第II部 わが国の防衛政策と日米安保体制
2 日米安全保障体制を支える基本的枠組
1 日米間の政策協議

日米間の安全保障に関する政策の協議は、通常の外交ルートによるもののほか、日米安全保障協議委員会(「2+2」)、日米安全保障高級事務レベル協議、防衛協力小委員会など、防衛・外務の関係者などにより、各種のレベルで緊密に行われている。
(図表II-3-1-2参照)

図表II-3-1-2 日米安全保障問題に関する日米両国政府の関係者間の主な政策協議の場

さらに、防衛省としては、防衛大臣と米国防長官との間で日米防衛相会談を適宜行い、両国の防衛政策や防衛協力に焦点をあて協議している。また、防衛副大臣と米国防副長官との間や、防衛省・自衛隊の次官・幕僚長をはじめとする実務レベルにおいても、日米安保体制のもと、米国防省などとの間で随時協議や必要な情報の交換などを行っている。近年、日米の防衛協力が進んだことにより、こうした機会はより重要になっている。

江渡防衛副大臣とカーター米国防副長官との会談の様子【米国防省】
江渡防衛副大臣とカーター米国防副長官との会談の様子【米国防省】

このように、あらゆる機会とレベルを通じ情報や認識を日米間で共有することは、日米間の連携をより強化し、緊密化するものであり、日米安保体制の信頼性の向上に資するものである。このため、防衛省としても、主体的・積極的に取り組んでいる。
参照 資料22

2 「日米防衛協力のための指針」とその実効性確保のための施策

日米両国がわが国に対する武力攻撃などに迅速に対処するにあたっては、あらかじめ両者の役割について協議し、決定しておくことが必要である。日米両国間には、このような役割に関する枠組が存在している。それが「日米防衛協力のための指針」(「指針」)とその実効性を確保するための諸施策である。日米両国はこの枠組に基づき、わが国を取り巻く安全保障環境の変化を踏まえつつ、両国間の協力計画などについて継続的に検討作業を実施し、協議を行うとともに、現状に合わせた「指針」見直しのための検討がなされている。ここでは、この枠組の概要について説明する。

(1)「日米防衛協力のための指針」
97(平成9)年、「2+2」会合において了承された「指針」の概要は、次のとおりである。
参照 資料23

ア 「指針」の目的
「指針」は、平素およびわが国に対する武力攻撃や周辺事態1に際し、より効果的で信頼性のある日米協力を行うための堅固な基礎を構築することなどを目的としている。

イ 「指針」において定められた協力事項
(ア)平素から行う協力
両国政府は、わが国の防衛とより安定した国際的な安全保障環境の構築のため、密接な協力を維持し、平素から情報交換や政策協議、安全保障対話・防衛交流、国連平和維持活動や人道的な国際救援活動、共同作戦計画や相互協力計画の検討、共同演習・訓練の強化、調整メカニズムの構築など、様々な分野での協力を充実する。
(イ)わが国に対する武力攻撃に際しての対処行動など
わが国に対する武力攻撃に際しての共同対処行動などは、引き続き日米防衛協力の中核的要素である。自衛隊は主として防勢作戦2を行い、米軍はこれを支援・補完するための作戦を行う。両者は、作戦の整合性を保ちつつ、それぞれの作戦構想に基づき対処する。
(ウ)周辺事態に際しての協力
両国政府は、周辺事態が発生することのないよう、外交を含めあらゆる努力を払う。
参照 資料24

ウ 「指針」のもとでの日米共同の取組
「指針」のもとでの日米防衛協力を効果的に進め、確実に成果をあげるためには、平素から、武力攻撃または周辺事態に際してなどの安全保障上の様々な状況を通じ両国が協議を行うとともに、様々なレベルで十分に情報を共有しつつ調整を行うことが必要不可欠である。
このため、両国政府は、あらゆる機会をとらえて情報交換や政策協議を充実させていくほか、協議の促進、政策調整や作戦・活動分野の調整のため、次の二つのメカニズムを構築する。
(ア)包括的なメカニズム
包括的なメカニズムは、平素において「指針」のもとでの日米共同作業を行うためのものであり、自衛隊と米軍だけでなく、両国政府の関係機関が関与して構築される。包括的なメカニズムでは、わが国に対する武力攻撃や周辺事態に円滑かつ効果的に対応できるよう、共同作戦計画や相互協力計画についての検討などの共同作業を行う。
(図表II-3-1-3参照)

図表II-3-1-3 包括的なメカニズムの構成

(イ)調整メカニズム
調整メカニズムは、わが国に対する武力攻撃や周辺事態に際して両国が行うそれぞれの活動の調整を図るため、平素から構築しておくものである。
(図表II-3-1-4参照)

