コラム

<解説>北朝鮮における金正恩体制の動向の特色とその安定性

北朝鮮では、11(平成23)年12月、長年にわたり最高指導者であった金正日(キム・ジョンイル)国防委員会委員長が死去した後、同委員長の三男とみられている金正恩(キム・ジョンウン)国防委員会第1委員長を中心とする体制が整えられたが、主要ポストへの就任による権力継承が短期間で行われたこともあり、同第1委員長がどのように権力基盤を構築していくかが注目された。
その後、約1年半にわたり、北朝鮮は引き続き軍事力を重視し、特に「人工衛星」と称するミサイル発射や核実験を含む挑発行為などにより朝鮮半島の緊張を高めつつ、権力基盤の構築・確立を進めてきたとみられるが、その過程における内政面での動向の特色としては、以下のような点があげられる。

<1> 親しみやすい指導者像の構築と社会統制の維持・強化
体制移行後、金正恩第1委員長の肉声演説や、同第1委員長が人民と触れ合う様子を撮影した写真などが多く公開されるようになっており、いまだ人民から尊敬されているとされる金日成(キム・イルソン)国家主席を模倣し、同国家主席のような親近感のある指導者像を作り上げようとしているといった指摘がある。
一方で、公安機関などを通じた社会統制は継続して行われており、最近はこのような統制が強化されているとの指摘もある。
<2> 軍などにおける頻繁な人事の変動
体制移行後、12(同24)年7月に朝鮮人民軍総参謀長であった李英浩(リ・ヨンホ)氏が、病気を理由に全ての職務から解任されたのをはじめ、軍などにおける人事の変動が多く見られており、軍の中核ポストである総政治局長、総参謀長、人民武力部長は同年中に全て交代している。また、内閣の部署の長のうち4分の1程度についても同年中に交代が判明している。
さらに、軍高官の階級変動も多く見られる。たとえば、同年4月に軍総政治局長に就任した崔竜海(チェ・リョンヘ)氏は、同年12月に次帥から大将への降格が判明し、13(同25)年2月に再び次帥への昇格が判明した。
<3> 経済問題などの強調
金正恩第1委員長による同年1月の「新年の辞」演説において、経済強国建設の転換的局面を開くことが同年のスローガンとして打ち出されるなど、北朝鮮は経済状況の改善を重視しているとみられる。また、携帯電話の普及など情報化が進展していると伝えられており、同第1委員長自身もコンピュータ教育などを進める必要性に言及している。
一方で、現在も北朝鮮は深刻な経済難に直面しており、脱北者も継続して発生している。また、情報化の進展は、住民間のコミュニケーションや外部からの情報流入の促進につながる可能性もあり、社会統制や規制を機能させることで比較的安定した社会秩序を維持してきたと指摘されている北朝鮮において、当局による社会統制に影響をおよぼす可能性もある。

このように、北朝鮮においては、体制の安定性に影響し得る様々な事象が生起しており、その影響について引き続き注視していく必要がある。

 
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