本年の白書は、政権交代後2度目の刊行となります。今日のわが国をとりまく安全保障環境が目まぐるしく変化している中で、本年の白書の対象期間においても、防衛省・自衛隊をめぐって、国内外で大きな節目となる事象が多く見られました。
まずは、3月11日に発生した東日本大震災です。わが国観測史上最大規模の地震は、未曾有の被害をもたらしました。防衛省・自衛隊は、被災者の方々の救援活動や、原子力災害への対応などに当たるため、昼夜を問わず、全力で活動しました。
自衛隊の駐屯地や基地も地震による被害を受けましたが、そのような中でも、菅内閣総理大臣の指示を受け、速やかに10万人の態勢を確立して対応に当たったことは、被災者のみならず、多くの国民のみなさまの安全・安心につながったものと自負しております。今ほど国民のみなさまと防衛省・自衛隊の距離が近づいたことはありません。菅総理からも、「自衛隊の最高司令官として、本当に惜しみのない自衛官の皆さんの活動に対して、誇りに思うとともに、一人ひとりの隊員に対して心から感謝を申し上げたい」との言葉をいただきました。これは私にとっても大変名誉なことです。
次に、新たな防衛計画の大綱(防衛大綱)・中期防衛力整備計画(中期防)の策定です。昨年12月、新たな政権のもとで初めて防衛大綱および中期防を策定しました。政権交代後、1年の猶予をいただき、防衛省においても政務三役のもとで精力的な検討を行うとともに、「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書も検討材料としながら、関係閣僚が活発に議論し、現実的な政策を練り上げることができたと思います。
新たな防衛大綱では、現下の安全保障環境を踏まえ、防衛力の運用に焦点を当てた「動的防衛力」という考え方を新たに打ち出し、実効的な抑止と対処を確保するとともにアジア太平洋地域の安定およびグローバルな安全保障環境の改善に取り組むこととしています。「動的防衛力」の実現を目指し、新たな中期防のもと、自衛隊全体にわたる装備、人員、編成などの抜本的な見直しを行うため、防衛省・自衛隊では「防衛力の実効性向上のための構造改革」の検討を推進しています。
さらに、6月には私も訪米し、日米の外務・防衛当局間で4年ぶりとなる「2+2」会合を行い、日米間の安全保障上の課題を包括的に議論し、新たな共通戦略目標を発表するとともに、安全保障・防衛協力、在日米軍再編、震災対応など幅広い分野において、これまでの具体的な進展および今後の方向性をお示ししました。民主党政権のもとで「2+2」が開かれたことにより、わが国の政治勢力の80%以上が日米同盟にコミットしているという点において、大変意義深いものでありました。今後、今回の共同発表に盛り込まれた協力項目を進め、日米同盟がさまざまな事態に対してより有効に機能するとともに、アジア太平洋地域や国際社会において、さらに積極的な役割を果たすことなどにより、日米同盟がこれからの半世紀においてもさまざまな課題に常に新たな活力を持って取り組んでいけるように努めていきます。
わが国周辺地域に目を向けると、北朝鮮の核・ミサイル問題は、依然として予断を許さない状況にあり、韓国延坪島に対する砲撃事件などにより、朝鮮半島の緊張が高まりました。また、中国については、軍事力の広範かつ急速な近代化を進めるとともに、わが国周辺海域において活動を拡大・活発化させており、ロシアの軍事活動も引き続き活発化の傾向にあります。
その一方で、アジア太平洋地域では、昨年10月に初めて拡大ASEAN国防相会議が行われるなど、地域の安全保障環境の安定化に向けた取組がより具体的なものとなりつつあります。また、国際社会の平和と安定がわが国の平和と安全に密接に結びついているとの認識のもと、引き続きカリブ海のハイチやゴラン高原などでPKOを行っています。さらに、アフリカのソマリア沖・アデン湾では、海上輸送の安全確保のため護衛艦とP-3C哨戒機が引き続き活動しています。グローバルな安全保障課題としては、新たに海洋、宇宙、サイバー空間の安定利用に対する危険も指摘されており、防衛省としては、これから新たな課題に対応するためのさまざまな国際協力に積極的に取り組んでいきます。
こうした中、本年の防衛白書では、東日本大震災への対応について、現場で任務に当たった隊員の声を取り入れながら幅広く紹介するよう心がけました。また、新しい防衛大綱・中期防の策定後、初めての白書であることから、それらの内容について、防衛大綱の変遷をたどりながら詳しく紹介するのはもちろんのこと、防衛省・自衛隊が行っているさまざまな取組について、新防衛大綱や新中期防で整理された考え方に即して説明するよう努めました。
国の防衛は、国民のみなさまの信頼と支持なくしては成り立ちません。この防衛白書が、一人でも多くの国民のみなさまに読まれ、わが国の防衛に対する理解を深めていただく一助となることを切に希望しています。