図表II-3-1-4 調整メカニズムの構成
岩崎統幕長とデンプシー米統合参謀本部議長
立のほうの崎統幕長とデンプシー米統合参謀本部議長

(2)「指針」の実効性を確保するための施策

ア 「指針」の実効性確保のための措置
「指針」の実効性を確保するためには、平素からの取組をはじめ、武力攻撃事態や周辺事態における日米協力について、法的側面を含めて必要な措置を適切に講じることが重要である。このような観点から、「指針」における共同作戦計画や相互協力計画の検討を含む日米間の共同作業を、平素から、政府全体で進めることが必要である。
これを踏まえ、周辺事態における日米協力の観点から、99(同11)年の周辺事態安全確保法、00(同12)年の船舶検査活動法などの法制整備が行われた。
また、武力攻撃事態等における日米協力の観点からは、有事法制整備の一環として、04(同16)年に米軍の行動の円滑化のための措置が講じられた。
参照 III部1章2節

イ 周辺事態安全確保法と船舶検査活動法の概要
周辺事態安全確保法は、周辺事態に対応してわが国が行う措置(対応措置)3やその実施の手続などを定めている。また、船舶検査活動法は、周辺事態に対応してわが国が行う船舶検査活動に関して、その実施の態様や手続などを定めている。
○ 内閣総理大臣は、周辺事態に際して、自衛隊が行う後方地域支援4、後方地域捜索救助活動、船舶検査活動などを行う必要があると認めるときは、こうした措置を行うことと対応措置に関する基本計画の案について、閣議決定を求めなければならない。また、対応措置の実施については、国会の事前承認(緊急時は事後承認)を得なければならない。さらに、基本計画の決定・変更や対応措置の終了に際しては、遅滞なく、国会に報告する。
○ 防衛大臣は、基本計画に従い、実施要項(実施区域の指定など)を定め、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊などに、後方地域支援、後方地域捜索救助活動、船舶検査活動の実施を命ずる。
○ 関係行政機関の長は、法令と基本計画に従い、対応措置を実施するとともに、地方公共団体の長に対し、その権限の行使について必要な協力を求め、また、法令と基本計画に従い、国以外の者に対し、必要な協力を依頼することができる5

ウ 後方地域支援
後方地域支援とは、周辺事態に際して日米安保条約の目的達成に寄与する活動を行っている米軍に対し、後方地域においてわが国が行う物品・役務の提供、便宜の供与などの支援措置である。このうち、自衛隊が行う後方地域支援で提供の対象となる物品・役務の種類は、補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港・港湾業務および基地業務である。

エ 後方地域捜索救助活動
後方地域捜索救助活動とは、周辺事態において行われた戦闘行為によって遭難した戦闘参加者について、後方地域で自衛隊が行う捜索救助活動(救助した者の輸送を含む。)である6。その際、戦闘参加者以外の遭難者がいる場合はあわせて救助を行う。また、実施区域に隣接する外国の領海に遭難者がいる場合は、その外国の同意を得て、遭難者の救助を行うことができる。ただし、その領海において現に戦闘行為が行われておらず、かつ、活動期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる場合に限る。

オ 船舶検査活動
船舶検査活動とは、周辺事態に際し、わが国が参加する貿易その他の経済活動にかかわる規制措置の厳格な実施を確保する目的で、船舶(軍艦など7を除く。)の積荷・目的地を検査・確認する活動や必要に応じ船舶の航路・目的港・目的地の変更を要請する活動である。こうした活動は、国連安全保障理事会(国連安保理)決議に基づいて、または旗国8の同意を得て、わが国領海やわが国周辺の公海(排他的経済水域9を含む。)において行われる10


1)そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態など、わが国周辺の地域におけるわが国の平和と安全に重要な影響を与える事態(周辺事態安全確保法第1条)
2)敵の攻勢に対し、その企図の達成を阻止する目的をもって行う作戦。また、攻勢とは、自ら敵を求めてこれを撃破しようとする積極的な形態をいう。
3)後方地域支援、後方地域捜索救助活動、周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律に規定する船舶検査活動その他の周辺事態に対応するため必要な措置(周辺事態安全確保法第2条)
4)後方地域とは、わが国の領域ならびに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで行われる活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められるわが国周辺の公海(領海の基線から200海里(約370km)までの水域である排他的経済水域を含む。)およびその上空の範囲をいう。
5)政府は、協力を求められまたは協力を依頼された国以外の者が、その協力により損失を受けた場合には、その損失に関し、必要な財政上の措置を講ずる。
6)周辺事態安全確保法第3条第1項第2号
7)軍艦および各国政府が所有しまたは運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるもの
8)海洋法に関する国際連合条約第91条に規定するその旗を掲げる権利を有する国
9)「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」第1条参照
10)船舶検査活動法第2条
 
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