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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

防衛白書トップ > 第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段) > 第1章 わが国自身の防衛体制 > 第3節 宇宙・サイバー・電磁波の領域での対応 > ➊ 宇宙領域での対応

第3節 宇宙・サイバー・電磁波の領域での対応

防衛大綱における、防衛力の果たすべき役割のうち、「③あらゆる段階における宇宙・サイバー・電磁波の領域での対応」の考え方は次のとおりである。

平素から、宇宙・サイバー・電磁波の領域において、自衛隊の活動を妨げる行為を未然に防止するため、常時継続的に監視し、関連する情報の収集・分析を行うとともに、かかる行為の発生時には、速やかに事象を特定し、被害の局限、被害復旧などを迅速に行う。また、わが国への攻撃に際しては、こうした対応に加え、宇宙・サイバー・電磁波の領域を活用して攻撃を阻止・排除する。

さらに、社会全般が宇宙空間やサイバー空間への依存を高めていく傾向などを踏まえ、関係機関との適切な連携・役割分担のもと、政府全体としての総合的な取組に寄与する。

➊ 宇宙領域での対応

1 政府全体としての取組

16(平成28)年4月に内閣府に設置された宇宙開発戦略推進事務局1が、政府全体の宇宙開発利用に関する政策の企画・立案・調整などを行っている。宇宙政策を巡る環境の変化や、13(平成25)年に閣議決定された国家安全保障戦略を踏まえ、20(令和2)年6月には、内閣に設置されている宇宙開発戦略本部において、宇宙基本計画が決定された。この計画は、宇宙安全保障上の観点からの施策も含め、必要な予算を十分に確保して、政府を挙げて宇宙政策を強化するための、今後20年程度を見据えた10年間の長期整備計画となっており、①多様な国益への貢献、②産業・科学技術基盤を始めとするわが国の宇宙活動を支える総合的基盤の強化を目標としている。そして、多様な国益への貢献として、①宇宙安全保障の確保、②災害対策・国土強靭化や地球規模課題の解決への貢献、③宇宙科学・探査による新たな知の創造、④宇宙を推進力とする経済成長とイノベーションの実現を進めていくこととしている。

16(平成28)年11月には、わが国の宇宙開発利用の進展に対応していくため、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(宇宙活動法)、及び衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律(衛星リモセン法)が国会にて可決され、17(平成29)年11月には、宇宙活動法の一部及び衛星リモセン法が施行された。また、18(平成30)年11月には、宇宙活動法が本施行された。

宇宙活動法では、打上げの許可制や、賠償措置義務、政府補償など、わが国の宇宙開発及び利用における公共の安全確保及び当該損害の被害者の迅速な保護を図るために必要な事項が定められた。また、衛星リモセン法では、①リモセン装置の使用の許可、②リモセン記録(いわゆる衛星画像)を取扱う者の認定や③衛星リモセン記録の提供の禁止の制度などが定められた。

2 防衛省・自衛隊の取組

情報収集、通信、測位などのための人工衛星の活用は領域横断(クロス・ドメイン)作戦の実現に不可欠である一方、宇宙空間の安定的利用に対する脅威は増大している。

防衛省・自衛隊では、これまでも、人工衛星を活用した情報収集能力や指揮統制・情報通信能力の強化、宇宙状況監視の取組などを通じて、効果的・安定的な宇宙空間の利用確保に努めてきたが、今後は、これまでの取組に加え、中期防に基づき、①宇宙空間の安定的利用を確保するための宇宙状況監視(SSA:Space Situational Awareness)体制の構築、②宇宙領域を活用した情報収集、通信、測位などの各種能力の向上、③電磁波領域と連携して、相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力を含め、平時から有事までのあらゆる段階において宇宙利用の優位を確保するための能力の強化に取り組んでいくこととしている。

