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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第4節 電磁波領域をめぐる動向

➊ 電磁波領域と安全保障

電磁波とは、電場の振動と磁場の振動が空間を伝わる波であり、日常生活において、テレビ、携帯電話による通信、GPSによる位置情報などさまざまな用途で利用されている。

防衛分野においても、電磁波は指揮統制のための通信機器、敵の発見のためのレーダー、ミサイルの誘導装置などに使用されており、電磁波領域における優勢を確保することは、現代の作戦において必要不可欠なものになっている。電磁波領域を利用して行われる活動には電子戦と電磁波管理があり、電子戦の手段や方法は一般的に、「電子攻撃」、「電子防護」及び「電子戦支援」の3つに分類される。

参照図表I-3-4-1(防衛分野における電磁波領域の使用)

図表I-3-4-1 防衛分野における電磁波領域の使用

「電子攻撃」は、相手の通信機器やレーダーに対して、より強力な電波や相手の電波をよそおった電波を発射することなどにより、通信機器やレーダーから発せられる電波を妨害し、相手の通信や捜索といった能力を低減、無効化することとされる。電波妨害(ジャミング)、電波欺まんのほか、高出力の電磁波(高出力レーザー、高出力マイクロ波など)による対象の物理的な破壊も「電子攻撃」に含まれる。

参照本章1節1項(3)(高出力エネルギー技術)

「電子防護」は、装備品のステルス化などにより、相手から探知されにくくすることや、通信機器やレーダーが電子攻撃を受けた際、使用する電磁波の周波数を変更したり、出力を増加することなどにより、相手の電子攻撃を低減・無効化することをいう。

「電子戦支援」は、電子戦に利用する目的で相手の使用する電磁波に関する情報を収集する活動とされる。電子攻撃・電子防護を効果的に行うためには、平素から相手の通信機器やレーダー、電子攻撃機がどのような電磁波をどのように使用しているかを把握し、分析しておく必要がある。また、電子戦は、相手の使用する電磁波を事前に把握・分析できていない状況においても効果的に行えることが望ましく、例えば、瞬時に妨害電波を分析し、最も妨害を受けにくい周波数を自動的に選択する機能などを持たせるため、人工知能を装備品に搭載・活用することも考えられている。

「電磁波管理」は、電子攻撃や電子防護といった電磁波領域における各種活動を円滑に行うため、電磁波の利用を管理・調整することとされる。具体的には、戦域における電磁波の使用状況を把握するとともに、電磁波の干渉が生じないよう、味方の部隊や装備品が使用する電磁波について、使用する周波数、発射する方向、使用時間などを適切に調整する活動である。現在、電磁波の使用状況の把握や可視化のための技術の研究などが行われている。

主要国は、電子攻撃を、サイバー攻撃などと同様に敵の戦力発揮を効果的に阻止する非対称的な攻撃手段として認識し、電子攻撃を含む電子戦能力を重視し、その能力を向上させているとみられる。