第1章 国際軍事情勢 

武力紛争など

(1)内戦などの地域紛争
 スリランカでは、多数派のシンハラ人優遇政策に対して、少数派のタミル人による独立国家建設を目指す過激派組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE:The Liberation Tiger of Tamil Eelam)による武装闘争が行われてきた。昨年2月、スリランカ政府とLTTEは無期限停戦の合意文書に調印、9月からは和平のための協議が行われており、12月にはタミル人の多く居住する北部・東部につき、統一国家の枠内で連邦制を導入して問題解決を目指すことで合意した1
 ルワンダとブルンジでは、1994(平成6)年以降、部族対立から虐殺や難民・国内避難民が発生し、難民らの帰還も問題となった。コンゴ民主共和国(旧ザイール)でも98(同10)年に内戦が勃発し、ルワンダ、ウガンダが両国の反政府勢力の掃討などを目的に同国へ軍隊を派遣する一方、アンゴラ、ナミビア、ジンバブエなどはコンゴ政府支援のために軍事介入を行った。しかし、昨年10月に周辺国軍隊の撤兵が基本的に完了し、12月、政府と主要反政府勢力は本年1月末までの暫定政権発足で合意した2。しかし、同国北東部では部族紛争が再燃し、虐殺や難民の発生などが起きており、強制行動をとる権限のない国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC:United Nations Organization Mission in the Democratic Republic of Congo)では対処できないことから、安保理決議に基づき、本年6月から暫定緊急多国籍軍が派遣されている。
 コートジボワール共和国では、昨年9月、退役を拒否する軍人らが反乱を起こし、国土のほぼ北半分を制圧した。旧宗主国であるフランス及び西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS:Economic Community of West African States)などにより調停努力が行われ、フランス軍が停戦監視任務に当たり、ECOWASはフランス軍から停戦監視任務を引き継ぐ部隊の派遣を決定した。しかし調停は難航し、11月には西部で新たに反政府勢力2派が蜂起、駐留仏軍と交戦した。本年1月には政府と反政府勢力との間に停戦合意が成立し、パリで和平協定が締結されたものの、政府側が合意内容の履行に消極的であることから、依然として不安定な情勢が続いている。

 
主な紛争・対立地域

(2)国際社会による地域紛争への軍事力行使
 地域紛争に伴い発生した大規模な人権侵害や大量の難民発生あるいはテロなどの多様な事態が国際化している。そうしたことから、国際社会が紛争を解決するため、政治的・外交的解決を重視し、優先させる流れにはあるが、積極的に軍事力を使用する事例もみられるようになっている。
 ソマリアでは、91(同3)年1月、69(昭和44)年10月にクーデタにより実権を掌握したバーレ政権が崩壊して以降、「氏族」と呼ばれる伝統的な血縁集団が主導権を巡って争い、内戦状態に陥った。内戦の激化に干ばつが重なり、深刻な飢餓が発生し、被災民救済のために国連は92(平成4)年4月、国連ソマリア活動(UNOSOM:United Nations Operation in Somalia)を設立し3、93(同5)年5月には、武装解除など強制措置をとることが認められる活動(UNOSOMII)が、アメリカ、インドなど22か国が参加して行われるに至ったが、現地武装勢力との間で武力衝突が発生し、95(同7)年3月に完全撤収し、現在も、依然として国内において紛争が続いている状況である。
 ユーゴスラビア連邦共和国(当時)4のコソボでは、ユーゴ連邦政府などとアルバニア系住民独立勢力との武力衝突に端を発した非人道的な事態の停止を目的として、99(同11)年、NATOによるユーゴ空爆が行われる一方、ユーゴ連邦軍やセルビア治安部隊などがコソボにおけるアルバニア系住民の弾圧をさらに強化したことから、大量の難民が発生した。ユーゴ連邦政府は、G8が合意したコソボ紛争の政治解決のための原則を基に米国、ロシアと欧州連合(EU:European Union)が提示した和平案を同年に受諾し、コソボには安保理決議の承認を受けてNATOを主体とし、ロシア、スイスなども参加する国際安全保障部隊(KFOR:Kosovo Force)が展開された。



 
1)本年6月、スリランカ復興開発に関する東京会議が開催されたが、LTTEは本年4月以来、和平協議への参加中断を表明しており、東京会議も欠席した。

 
2)1999(平成11)年、紛争関係6か国及び反政府勢力との合意が成立したことから、国連安保理決議により国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC)が創設され、昨年12月には平和維持部隊の人員がおよそ2倍の8,700人に増員された。

 
3)1992(平成4)年12月には、米軍を中核とする統一タスクフォースが展開され、その後UNOSOMIIに継承された。

 
4)本年2月、ユーゴスラビア連邦議会で新憲法案・新憲法施行法案が採択、公布され、「ユーゴスラビア連邦共和国」という国名は消滅し、「セルビア・モンテネグロ」という国名に変更された。


 

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