また、こうした取組に際しては、④宇宙航空研究開発機構(JAXA:Japan Aerospace Exploration Agency)などの関係機関や米国などの関係国との連携強化を図るとともに、宇宙領域を専門とする部隊や職種の新設などの体制構築や、宇宙分野での人材育成と知見の蓄積を進めることとしている。令和2(2020)年度においては、宇宙領域における統合運用にかかる企画立案機能を担う組織として、統合幕僚監部に「宇宙領域企画班(仮称)」を新設することとしている。

参照図表III-1-3-1(安全保障分野における宇宙利用のイメージ)

図表III-1-3-1 安全保障分野における宇宙利用のイメージ

(1)宇宙状況監視(SSA)体制の構築

宇宙空間を利用するにあたっては、その安定的な利用を確保する必要がある。しかしながら、宇宙空間において、宇宙ゴミ(スペースデブリ)が急激に増加しており、スペースデブリと人工衛星が衝突して衛星の機能が著しく損われる危険性が増大している。

また、人工衛星に接近して妨害・攻撃・捕獲するキラー衛星の開発・実証試験が進められていると指摘されており、宇宙空間の安定的利用に対する脅威が増大している。

このため、防衛省としては、宇宙基本計画を踏まえ、JAXAなどの国内関係機関や米国と連携しつつ、宇宙を監視し、正確に状況を認識するための宇宙状況監視(SSA)体制を令和4(2022)年度までに構築することを目指しており、わが国の人工衛星にとって脅威となる宇宙ゴミなどを監視するためのレーダーと情報の収集・処理・共有などを行う運用システムの整備を進めている。また、空自において、それらを運用する宇宙領域専門部隊として宇宙作戦隊を20(令和2)年5月に新編し、本格的なSSAの運用開始や装備品の導入に先立って、①宇宙領域にかかる部隊運用の検討、②宇宙領域の知見を持つ人材の育成、③JAXAや米国などとの連携体制の構築などを進めている。

河野防衛大臣から隊旗を授与される宇宙作戦隊長(20(令和2)年5月)

河野防衛大臣から隊旗を授与される宇宙作戦隊長(20(令和2)年5月)

その際、関係政府機関などが一体となった効果的な運用体制を構築していく必要がある。この点、JAXAは、低高度周回軌道(高度1,000km以下)を監視する能力を有するレーダー及び静止軌道(高度約3万6,000km)を監視する能力を有する光学望遠鏡を整備する計画を進めており、防衛省が整備する主として静止軌道を監視する能力を有するレーダーと合わせ、わが国として効率良く宇宙空間を監視する体制が整う計画となっている。また、運用システムについては、令和4(2022)年度までに、JAXAに加え、米軍のシステムとも連接するよう、必要な調整を進めている。

さらに、今後は、前述のわが国の人工衛星にとって脅威となる宇宙ゴミなどを監視するためのレーダーに加えて、相互補完的な監視を可能とする宇宙設置型光学望遠鏡であるSSA衛星や、低軌道の人工衛星との距離を計測する地上設置型SSAレーザー測距装置を導入することとしており、令和2(2020)年度予算においては、SSA衛星の構成品の取得に必要な経費を計上した。

参照図表III-1-3-2(宇宙状況監視(SSA)体制構築に向けた取組)

図表III-1-3-2 宇宙状況監視(SSA)体制構築に向けた取組

(2)宇宙領域を活用した情報収集、通信、測位などの各種能力の向上

防衛省・自衛隊では、これまでも人工衛星を活用した情報収集、通信、測位などを行ってきたが、防衛省・自衛隊が任務を効果的かつ効率的に遂行していくためには、これらの各種能力をさらに充実させる必要がある。

このため、情報収集・警戒監視については、情報収集衛星(IGS:Information Gathering Satellite)、超小型衛星を含む商用衛星などの利用による衛星画像の重層的な取得を通じ、情報収集能力の強化を図ることとしている。また、引き続き、JAXAが運用する人工衛星(ALOS-2)から得られる画像や、船舶自動識別装置(AIS:Automatic Identification System)などからの情報を利用するとともに、2波長赤外線センサの研究2を行っていくこととしている。

