BWC強化のための検証議定書を作成する交渉が95(平成7)年から続けられてきたが、01(同13)年7月に米国が、検討されている検証措置には問題があるとしたため議定書の作成は一時中断5した。その後、米国の主張を踏まえた議長提案がなされたことと、日本をはじめとする西側諸国が合意形成に努力したことから、昨年11月、BWCを強化するための今後の作業計画が全会一致で合意された。この作業計画により、締約国は、条約の強化に関する5分野6について順次検討し、実効的な措置を打ち出すこととなった。
 このほか、生物・化学兵器の原材料・製造設備・関連技術の輸出規制を行っているオーストラリア・グループ(AG:Australia Group)に、わが国を含む33か国と欧州委員会が参加している。
  ウ ミサイル
 ミサイルや関連する機材・技術の不拡散については、わが国を含む33か国が参加するミサイル技術管理レジーム(MTCR:Missile Technology Control Regime)により、ミサイル関連機材・技術の輸出管理が行われている7。92(同4)年には、規制対象を、核兵器のみならず生物・化学兵器を含むすべての大量破壊兵器の運搬手段として使用可能なミサイルにまで拡大することが合意された。
 しかし、98(同10)年に北朝鮮が弾道ミサイル発射を行ったほか、近年、インド、パキスタン、イランがミサイル発射実験を行うなど、MTCRによる輸出管理を中心とする取組のみでは、ミサイルの自主的開発を抑制することが極めて困難であることなどが課題となっている。このため国際社会において弾道ミサイルの拡散防止のための普遍的なルール作りに向けた議論が行われた結果、昨年11月、弾道ミサイルに関する開発などの自制、弾道ミサイル政策などに関する年次報告及び発射などの事前通報といった信頼醸成措置などを定めた「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうための国際行動規範」(ICOC:International Code of Conduct against Ballistic Missile Proliferation)が発足した。
 ICOCは北朝鮮、中国、イラン、イラクなどの弾道ミサイル開発国が参加しておらず、また、条約などではなく、政治的合意であるために法的拘束力はないものの、大量破壊兵器の運搬手段である弾道ミサイルの拡散を防止する国際的枠組に先進国だけでなく途上国も加わっている点で意義がある。
 
(2)通常兵器
 通常兵器の移転・拡散については、次のような取組が行われてきている。
 まず、わが国などが中心となって国連に提案した通常兵器の移転登録制度(国連軍備登録制度)が92(同4)年に発足し、93(同5)年から登録が開始されている。本年3月末現在、116か国が00(同12)年分の登録を行っている。
 また、冷戦終結に伴い、94(同6)年に撤廃された対共産圏輸出規制委員会(COCOM:Coordinating Committee for Multilateral Strategic Export Controls)8に代わる新しい輸出管理体制について、93(同5)年から交渉が行われてきたが、96(同8)年、設立総会が開催され、ワッセナー・アレンジメント(WA:Wassenaar Arrangement)が正式発足した。このアレンジメントは、あらかじめ特定の地域を対象とすることなく、通常兵器及び機微な汎用品・技術の移転に関する透明性の増大や、より責任ある管理を実現することにより、地域の安定を損なうおそれのある通常兵器及び関連汎用品・技術の過度の移転と蓄積を防止することを目的としている9。設立当初から協議に参加していた日本、米国、ロシア、欧州諸国など28か国をはじめ、参加国は本年4月末現在で33か国となっている。
 通常兵器の使用などに関しては、従来、地雷、ブービートラップ10や焼夷(しょうい)兵器11などの使用の態様などを制限する特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW:Convention on Conventional Weapons)12がある。このうち、対人地雷については、96(同8)年ごろからオタワ・プロセス13の場などで対人地雷の全面禁止に向けた取組が行われており、97(同9)年には、対人地雷禁止条約として採択され、99(同11)年に発効した。米国、ロシア、中国などが未締結であるものの、これまでにわが国を含む134か国が締結している。
 また、近年、頻発している紛争の主要武器である小型武器(自動小銃など)は、紛争を激化・長期化させ、一般市民を含む被害者を出していること、紛争終了後も当該地域に残され、このため治安を不安定にし、復興開発を妨げる要因となっていることから、国連を中心に非合法取引の規制や過剰蓄積の削減の方途につき検討が行われており14、わが国は主導国の一つとなっている。
 さらに、民間旅客機に対するテロの脅威が現実のものとなっている今日15、携帯式地対空防衛システム(MANPADS:Man Portable Air Defense System)の拡散も大きな脅威として指摘されている。



