第III部 わが国の防衛に関する諸施策
第1章 自衛隊の運用

わが国の安全保障の目的を達成するための根幹となるのは自らが行う努力である。
22大綱においては、このような認識に基づき、平素から国として総力を挙げて取り組み、各種事態の発生に際しては事態の推移に応じてシームレスに対応することとしている。このため、国として統合的かつ戦略的な様々な取組を行うとともに、防衛省・自衛隊としても、各種事態の発生時における自衛隊の運用はもちろんのこと、対処能力の向上をはじめとする各種施策を平素から行っている。
本章においては、まず第1節において、武力攻撃事態等における自衛隊の運用を含む国としての基本的枠組などを説明し、第2節において、各種事態ごとの自衛隊の具体的対応などについて説明する。また、第3節では、東日本大震災への対応に関する教訓などについて説明する。

第1節 武力攻撃事態等への対応のための枠組など

わが国に対する武力攻撃など、国や国民の平和と安全にとって最も重大な事態についてのわが国の対応の枠組や、これに基づく自衛隊の運用体制の確立など1は、武力攻撃事態等(武力攻撃事態2および武力攻撃予測事態3)における実効的な対応を可能とし、わが国に対する武力攻撃などの抑止にも資するものである。また、武力攻撃事態等への自衛隊の対応における文民統制の貫徹の観点からも重要である。
本節では、武力攻撃事態等が生起した場合の、わが国の対応の枠組と、それに基づく自衛隊の運用体制について、その概要を説明する。
(図表III-1-1-1参照)

図表III―1―1―1 有事法制の全体像
1 武力攻撃事態等における対応の枠組
1 武力攻撃事態等への対処

武力攻撃事態対処法4は、武力攻撃事態等への対処についての基本法的な性格を有している。すなわち、この法律は、武力攻撃事態等への対処に関する基本理念、武力攻撃事態等への対処に関する基本的な方針(対処基本方針)、国・地方公共団体の責務などについて規定している。また、武力攻撃事態等が発生した場合に、関係機関(指定行政機関、地方公共団体および指定公共機関5)が国民保護法などの個別の有事法制などに基づいて行う対処措置が連携協力して行われ、国全体として武力攻撃事態等への対処に万全の措置が講じられる枠組を整えている。
(図表III―1―1―2参照)
参照 資料2223

図表III―1―1―2 武力攻撃事態等への対処のための手続

(1)対処基本方針など
武力攻撃事態等に至ったときは、次の事項を定めた対処基本方針を閣議決定し、国会の承認を求める。また、対処基本方針が定められたときは、臨時に内閣に武力攻撃事態等対策本部(対策本部)を設置して、対処措置の実施を推進する。
<1> 武力攻撃事態であること又は武力攻撃予測事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実
<2> 当該武力攻撃事態等への対処に関する全般的な方針
<3> 対処措置に関する重要事項

(2)対処措置
武力攻撃事態等への対処にあたり、対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間に、指定行政機関、地方公共団体または指定公共機関は、法律の規定に基づいて、次の対処措置を行う。
ア 武力攻撃事態等を終結させるためにその推移に応じて実施する措置
<1> 自衛隊が実施する武力の行使、部隊などの展開その他の行動
<2> 自衛隊の行動および米軍の行動が円滑かつ効果的に行われるために実施する物品、施設または役務の提供その他の措置
<3> <1>および<2>のほか、外交上の措置その他の措置
イ 国民の生命、身体および財産の保護または国民生活および国民経済への影響を最小とするための措置
<1> 警報の発令、避難の指示、被災者の救助、施設および設備の応急の復旧その他の措置
<2> 生活関連物資などの価格安定、配分その他の措置

