〔第3節〕防衛力を支える基盤


防衛生産技術基盤の維持

(1) 防衛生産

    装備品などの生産には、多種多様な分野の最先端技術を結集していくことが要求されており、一般的に装備の面から見た防衛力は、工業力を中心としたその国の産業力を基盤にしていると言える。このため、健全な防衛産業の存在は、適切な防衛力を確保する重要な前提であると考えている。
    我が国の防衛生産の特色としては、航空機や艦艇から被服、食品までを含む非常に幅の広い各種の産業分野から構成されていること、主たる契約の企業だけでなく、各種の部品の製造を行う下請けなどの関連企業が多数存在しており、極めて裾野の広いことが挙げられる。また、武器輸出三原則などの政策により、その需要が国内に限定されているという特色もある。
    防衛生産の総額が国内の工業生産に占める割合は、おおむね0.6%程度であり、防衛産業各社の売上高に占める防衛生産の割合も、平均数パーセント程度にとどまっている。しかしながら、航空機や武器弾薬の産業分野では、防衛庁の装備調達に需要の大半を依存している。
    防衛産業をめぐる環境は、厳しい状況の継続が予想される。企業においては、経営の合理化・効率化が推進されているが、こうした過程を通じて技術者などの離散が生じる場合には、防衛生産・技術基盤の維持・確保にも支障を来すことにもなりかねない。
    防衛庁としては、装備のハイテク化・近代化への対応、我が国の国土・国情に合った適切な装備の取得・維持・補給、あるいは、緊急時の急速取得などの点から、健全な防衛産業の存在が重要であると考えている。

(2) 技術研究開発

    最近の科学技術の進歩に伴う装備の高性能化には著しいものがあり、今や最先端技術を有していること自体が抑止力の向上につながるといっても過言ではない。この意味で、今後とも質の高い技術を維持することは非常に重要である。
    また、自主技術による国産装備は、国土・国情に適し、改良・改善、維持・補給が容易といった利点がある。
    防衛庁は従来から、優れた民間技術力を積極的に活用して技術研究開発を行っており、こうした民間技術は、装備の技術研究開発を進める上で力強い基盤となっている。しかしながら、防衛産業内の人員整理、研究開発投資の低迷、防衛予算の抑制傾向など環境が変化しており、技術研究開発の円滑な推進にとって困難な状況が生まれつつある。
    防衛庁としては、技術研究開発の一層の効率化に努めるとともに、将来の技術動向や発展性などを踏まえた事業の選択により、防衛技術基盤の維持・育成に効果的な技術研究開発を推進していくことが必要であると考えている。

(3) 取得改革

    今日のように、装備調達のための予算が制約を受ける一方で各種コストが増加している状況では、装備品の取得についての改善を、より総合的な視点から行っていく必要がある。
    本年5月、防衛庁は、「取得改革委員会」を発足させた。同委員会においては、今後、防衛庁独自の規格・仕様などの見直し、ライフサイクルコストの抑制に資する技術研究開発の推進など幅広い検討を行っていくこととしている。

人材の確保・育成

    組織の基盤は「人」である。自衛隊としても、その任務を確実に遂行するためには、質の高い人材を確保するとともに、隊員の高い士気を維持することが必要である。
    自衛官などの募集は、その時々の雇用情勢などに左右されるため一概には言えないが、一般的には、今後、中長期的な募集環境は厳しいものになることが予想される。
    防衛庁では、「人材確保対策会議」を発足させ、人材の確保に有効な施策について幅広く検討を行っている。
    人材の育成についても、自衛隊の任務の国際化と多様化に対応して、特に、外国語や国 際関係などについての知識・感覚を持った人材の育成が重要となっている。また、軍事技術の高度化などに伴い、技術の修得などに長期間が必要になってきており、この点も考慮しなければならない。


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