通信については、これまで、部隊運用で極めて重要な指揮統制などの情報通信に使用するため、17(平成29)年1月、防衛省として初めて所有・運用するXバンド防衛通信衛星「きらめき2号」を、18(平成30)年4月には「きらめき1号」を打ち上げた。今後、将来の通信所要などの増大を踏まえ、通信の統合化や高速・大容量化を図るため、「きらめき3号」の着実な整備を進め、Xバンド防衛通信衛星全3機体制の早期実現を目指すとともに、次期防衛通信衛星の調査研究を行う予定である。

測位については、これまで、多数の装備品にGPS受信端末を搭載し、精度の高い自己位置の測定や誘導弾の誘導精度向上など、高度な部隊行動を支援する重要な手段として活用してきた。これに加え、18(平成30)年11月より、内閣府の準天頂衛星3システムのサービスが開始されたことから、準天頂衛星を含む複数の測位衛星信号の利活用により、冗長性を確保することとしている。

(3)宇宙利用の優位を確保するための能力の強化

人工衛星の活用が、安全保障の基盤として死活的に重要な役割を果たしている一方で、一部の諸外国が、キラー衛星や衛星攻撃ミサイルなどの対衛星兵器の開発を進めているとみられていることから、防衛省・自衛隊においても、Xバンド防衛通信衛星などの人工衛星の抗たん性を向上させる必要がある。

このため、わが国の人工衛星の脆弱性への対応を検討・演練するための訓練用装置や、わが国の人工衛星に対する電磁妨害状況を把握する装置を新たに導入することとしており、令和2(2020)年度予算には、電磁妨害状況を把握する装置の取得に必要な経費を計上した。

また、電磁波領域と連携して、相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力を構築することとしている。

(4)関係機関や米国などの関係国との連携強化

防衛省が宇宙開発利用を効果的に推進していくためには、先進的な知見を有するJAXAなどの関係機関や米国などの関係国との協力を進めていくことが不可欠である。

現在、防衛省とJAXAの間では、前述のSSAの整備や2波長赤外線センサの実証研究などにおける連携協力のほか、航空自衛官を筑波宇宙センターに派遣するなどの人材交流も行っている。

また、米国との間では、宇宙分野における日米防衛当局間の協力を一層促進する観点から、15(平成27)年4月には、「日米宇宙協力ワーキンググループ」(SCWG:Space Cooperation Working Group)を設置し、これまでに6回の会合を開催した。引き続き、①宇宙に関する政策的な協議の推進、②情報共有の緊密化、③専門家の育成・確保のための協力、④机上演習の実施など、幅広い分野での検討を推進している。

こうした取組の一環として、防衛省は、米戦略軍主催のSSA多国間机上演習「グローバル・センチネル」に16(平成28)年から毎年参加しており、SSA運用にかかる知見を修得するとともに、今後の米国などとの協力強化を図っている。こうしたSSA能力の向上の取組は、宇宙空間における新たな脅威に対する抑止力の向上にも寄与するものである。なお、米国以外では、フランス、EU及びインドなどとの間で宇宙対話などにも取り組んでいる。

グローバル・センチネル19に参加する空自隊員(19(令和元)年9月)

グローバル・センチネル19に参加する空自隊員(19(令和元)年9月)

参照3章3節1項(宇宙領域の利用にかかる協力)

1 16(平成28)年4月に、宇宙戦略室から宇宙開発戦略推進事務局に改組された。

2 探知性、識別性に優れた2波長赤外線センサをJAXAで計画中の「先進光学衛星」に搭載し、宇宙環境において動作させるための研究を実施している。

3 通常の静止衛星は赤道上に位置するが、その軌道を斜めに傾け、特定の一地域のほぼ真上の上空に長時間とどまることが可能となるような軌道に投入された衛星のこと。1機だけでは24時間とどまることはできないため、通常複数機が打ち上げられる。ユーザーのほぼ真上を衛星が通るため、山や建物などといった障害物の影響を受けることなく衛星からの信号を受信することができる。