第III部 わが国の防衛に関する諸施策
3 国民の保護に関する取組
1 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置(国民保護措置)

武力攻撃事態等に際して、国は対処基本方針や、国民の保護に関する基本指針1(基本指針)に基づき、その組織・機能のすべてをあげて自ら国民保護措置を実施する。また、地方公共団体および指定公共機関が行う国民保護措置への支援などにより、国全体として万全の態勢を整備する。
地方公共団体は、国の方針に基づき、自ら国民保護措置を実施するとともに、当該地方公共団体の区域における国民保護措置を総合的に推進する。
参照 資料22

2 国民の保護に関する基本指針

05(平成17)年3月、政府は国民保護法第32条に基づき、基本指針を策定した。この基本指針においては、武力攻撃事態の想定を、着上陸侵攻、ゲリラや特殊部隊による攻撃、弾道ミサイル攻撃、航空攻撃の4つの類型に整理し、その類型に応じた国民保護措置の実施にあたっての留意事項を定めている。また、避難、救援、災害対処などの国民保護措置について、国、都道府県、市町村、指定公共機関などが実施する措置の内容や役割分担についても可能な範囲で定めている。
指定行政機関、都道府県などは、国民保護法および基本指針に基づき、国民の保護に関する計画(国民保護計画)を策定している。

3 国民の保護における自衛隊の役割

指定行政機関である防衛庁(当時)および防衛施設庁(当時)は、国民保護法第33条第1項や基本指針に基づき、05(同17)年10月に「国民保護計画」2を策定した。この中で、自衛隊は、武力攻撃事態においては、主たる任務である武力攻撃の排除を全力で実施するとともに、国民保護措置については、これに支障のない範囲で、住民の避難・救援の支援や武力攻撃災害への対処を可能な限り実施するとしている。
参照 資料24

(1)国民保護等派遣など
国民保護等派遣に関する規定の概要は次のとおりである。
ア 派遣の手続
防衛大臣は、都道府県知事からの要請を受け、事態やむを得ないと認める場合、または対策本部長3から求めがある場合は、内閣総理大臣の承認を得て、部隊などに「国民保護等派遣」を命令し、国民保護措置を実施させる。
(図表III―1―1―4参照)

図表III―1―1―4 国民保護等派遣のしくみ

また、武力攻撃事態において防衛出動が命ぜられている場合や緊急対処事態に対する対処措置として治安出動が命ぜられている場合には、国民保護等派遣を命ずることなく、防衛出動や治安出動などの一環として、国民保護措置または緊急対処保護措置を実施することとなる。

イ 権限
国民保護等派遣を命ぜられた部隊などの自衛官は、警察官がその場にいない場合に限り、警察官職務執行法の避難などの措置、犯罪の予防および制止、立入を、警察官など4がその場にいない場合に限り、武器の使用の権限を行使することができる。
また、国民保護等派遣を命ぜられた自衛官は、市町村長などがその場にいない場合に限り、退避の指示、応急公用負担、警戒区域の設定、住民に対する協力要請などの権限を行使することができる。

ウ 特別の部隊の編成など
国民保護等派遣を行う場合に、必要に応じた特別の部隊の臨時編成、即応予備自衛官および予備自衛官に対する招集命令の発令を行うことができる。

エ 緊急対処保護措置
緊急対処事態においても、国民保護法や基本指針などに基づき、武力攻撃事態等における措置と同様の措置を実施することができる。

(2)自衛隊が行う措置の内容
ア 住民の避難
必要な情報を収集・提供するとともに、関係機関と連携して、避難住民の誘導や運送を行う。

イ 避難住民などの救援
人命救助関係の措置(捜索・救出、応急医療の提供など)を中心に、対策本部長などからの求めにより、医療活動の支援(傷病者の搬送など)や、必要に応じて生活支援関係の措置(炊き出し、給水、救援物資の輸送など)や安否情報の収集などを行う。

ウ 武力攻撃災害への対応
被害状況の確認、モニタリング支援、人命救助関係の措置(捜索・救出、応急医療の提供など)、被害の拡大防止(周辺住民の退避支援、消火など)、核・生物・化学(NBC:Nuclear, Biological and Chemical)攻撃などにより散布された危険物質の除去などを行う。このほか、生活関連等施設の安全確保のための支援(指導・助言、隊員の派遣など)や、内閣総理大臣の指揮により、所要の措置などを行う。

エ 応急の復旧
 防衛省の所管する施設および設備の応急の復旧を行うとともに、都道府県知事などからの要請により、危険な瓦礫(がれき)の除去、道路や滑走路の応急補修などの支援を行う。

4 国民保護措置を円滑に行うための防衛省・自衛隊の取組

(1)国民保護訓練などへの参加
武力攻撃事態等において、国民保護措置を的確かつ迅速に実施するため、国民保護措置の実施にかかわる連携要領について、各省庁や地方公共団体などと共同で調整を実施することが重要である。
このような観点から、防衛省・自衛隊は、内閣官房や各都道府県などの関係機関や地方公共団体が実施する国民保護訓練などに、積極的に参加・協力してきており、このような取組を継続することを通じて、連携強化に努めている。
国民保護に関する国と地方公共団体との共同訓練は、平成17年度に実動訓練が実施された福井など5県で始まり、平成23年度には、北海道、佐賀および長崎において実動訓練が、山形、新潟、福井、岐阜、兵庫、徳島、愛媛、福岡および宮崎において図上訓練が行われた。
なお、12(同24)年1月、長崎県大村市で行われた国民保護共同実動訓練は、はじめて空港におけるテロを想定して行われ、自衛隊は、内閣官房長官、内閣官房副長官、長崎県知事、関係省庁などの参加を得て、緊急対処事態対策本部および現地対策本部と連携し、初動措置や医療救護などについての訓練を行った。
参照 2節4資料25

国民保護訓練(長崎県)において対策協議を行う 防衛省・自衛隊など関係省庁・県、警察の職員
国民保護訓練(長崎県)において対策協議を行う防衛省・自衛隊など関係省庁・県、警察の職員

(2)地方公共団体などとの平素からの連携
防衛省・自衛隊では、地方公共団体などと平素から緊密な連携を確保し、国民保護のための措置などを実効的なものとするため、陸自方面総監部に「地域連絡調整課」を設置するとともに、地方公共団体などとの調整や協力にかかわる機能を強化するため、自衛隊地方協力本部に「国民保護・災害対策連絡調整官」を配置している。
また、広く住民の意見を求めるための機関として、都道府県や市町村に国民保護協議会が設置され、陸・海・空自に所属する者が委員に任命されている。さらに、指定地方行政機関である地方防衛局においても、関係職員が委員に任命されている。


1)<http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hogohousei/hourei/050325shishin.pdf>参照
2)防衛省国民保護計画<http://www.mod.go.jp/j/approach/kokumin_hogo.pdf>参照
3)対策本部長は内閣総理大臣となっているが、両者は別人格として規定されている。
4)警察官、海上保安官または海上保安官補
 
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