〔第3節〕我が国周辺の軍事情勢


全般情勢(第1図参照)

    冷戦終結後、我が国周辺地域においては、軍事情勢に変化が見られる。極東ロシア軍は、90年以降、量的に縮小傾向にあるとともに、即応態勢も低下していると見られる。また、韓国とソ連、韓国と中国との間の国交樹立、米国とヴィエトナムの関係正常化、中露間の関係改善など、外交関係にも変化が見られ、さらに、ARFの設立など、域内の安定化に向けた努力が見られる。
    しかし、この地域には、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、世界で最も著しい経済成長を背景に、多くの国々が国防費の増額や新装備の導入など軍事力の拡充・近代化を図っている。また、この地域には、我が国の北方領土、朝鮮半島、南沙群島などの諸問題が依然として未解決のまま存在しており、当面、欧州において生起したような大きな変化が見られるような状況にはない。

朝鮮半島

  1. 朝鮮半島は、地理的、歴史的に我が国と密接な関係にある。また、朝鮮半島の平和と 安定は、我が国を含む東アジア全域の平和と安定にとって重要である。

  2. 北朝鮮は、長期にわたる経済不振が続いており、特に食糧事情についてはかなり深刻 な状況にあるものと見られる。また、金正日書記は、制度上は軍を完全に掌握する立場にあるものの、国家首席、党総書記という国家・党の最高ポストは空席のままである。外交面では、かつて北朝鮮を支えてきたロシア及び中国との関係に変化が見られる。

  3. 米・韓両国は、本年4月の米・韓首脳会談後の共同発表の中で、新しい恒久的な平和体制の追求は、南北朝鮮が主導することを確認するとともに、朝鮮半島における恒久的な平和協定を達成することを目指す過程を開始するため、韓国、北朝鮮、中国及び米国による「4者会合」を提案した。

  4. こうした中で、依然として韓国と北朝鮮を合わせて150万人を超える地上軍が非武装地帯(DMZ)を挟んで対峙している。このような軍事的対峙の状況は、朝鮮戦争終了以降続いており、冷戦後も基本的に変化していない。また、北朝鮮は核兵器開発疑惑を持たれているほか、弾道ミサイルの長射程化のための研究開発を行っていると見られており、北朝鮮のこのような動きは朝鮮半島の軍事的緊張を高め、我が国を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。

極東ロシア軍

  1. 現在、極東ロシア軍は、依然として核戦力を含む大規模かつ近代化された戦力が蓄積された状態にあり、部分的ではあるが、更新・近代化が続けられている。

  2. しかしながら、量的には90年以降縮小傾向にあり、また、即応態勢を維持しているのは戦略核部隊などに限られ、一般の部隊については低下しているものと見られている。

  3. 今後の動向は、ロシア国内の不安定かつ流動的な政治・経済情勢とあいまって不透明であり、極東ロシア軍の今後の動向も不確実なものとなっており、注目していく必要がある。

  4. 北方領土におけるロシア軍の人員数は、近年減少傾向にあり、現在旅団規模程度まで縮小していると見られる。本年3月の日露外相会談におけるプリマコフ外相及び本年4月の日露防衛首脳会談におけるグラチョフ国防相の発言において、北方領土に駐留するロシア軍は約3,500人で、色丹島には軍隊が駐留していないことが明らかにされた。

  5. 我が国周辺におけるロシア軍の活動は、艦艇、航空機の行動に減少傾向が見られると ともに、我が国に近接した地域における演習・訓練も極めて低調になっていると見られる。

中国(第2図参照)

  1. 中国は、経済建設を最重要課題として改革開放路線を推進してきており、その前提と なる安定的な環境を維持するため、外交的に周辺諸国との関係改善と交流拡大を進めることを基本としつつ、国防力の近代化・強化に努めている。

  2. 台湾との関係は、近年、経済関係及び人的交流が深まっているものの、最近、台湾が国際社会において地位向上を目指す動きを示していることに対し、極めて警戒的である。
    特に、本年3月、台湾の「総統」選挙の前後に、台湾近海において、地対地ミサイル発射訓練などの軍事演習を連続して実施し、台湾海峡において一時緊張が高まった。

  3. 中国は現在、軍事力について「量」から「質」への転換を図り、近代戦に対応できる正規戦主体の態勢へ移行しつつある。装備の近代化に当たっては、核戦力及び海・空軍を中心としており、また、運用面での近代化を図ることなどを目的として、近年、大規模な演習を頻繁に実施している。

  4. 中国は、海・空軍力の近代化と合わせて、近年、海洋における活動範囲を拡大する動 きを見せている。

  5. 中国の軍事力近代化は、同国が経済建設を当面の最重要課題としていることなどから、今後も漸進的に進むものと見られるが、核戦力や海・空軍力の近代化の推進、海洋における活動範囲の拡大、台湾周辺での軍事演習による台湾海峡の緊張の高まりなど、その動向には注目していく必要がある。

東南アジア

    ASEAN諸国においては、経済力の拡大に加え、インフレなどの影響もあって、国防費は高い伸び率を示しており、新型の戦闘機や艦艇の導入など、装備の近代化を進めている。同時に、この地域では、近年、ASEANを中心として、地域の安定・発展を目指した積極的な動きが見られ、ARFのほか本年3月には初のアジア欧州会合(ASEM)がバンコクで開催された。一方で、この地域には、南沙群島などの領有権をめぐる対立や、少数民族問題などが不安定要素として存在している。

アジア太平洋地域の米軍

  1. 米国は、アジア太平洋地域の平和と安定のために、引き続き重要な役割を果しており、軍事的には、この地域に陸・海・空軍及び海兵隊の統合軍である太平洋軍を配置している。

  2. 米国がアジア太平洋地域に今後も約10万人の戦力を維持することは、93年9月に発表された「ボトムアップ・レビュー」及び昨年2月に発表された「米国の東アジア・太平洋地域における安全保障戦略」(EASR)において確認されたが、さらに、本年4月の「日米安全保障共同宣言」においても、日本におけるほぼ現在の水準を含め、この地域に約10万人の前方展開戦力を維持することが必要であることが再確認された。

ASEAN地域フォーラム(ARF)

    1993年7月、ASEAN外相会議及び同拡大外相会議において、アジア太平洋地域の政治・安全保障対話を行うARFの創設が合意され、一昨年7月に第1回会合がバンコクで、昨年8月に第2回会合がブルネイで開催された。ARFは、現状では、欧州において見られるような地域的な安全保障の枠組みとは言い難いが、域内外の外相が参加する、この地域における安全保障に関するハイ・レベルの多国間対話のほとんど唯一の場を提供しているとともに、国防当局からの参加を得た各種政府間会合が開催されているという意味で非常に重要であり、ARFの今後の動向が注目される。

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