第I部 わが国を取り巻く安全保障環境
概観
第1節 国際社会の動向

わが国を取り巻く安全保障環境においては、様々な課題や不安定要因が存在し、その一部は顕在化・先鋭化・深刻化している。
その中でも、わが国周辺の安全保障環境は、冷戦終結後も、国家間などの対立の構図が残るなど、欧州地域でみられたような安全保障環境の大きな変化はみられず、依然として領土問題や統一問題を始めとする不透明・不確実な要素が残されている上に、周辺国による軍事力の近代化の継続に加えて、過去1年間においても、北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射や核実験実施を含む挑発行為、中国によるわが国領海侵入および領空侵犯を含む、わが国周辺海空域における活動の急速な拡大・活発化、ロシアによる引き続き活発化の傾向にある軍事活動などがみられ、一層厳しさを増している。一方、米国は、国防戦略指針により、米国の安全保障戦略の重点をよりアジア太平洋地域に置くことや同地域における同盟国との関係強化およびパートナー国との協力拡大といった方針を打ち出しているが、厳しい財政状況がその具体化に与える影響が注目される。
また、今日の国際社会では、国家間の相互依存関係の進展により、一国で生じた混乱や安全保障上の問題の影響が直ちに世界に波及するリスクが高まっていることから、地理的に限定された領域を超えた安全保障上の課題も引き続き重要である。このようなグローバルな安全保障上の課題については、サイバー攻撃、大量破壊兵器などの拡散、国際テロや統治機構の脆弱化などに対する国際社会による取組が行われる一方で、問題が悪化したり、新たな問題が顕在化したりするものもみられる。
こうした安全保障環境のもと、国際社会が直面する問題に一国で対応することはきわめて困難であることに加え、各国は、より安定した国際安全保障環境を構築することで世界や地域の平和、安定と繁栄を確保していくことを共通の利益にしていることから、問題の解決に利益を共有している国々が協力して取り組むことがますます重要になっている。
米国については、その影響力が相対的に変化しつつあるが、今後とも、国際社会においてもっとも影響力を有する国家であることに変化はないものと考えられる。一方、近年の高い経済成長により、中国、インド、ロシアなどの国力が増大しており、今後、多極化を志向しているこれらの国々の国際的な影響力は相対的に増していくとみられている。中国をはじめとするこうした国々の国力増大は、国際協調・協力に向けた大きな機会と捉えるべきものであるが、同時に安全保障環境に大きな影響を及ぼす可能性があり、国際社会から引き続き注視されている。

 
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