わが国の安全保障の目的を達成するための根幹となるのは自らが行う努力である。このため、国として統合的かつ戦略的なさまざまな取組を実施するとともに、防衛省・自衛隊としても、各種事態の発生時における自衛隊の運用はもちろんのこと、対処能力の向上をはじめとする各種施策を平素から実施している。
周辺海空域の安全確保
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各種事態に自衛隊が迅速に対応するためには、平素から領海・領空とその周辺の海空域において、常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動(常続監視)を行うなど、同海空域の安全確保に努めることが極めて重要。
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海自は一日一回を基準として、哨戒機により周辺海域を航行する船舶などの状況を監視し、さらに、主要な海峡では、陸自の沿岸監視隊や海自の警備所などが24時間態勢で警戒監視活動を行っている。
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空自は、全国のレーダーサイトと早期警戒機、早期警戒管制機などにより、わが国とその周辺上空を24時間で監視するとともに、領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合には、緊急発進(スクランブル)できるよう戦闘機などを待機させている。
島嶼部に対する攻撃への対応
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多くの島嶼が存在するというわが国の特性から、わが国に対する武力攻撃の形態の一つとして島嶼部に対する攻撃が想定される。
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これに対処するためには、常続監視などにより兆候を早期に察知することが重要である。事前に兆候を得た場合には、敵の部隊などによる攻撃を阻止する作戦を行い、また、事前に兆候が得られず島嶼を占領された場合には、これを奪回するための作戦を行うこととしている。
米海兵隊との実動訓練に参加する西方普通科連隊の隊員
サイバー攻撃への対応
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近年、サイバー空間の安定的利用に対するリスクが新たな課題となりつつある。
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自衛隊は情報システムを防護するために必要な機能を統合的に運用して対処するとともに、サイバー攻撃に対する高度な知識・技能を蓄積し、政府全体として行う対応にも寄与することとしている。
大規模・特殊災害などへの対応
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自衛隊は、災害派遣を迅速に行うため、初動態勢を整えている。
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陸自は、全国の駐(分)屯地を基盤に、初動対処部隊として人員、車両、ヘリコプターを待機させている。また、海自は、応急的に出動できる艦艇を基地ごとに指定しているほか、救難機・作戦機を待機させ、空自においては、各基地に救難機および輸送機を待機させている。
*「東日本大震災への対応」参照
海賊対処への取組
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海賊行為は海上における公共の安全と秩序の維持に関する重大な脅威である。生存と繁栄の基盤である資源や食糧の多くを海上輸送に依存しているわが国としては、国際的な責任を積極的に果たしていくことが必要である。
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このため、09(平成21)年以来、海賊事案が多発しているソマリア沖・アデン湾に護衛艦と固定翼哨戒機を派遣し、民間船舶を海賊行為から防護する取組を行っている。
護衛する船団の周囲を監視する隊員
日米安保体制は、わが国防衛の柱の一つであり、また、アジア太平洋地域の平和と安定のために不 可欠な基礎をなすものである。さらに、日米間の緊密な協力関係は、多国間の安全保障協力やグローバルな安全保障課題への対応をわが国が効果的に進める上で重要な役割を果たしている。新防衛大綱においても、日米同盟を新たな安全保障環境にふさわしい形で深化・発展させていくとされている。
日米安全保障体制の意義
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わが国の安全の確保
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米国の軍事力による抑止力を有効に機能させることで、自らの適切な防衛力の保持と合わせ、わが国の安全を確保。
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わが国の周辺地域の平和と安定の確保
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わが国に駐留する米軍のプレゼンスは、地域における不透明・不確実な要素を起因とする不測の事態に対する抑止力として機能。
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国際的な安全保障環境の改善
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卓越した活動能力を有する米国と協力して国際的な安全保障環境の改善のための取組を進めていくことにより、わが国の平和と繁栄はさらに確かなものとなる。
日米首脳会談〔内閣広報室〕
在沖縄米軍の意義・役割
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沖縄は、米本土やハワイ、グアムなどに比較し、東アジアの各地域に対し距離的に近く、またわが国の周辺諸国との間に一定の距離を置いているという地理的特徴がある。
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高い機動力と即応性を有し、さまざまな緊急事態への一次的な対処を担当する海兵隊をはじめとする米軍が沖縄に駐留していることは、わが国の安全およびアジア太平洋地域の平和と安定に大きく寄与。
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在沖米海兵隊は、06(平成18)年のインドネシアのジャワ島における地震や11(同23)年の東日本大震災に迅速に対応するなど多様な役割を果たしている。
