第III部 わが国の防衛に関する施策
第1章 国民の生命・財産と領土・領海・領空を守る態勢

安全保障の目的を達成するための根幹は、自らが行う努力にある。
わが国は、このような認識に基づき、平素から国として総力をあげて取り組み、各種事態の発生に際しては事態の推移に応じてシームレスに対応することとしている。このため、国として統合的かつ戦略的な様々な取組を行うとともに、防衛省・自衛隊としても、各種事態の発生時における自衛隊の運用はもちろんのこと、対処能力の向上をはじめとする各種施策を行っている。
本章においては、まず第1節において、各種事態ごとの自衛隊の具体的な対応などについて説明し、第2節において、武力攻撃事態等における基本的枠組などを説明する。

第1節 実効的な抑止および対処

本節では、国民の生命・財産と領土・領海・領空を守る態勢について、様々な事態における統合運用体制下での自衛隊の対応を例にとりながら説明する。

1 周辺海空域の安全確保

6,000を越す島々で構成され、広大な海域に囲まれているわが国において、各種事態に際し、自衛隊が迅速に対応するためには、平素から領海・領空とその周辺の海空域において常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動を行うなど、同海空域の安全確保に努めることがきわめて重要である。また、こうした活動により、アジア太平洋地域の安全保障環境の安定化にも寄与している。

1 周辺海域における警戒監視

(1)基本的考え方
各種事態に際し、自衛隊が迅速かつシームレスに対応するため、自衛隊は、平素から常時継続的にわが国周辺海域の警戒監視活動を行う。

(2)防衛省・自衛隊の対応
海自は、平素から固定翼哨戒機(P-3C)により、北海道の周辺海域や日本海、東シナ海を航行する多数の船舶などの状況を監視している。また、必要に応じ、護衛艦・航空機を柔軟に運用して警戒監視活動を行い、わが国周辺における事態に即応する態勢を維持している。さらに、主要な海峡では、陸自の沿岸監視隊や海自の警備所などが、24時間態勢で警戒監視活動を行っている。防衛省・自衛隊の行うわが国周辺海空域の警戒監視活動のイメージは、図表III-1-1-1のとおりである。

図表III-1-1-1 わが国周辺海空域の警戒監視イメージ
警戒監視活動に従事する護衛艦のCIC(Combat Information Center)
警戒監視活動に従事する護衛艦のCIC(Combat Information Center)
尖閣諸島周辺を飛行するP-3C
尖閣諸島周辺を飛行するP-3C

なお、12(平成24)年には、南西諸島の通過を伴う中国海軍艦艇の活動が合計6回、加えて沖縄南方海域での活動が1回確認されており、同年9月のわが国政府による尖閣諸島の所有権の取得以降、中国公船が尖閣諸島周辺のわが国領海へ断続的に侵入するなど、近年、東シナ海をはじめとするわが国の近海において、中国の海軍艦艇や公船などの活動が急速に拡大・活発化している。このため、海上保安庁と平素から現場で情報を共有するなど関係省庁との連携の強化を図っているところであり、わが国の防衛・警備の態勢に間隙を生じさせることがないよう万全を期している。(図表III-1-1-2参照)

図表III-1-1-2 中国公船の尖閣諸島周辺の領海への侵入回数
2 領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル)

(1)基本的考え方
国際法上、国家はその領空に対して、完全かつ排他的な主権を有している。対領空侵犯措置は、公共の秩序を維持するための警察権の行使として行われるものであり、陸上や海上とは異なって当該措置を実施できる能力を有するのは自衛隊のみであることから、自衛隊法第84条に基づき、第一義的に空自が対処している。
参照 資料4243

(2)防衛省・自衛隊の対応
空自は、全国28か所のレーダーサイトと早期警戒機(E-2C)、早期警戒管制機(E-767)などにより、わが国とその周辺の上空を24時間態勢で監視している。これにより、わが国周辺を飛行する航空機を探知・識別し、領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合には自衛隊法第84条の規定に基づき、空自戦闘機などが緊急発進(スクランブル)し、その航空機に接近して状況を確認し、必要に応じてその行動を監視している。実際に領空侵犯が発生した場合には、退去の警告などを行う。
12(同24)年12月13日には、中国国家海洋局所属固定翼機(Y-12)が尖閣諸島魚釣島付近において、13(同25)年2月7日には、ロシア空軍の戦闘機(Su-27)が北海道利尻島付近において領空を侵犯し、空自の戦闘機などが緊急発進して対処した。
平成24年度の空自機による緊急発進(スクランブル)回数は567回であり1、その内訳などは図表III-1-1-3・4・5のとおりである。平成24年度は、中国機への緊急発進回数がロシア機に対する緊急発進回数を初めて上回ったところであり、E-2C・E-767を実効的に運用するなどして、南西域における監視を強化している。