 
1)核兵器開発に使用されうる資機材・技術の輸出管理を通じて核兵器の拡散を阻止することを目的とし、昨年12月現在40か国で構成される輸出管理レジーム。

 
2)地下核実験を含むあらゆる「核兵器の実験的爆発及び他の核爆発」を禁止する条約。

 
3)米国、中国、インド、パキスタンは、核実験モラトリアムを宣言している。

 
4)ブッシュ政権は、CTBTについて、検証体制及び兵器の維持の点から欠陥があるとしている(1999(平成11)年に上院において批准を否決)。01(同13)年1月の日米外相会談の際にも、パウエル国務長官は上記の理由で疑義を持っていると述べた。

 
5)米国は、BWCを支持しているが、検証議定書案では、生物兵器の開発を阻止することが難しく、また安全保障などが危険にさらされるとして、BWC強化のために検証議定書は必ずしも必要ではないとしている。また、2001(同13)年11月には、議定書作成の代替として、条約違反行為に罰則を課すため各締約国が立法措置をとることや危険な微生物の管理強化などを含む、独自のBWC強化策を提案した。

 
6)条約強化の5分野とは、「1)条約の禁止事項を実施するための国内措置(刑罰法規の策定含む)、2)病原菌・毒素の安全管理・監視体制を確立するための国内措置、3)生物兵器の使用の疑惑及び疑義のある疾病の発生に対処し、調査・被害の緩和を行うための国際的対応能力の強化、4)感染症の監視・探知・診断に対処するための国内・国際的努力の強化、5)科学者のための行動規範」を指す。

 
7)搭載能力500kg以上、射程300km以上のミサイルや関連する機材・技術は、原則的に輸出が禁止される。これに該当しなくても、大量破壊兵器の運搬に使用される懸念がある場合には、輸出が制限される。

 
8)旧共産圏に対する戦略物資及び技術の輸出規制を目的とした輸出規制委員会。1949(昭和24)年設立、94(平成6)年解消。

 
9)2001(平成13)年12月、テロリストによる通常兵器及び汎用品・技術の取得の防止に努めることが、ワッセナー・アレンジメントの細目を定める基本文書に明記された。

 
10)外見上は無害であるが、近寄ったり触れたりすると突然機能する、殺傷を目的とする装置。

 
11)物質の化学反応による火炎や高熱により、火災を生じさせたり、人に火傷を負わせたりすることを目的とする武器。

 
12)2001(平成13)年12月、条約の適用範囲を国際紛争に加えて内乱などにも拡大するため、条約を改正することが決定された。

 
13)1996(平成8)年10月、対人地雷の禁止に関するカナダ主催の国際会議で始まった多国間交渉のことで、97(同9)年12月の対人地雷禁止(オタワ)条約調印へ至った。

 
14)2001(平成13)年7月の国連小型武器会議において、小型武器の非合法取引の規制や回収・破壊のための国際協力などを盛り込んだ「最終文書(行動計画)」が採択された。

 
15)昨年11月28日、ケニアのモンバサにおいて、約270人の乗員・乗客の乗ったイスラエルの民間航空機が旧ソ連製の携帯型地対空ミサイルの攻撃を受ける事件が発生した。携帯型ミサイルは安価で1人でも取り扱えるうえに、それが民間航空機に対して使用された場合には人的損害が大きくなるという特徴を持っている。


 

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