第1章 国際軍事情勢 

3 国際連合などによる国際社会の安定化のための努力

国連平和維持活動(PKO:Peace-keeping Operations)

 国連は、第二次世界大戦末期、当時の連合国を中心として戦後の国際の平和と安全の維持のために設立された。しかしながら、国連設立後、東西対立が激化したこともあり、国連憲章に規定された平和維持の制度は必ずしも十分に機能しなかった。
 冷戦の終結により、東西対立の時代に比して、主要国間の協調が図られるようになり、国連が国際の平和と安全を維持する事例も増加した。

(1)冷戦後の国連平和維持活動
 国連平和維持活動は、伝統的には、停戦の合意が成立した後に、停戦監視などを中心として、紛争の再発を防止することを主たる目的として行われてきた。このような活動を行う中で、紛争当事者間で停戦の合意があること、紛争当事者の受け入れ同意があること、中立性を保つこと、武器の使用は自衛の場合に限ることなどの原則が慣行として確立した。
 冷戦の終結により、地域紛争の処理や予防に関して、安保理を中心とする国連の役割に対する期待が高まるとともに、国際社会が対応を迫られる紛争の多くが国家間の紛争から一国内における紛争へと変わった結果、国連による平和維持活動の任務は、武装解除の監視、選挙や行政監視、難民帰還などの人道支援など、文民の活動を含む幅広い分野にわたるようになり、活動の規模も拡大した。また、国連憲章第7章の下で、武装解除などに関し強制措置をとり得るとされる活動や、紛争を未然に防止する目的を持った活動も行われるようになった1
 しかし、複雑な背景を有する紛争について、主要国の利害関係や思惑が錯綜している場合には、対応策については必ずしも合意が形成されない例が見られることも同時に明らかになってきている。さらに、国連平和維持活動について、与えられる任務に必要な要員や機材を確保できるかといった問題も抱えている。
 国連及び関係国は、こうした多様な活動の経験を踏まえ、PKOの効果的な実施のための方策について議論を行ってきた。2000(平成12)年8月には、国連平和活動検討パネルが、紛争予防、平和維持、平和構築からなる一連の平和活動を国連がより効率的、実効的に行えるよう、様々な角度から勧告する報告書を公表した2。報告書の勧告には、要員派遣国との協力強化を図る協議、国連平和維持活動局(国連PKO局)の人員増強3などが含まれていた。これらを受けて、安保理などで審議が行われ、PKOの迅速な展開を可能にするための国連待機制度に本年2月現在で75か国が参加するなどの成果が現れている。
 なお、本年4月末現在、国連平和維持活動の要員は、約3万7,000人となっている。

 
国連平和維持活動が行われている地域(2003.5.31現在)

(2)国連要員の安全確保
 国連平和維持活動における国連要員の犠牲者数は、強制措置を伴う第2次国連ソマリア活動(UNOSOMII:United Nations Operation in SomaliaII)や国連防護隊(UNPROFOR:United Nations Protection Force)などの活動が行われていた93(同5)年をピークに減少している。しかし、本年4月末までの犠牲者は1,817人に達し、国連平和維持活動などに携わる要員の早急な安全確保が望まれている。94(同6)年には、「国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約」が採択され、各締約国に対し、国連要員などに対する殺人、攻撃、誘拐などの行為を犯罪とすること、一定の場合に当該犯罪についての裁判権を設定すること、一定の場合に当該犯罪を引渡犯罪とすることなどを義務付けた。98(同10)年には、この条約の発効に必要な22か国が締結し、99(同11)年に発効している4



 
1)国連カンボジア暫定機構(UNTAC)や国連モザンビーク活動(ONUMOZ)は、軍事部門及び文民部門に及ぶ様々な機能を成功させて活動を終了した。一方、強制行動を行う権限を与えられた第2次国連ソマリア活動(UNOSOMII)は所期の目的を達成することなく撤収した。また、ボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァやルワンダでは、国連が関与したにもかかわらず、国際社会が十分な対応をしなかったため、民族浄化や、市民の大量殺害を防ぐことができなかった。国連は、現在も国連東ティモール支援団(UNMISET)などの大規模かつ多機能なPKOを運営している。一方で、いわゆる伝統的なPKOも引き続き重要な役割を果たしている。2000(平成12)年に設立された国連エチオピア・エリトリア・ミッション(UNMEE)は、二国間の停戦合意の監視などを任務とするPKOである。

 
2)いわゆるブラヒミ報告書の主要な勧告の項目は次のとおりである。1)紛争予防、2)平和構築、3)PKOの原則と戦略、4)PKOの任務と安保理との関係、5)緊急展開と待機制度、6)情報収集・分析能力強化、7)後方支援拡充と本部による支援能力の強化。

 
3)2000(平成12)年に93ポストの増員が認められ、翌年にはさらに91ポストの増員が認められた。

 
4)わが国は、2番目の締約国として1995(平成7)年にこの条約を締結した。


 

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