第3章わが国防衛の今後の課題


第1節自衛隊を取り巻く環境の変化

冷戦終結という歴史的な変化の下で、わが国の安全保障の在り方、とりわけ今後のわが国の防衛力が果たすべき役割とわが国の防衛力の在り方が問われている。今後の防衛力のあるべき姿については、現在の中期防において、計画の期間中(95年度まで)に結論を得ることとされており、現在政府は精力的に検討作業を進めている。

  1. 安全保障環境の変化

    国際社会の課題は、冷戦下におけるような東西間の大規模武力紛争の未然防止から、地域紛争や大量破壊兵器などの移転・拡散への対応など安定的な国際社会の実現に重点が移りつつある。

    このような中で、冷戦下に比べ、より大きな役割を果たすことを期待されている国連、各種の地域的取極、地域的な安全保障の枠組みなどを通じて、各国が協力しつつ国際的な課題を解決するという方向が模索されているが、いまだ先行きは不透明であり、明確な方向性が現れるには至っていない。

    このような国際情勢の変化、それに伴う国際的な課題の変化、そしてその解決に向けた国際社会の積極的な取組みを背景として、国際社会において、わが国にも、国連平和維持活動への参加を始めとする、安定的な安全保障環境の構築に向けた幅広い役割が求められている。

  2. 軍事技術の動向

    近年、エレクトロニクス技術や材料技術などの発展により、通常兵器の精密誘導技術、目標探知技術、指揮・通信技術などの性能向上が図られた。今後とも質の高い技術水準を維持することは、抑止力を高める観点からも非常に重要であり、各国とも冷戦終結後も技術水準の維持・向上に意を注いでいる。

  3. 国内的諸条件

    1. 募集対象人口

      18歳以上27歳未満という2士男子の募集対象人口は、94年の約900万人をピークに、95年度以降においては、急激に減少する見込みである。今後の具体的な募集の可能性については、将来の労働需給状況や企業における採用計画など経済事情によるところが大きく、予想することは難しいが、長期的視点に立てば、絶対的な募集対象人口が減少していくと見込まれる。

    2. 防衛施設

      わが国の地理的特性から狭い平野部に都市や諸産業と防衛施設が競合しており、特に経済発展の過程において多くの防衛施設の周辺地域の都市化が進んだ。この結果、防衛施設の設置や運用が制約されるという問題が多くなっており、防衛施設と周辺環境との調和を図るよう努めている状況にある。

    3. 国民意識

      ペルシャ湾における掃海作業、カンボディアなどにおける国際平和協力業務、各種の災害派遣などを通じて、国民の間に自衛隊の活動に対する認識が具体的なものとして広まっている。かつての「自衛隊は是が非か」という観念的議論から、身近な問題に係るより具体的な活動への評価に国民の関心が移っていると言える。

      他方で、冷戦の終結という国際情勢の変化を受けて、わが国の防衛力をどう見直していくかに国民の関心が集まっている。

    4. 財政事情

      わが国財政は、巨額の公債残高に伴う国債費負担が政策的経費を圧迫するなど、構造的にますます厳しさを増している。これに加え、93年度決算において税収が3年連続して減少し、初めて2年連続して決算上の不足を生じるという極めて異例な事態となり、その後の税収動向にも厳しいものが見込まれるなどわが国の財政事情は一段と深刻さを増すに至っている。


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