図表III-1-1-3 最近10年間の緊急発進実施回数とその内訳
図表III-1-1-4 緊急発進の対象となった中国機の飛行パターン例
図表III-1-1-5 緊急発進の対象となったロシア機の飛行パターン例
戦闘機を管制中の要撃管制官
戦闘機を管制中の要撃管制官
3 領水内潜没潜水艦への対処など

(1)基本的考え方
わが国の領水2内で潜没航行する外国潜水艦に対しては、速やかに海上警備行動3を発令して対処する。こうした潜水艦に対しては、国際法に基づき海面上を航行し、かつ、その旗を揚げるよう要求し、これに応じない場合にはわが国の領海外への退去を要求する。
参照 資料4243

(2)防衛省・自衛隊の取組
海自は、わが国の領水内を潜没航行する外国潜水艦を探知・識別・追尾し、わが国の意思を表示する能力および浅海域における対処能力の維持・向上を図っている。04(同16)年11月に、先島群島周辺のわが国領海内を潜没航行している中国原子力潜水艦を海自P-3Cが確認した。これに対しては、海上警備行動を発令して対処し、海自の艦艇および航空機は、当該潜水艦が公海上に至るまで継続して追尾した。
また、13(同25)年5月には、領海への侵入はなかったものの、接続水域内を航行する潜没潜水艦を海上自衛隊のP-3Cが相次いで確認した(2日夜に奄美大島(鹿児島県)の西の海域、12日深夜に久米島(沖縄県)の南の海域、19日早朝に南大東島(沖縄県)の南の海域)。国際法上、外国の潜水艦が沿岸国の接続水域内を潜没航行することは禁じられているわけではないが、領海に隣接する接続水域に、潜没した潜水艦を確認するという事案が続けて生起したことなどを踏まえ、わが国として注視すべき状況であると認識し、これらの航行について公表を行った。

4 武装工作船などへの対処

(1)基本的考え方
武装工作船と疑われる船(不審船)には、警察機関である海上保安庁が第一義的に対処するが、海上保安庁では対処できないまたは著しく困難と認められる場合には、機を失することなく海上警備行動を発令し、自衛隊が海上保安庁と連携しつつ対処する。
参照 資料4243
防衛省・自衛隊は99(同11)年の能登半島沖での不審船事案や01(同13)年の九州南西海域での不審船事案などで得られた教訓事項を踏まえ、関係省庁と連携を強化し、政府として万全を期すべく、必要な措置を講じている。

(2)防衛省・自衛隊の取組
海自は、<1>ミサイル艇の配備、<2>「特別警備隊」4の編成、<3>護衛艦などへの機関銃の装備、<4>強制停船措置用装備品(平頭弾)5の装備、<5>艦艇要員の充足率の向上などを行っている。
また、防衛省と海上保安庁は、定期的に相互研修、情報交換、共同訓練などを行っている。海自は、99(同11)年防衛庁(当時)と海上保安庁が策定した「不審船に係る共同対処マニュアル」に基づき、不審船に対する追尾・捕捉の要領や通信などの共同訓練を海上保安庁と行っており、連携の強化を図っている。

若狭湾における海保との共同訓練の様子〔ミサイル艇はやぶさ(手前)と巡視船えちぜん(奥)〕
若狭湾における海保との共同訓練の様子〔ミサイル艇はやぶさ(手前)と巡視船えちぜん(奥)〕

1)緊急発進(スクランブル)回数の対象別の割合(推定含む。)は中国約54%、ロシア約44%、その他約2%
2)領海および内水
3)「海上における警備行動」(自衛隊法第82条)。海上における人命もしくは財産の保護または治安の維持のため特別の必要がある場合に自衛隊がとる行動で内閣総理大臣の承認が必要
4)01(平成13)年3月、海上警備行動下において不審船の立入検査を行う場合、予想される抵抗を抑止し、その不審船の武装解除などを行うための専門の部隊として海自に新編された。
5)護衛艦搭載の76mm砲から発射する無炸薬の砲弾で、先端部を平坦にして、跳弾の防止が図られている。
 
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