(3)国、地方公共団体などの責務
武力攻撃事態対処法に定める国、地方公共団体などの責務は、図表III-1-1-3のとおりである。

図表III―1―1―3 国、地方公共団体などの責務

(4)内閣総理大臣の対処措置における権限
対処措置の総合的な推進のため、対処基本方針が定められたときは、内閣に、内閣総理大臣を対策本部長、国務大臣を対策副本部長または対策本部員とする対策本部が設置される。
内閣総理大臣は、国民の生命、身体もしくは財産の保護または武力攻撃の排除に支障があり、特に必要があると認める場合であって、総合調整に基づく所要の対処措置が行われないときは、関係する地方公共団体の長などに対し、その対処措置を行うべきことを指示することができる。また、内閣総理大臣は、指示に基づく所要の対処措置が行われないときや、国民の生命、身体、財産の保護や武力攻撃の排除に支障があり、事態に照らし緊急を要する場合は、関係する地方公共団体の長などに通知した上で、自らまたはその対処措置にかかわる事務を所掌する大臣を指揮し、その地方公共団体または指定公共機関が行うべき対処措置を行い、または行わせることができる。

(5)国際連合安全保障理事会への報告
政府は、国連憲章第51条などにしたがって、武力攻撃の排除にあたってわが国が講じた措置について、直ちに国連安保理に報告する。

2 武力攻撃事態等以外の緊急事態への対処

武力攻撃事態対処法においては、政府は、わが国の平和と独立ならびに国および国民の安全を確保するため、武力攻撃事態等以外の緊急事態6にも、的確かつ迅速に対処する旨規定されている。
また、武装した不審船の出現、大規模なテロの発生などのわが国を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、<1>情報の集約、事態の分析・評価を行うための態勢の充実、<2>各種の事態に応じた対処方針の策定の準備、<3>警察、海上保安庁などと自衛隊の連携の強化といった措置などを講ずることとされている。

(1)緊急対処事態対処方針など
緊急対処事態に至ったときは、次の事項を定めた緊急対処事態に関する対処方針(緊急対処事態対処方針)を閣議決定し、国会の承認を求める。また、緊急対処事態対処方針が定められたときは、臨時に内閣に緊急対処事態対策本部を設置して、事態に対処する。
<1>緊急対処事態であることの認定およびその前提となった事実
<2>対処に関する全般的な方針
<3>緊急対処措置に関する重要事項

(2)緊急対処措置
緊急対処事態対処方針が定められてから廃止されるまでの間、指定行政機関、地方公共団体または指定公共機関は、法律の規定に基づいて、次の緊急対処措置を行う。
<1> 緊急対処事態を終結させるためにその推移に応じて実施する緊急対処事態における攻撃の予防、鎮圧その他の措置
<2> 緊急対処事態における攻撃から国民の生命、身体および財産を保護するため、または緊急対処事態における攻撃が国民生活および国民経済に影響を及ぼす場合において当該影響が最小となるようにするために緊急対処事態の推移に応じて実施する警報の発令、避難の指示、被災者の救助、施設および設備の応急の復旧その他の措置


1)02(平成14)年の「有事に強い国作りを進めるため」に具体的な法整備を進めるとの政府の方針を受け、03(同15)年に事態対処関連3法が成立し、翌04(同16)年に事態対処法制関連7法が成立したほか、関連3条約の締結が承認され、有事法制の基盤が整えられた。これらの法制整備には、防衛庁(当時)が77(昭和52)年から進めていた、いわゆる「有事法制の研究」の成果が多く反映されている。なお、「有事法制」については、必ずしも概念として定まったものがあるわけではなく、かつて自衛隊法第76条の規定により防衛出動を命ぜられるという自衛隊の行動にかかわる法制についての研究が「有事法制の研究」として行われるなど、多義的である。本白書では、有事法制と用いる場合、03(平成15)年以降に整備された事態対処関連法制を指す。
2)わが国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態
3)武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態
4)武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全確保に関する法律 <http://www.cas.go.jp/jp/hourei/houritu/jitai_h.html>参照
5)独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関と電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの
6)緊急対処事態(武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生した事態または当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認めるに至った事態で、国家として緊急に対処することが必要なもの)を含む、武力攻撃事態等以外の国および国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態のこと
 
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