国際平和協力業務のうち、国連平和維持活動のために自衛隊部隊により行われる業務は、平和維持隊のいわゆる本体業務と後方支援業務に分けられる。
平和維持隊とは、通常武器を携行しない停戦監視団の要員は別として、部隊などが参加する国連平和維持活動の組織を一般的に指すものであり、その本体業務とは、武装解除の監視、緩衝地帯などにおける駐留・巡回、検問、放棄された武器の処分などの業務をいい、その後方支援業務とは、本体業務を支援する医療、輸送、通信、建設などの業務を指す。
自衛隊の「部隊等」(注4−21)による、平和維持隊本体業務(PKF本体業務)については、国際平和協力法案の国会審議の過程で、内外の一層の理解と支持を得るため、別に法律で定める日までの間は、これを行わないこととされた(PKF本体業務の凍結)(注4−22)。
国際平和協力法施行以来、自衛隊の部隊としては、平和維持隊の後方支援業務及び人道的な国際救援活動への協力を行ってきたが、過去9年間において6回にわたる派遣を行い、着実に実績と経験を積み上げてきた。
このような努力に対し、わが国が国連を中心とした国際平和のための努力に積極的に貢献することについて、内外の期待が高まってきていることを受け(注4−23)、昨年11月、PKF本体業務の凍結解除(注4−24)を含む国際平和協力法改正案が第153回臨時国会に提出され、同年12月に成立した。
国際平和協力法が施行された後、派遣の経験を積み重ねるにつれて国際平和協力業務に従事する自衛官に必要な武器使用のあり方について、いくつかの問題点が提起された。そして、98(同10)年の同法の改正により、それまで個々の隊員の判断とされていた武器の使用について、現場に上官がいるときは、原則として、その命令によらなければならないものとされた。
さらに、今般、PKF本体業務凍結解除に併せて、国際平和協力業務の一層の円滑な実施を確保するため、武器を使用して防衛できる対象の拡大及び武器などの防護のための武器の使用について同法の改正が行われた。
武器の使用による防衛対象の拡大
国際平和協力法においては、武器の使用により防衛することができる対象は、自己又は自己とともに現場に所在する他の国際平和協力隊員に限られていた。
しかしながら、平和維持隊に参加する各国の部隊の要員が選挙監視要員などと同一の場所で活動することはあり得るし、また、平和維持隊が他の国際平和協力業務を行う者と複合的に展開されるケースが増加している。このため、国際平和協力業務に従事する自衛官などが行う活動の態様や場所、どのような者がその職務に関連して行動をともにすることが想定されるかなどの実態を考慮し、いかなる範囲が防衛対象として適当であるか検討してきた。
このような検討の結果、職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者(注4−25)を武器の使用による防衛対象に加えることを内容とする改正を行った。このような者の生命又は身体を防衛するための必要最小限の武器の使用は、「いわば自己保存のための自然権的権利というべきもの」であって、憲法上の問題を生じるものではなく、また、国際平和協力業務の円滑な実施にも資するものである。
武器などの防護のための武器の使用
自衛隊法第95条の規定(資料72参照)により、武器、船舶、航空機、車両などを職務上警護する自衛官は、これらの武器などを防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。この規定は、原則として海外においても適用されるが、国際平和協力法においては、派遣先国において国際平和協力業務に従事する自衛官については、適用しないこととされていた。
しかしながら、国際平和協力法の施行以来約9年が経過し、これまで6回におよぶ自衛隊の国際平和協力業務の実施の経験を踏まえると
ア 実際に窃盗グループのような者が自衛隊の通信機材などを盗むといった事態が生じたが、こうした窃盗グループに対しては武器による威嚇(いかく)などを行ったとしても、事態を混乱させるようなことはないと考えられること
イ 武器などの破壊・奪取を看過することにより、隊員の緊急事態への対応能力の低下や治安の悪化につながることも想定されること
といった点が認識されるようになった。
このような事情を踏まえ、派遣先国において国際平和協力業務に従事している自衛官について、自衛隊法第95条の規定を適用し、武器などの防護のための武器の使用を可能とする改正を行った。