日米共同訓練
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日米共同訓練は、戦術技量の向上を図る上で有益であり、日米の相互運用性(インターオペラビリティ)の向上は、共同対処行動を円滑に行うために欠かせない要素。また、日米の連携、調整要領を平素から訓練しておくことは、日米安保体制の信頼性と抑止効果の維持・向上につながる。
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東日本大震災への対応における日米の円滑な連携は、これまでの日米共同訓練の成果でもある。
演習場において調整する日米の隊員
日米安全保障協議委員会(「2+2」)
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日米両国は、11(同23)年6月21日、ワシントンにおいて4年ぶりの「2+2」会合を実施した。
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「2+2」成果文書(巻末資料に掲載)
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より深化し、拡大する日米同盟に向けて:50年間のパートナーシップの基盤の上に(仮訳)
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在日米軍の再編の進展(仮訳)
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東日本大震災への対応における協力(仮訳)
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在日米軍駐留経費負担(仮訳)
「トモダチ作戦」(詳細は特集「東日本大震災への対応」に掲載)
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米軍は、東日本大震災を受けた人道支援・災害救援活動を「トモダチ作戦」と命名し、大規模な支援活動を実施。
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具体的には、捜索救助、物資輸送、仙台空港の復旧、学校の清掃、気仙沼大島における瓦礫除去作業などを行った。
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防衛省・自衛隊と米軍の間で迅速かつ緊密な調整を行うべく、日米調整所を設置。
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現場部隊においても、日米間で連携して輸送や瓦礫除去などを共同で行った。
泥の除去作業
わが国にとって、アジア太平洋地域の平和と安定の確保のためには、日米同盟を基軸としつつ、この地域における多国間および二国間の対話・交流・協力の枠組を多層的に強化していくことが重要である。また、わが国にとって、グローバルな安全保障環境の改善のためには、軍事面のみならず、さまざまな分野における活動に、国際社会と一致・協力して取り組むことが重要である。
アジア太平洋地域における多国間安全保障協力・対話の推進
アジア太平洋地域における多国間の安全保障面での取組は、信頼醸成を主眼とした対話の段階から、域内秩序の形成や共通規範の構築といった具体的な協力の段階に移行しつつある。
拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)
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10(平成22)年10月、ベトナムを議長国として第1回拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)がハノイで開催された。これまで、アジア太平洋地域の国防相が出席する政府主催の多国間の会議はなかったことから、地域の安全保障協力の発展・深化の促進という観点から、極めて意義が大きい。
ハノイ共同宣言への署名の様子
シャングリラ会合
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IISSアジア安全保障会議(シャングリラ会合)は、民間のシンクタンクのIISSが主催する国際会議であり、毎年、アジア太平洋地域の国防大臣などが多数参加している。 11(同23)年6月の第10回会議においては、わが国からは北澤防衛大臣が前回に引き続いて参加し、「アジアにおける新たな防衛政策と能力」と題するスピーチを行った。
シャングリラ会合においてスピーチする北澤防衛大臣
各国との防衛協力・交流の推進
二国間では、親善目的のみならず実務的な性格を有する交流や、対話のみならず行動をともなう交流の重要性が高まり、相手国によっては、単なる交流から防衛協力を行う段階へと発展・深化してきている。
折木統合幕僚長とアンガス・ヒューストン豪国防軍司令官
日韓防衛相会談(ソウル)に際し儀じょうを受ける北澤防衛大臣
国際平和協力活動への取組
国際平和協力活動に積極的に取り組むことは、わが国を含む国際社会の平和と安全の維持に貢献するだけでなく、 諸外国などに自衛隊の能力を示す機会にもなり、わが国に対する信頼性の向上にもつながる。
国連平和維持活動
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新たな国連平和維持活動として、10(平成22)年9月から、東ティモール統合ミッションに軍事連絡要員を派遣している。派遣された隊員は、同地の治安維持および回復のために必要な各地の治安状況について情報を収集する任務にあたっている。
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また、ハイチ大地震災害にともない10(同22)年1月から派遣されている国連ハイチ安定化ミッションについても、引き続き、約330名の隊員が復旧・復興および安定化に向けた努力を支援している。
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これらの国連平和維持活動のほかに、現在、国連スーダン・ミッション、国連兵力引き離し監視隊においても活動を継続している。また、国連平和維持活動局への自衛官派遣やアフリカのPKOセンターへの講師派遣なども行っている。
国連スーダン・ミッション
国際緊急援助活動
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10(同22)年8月、パキスタンにおける記録的な豪雨により被災した地域において、物資の輸送や人員の輸送活動を行うため、多用途ヘリコプター(UH-1)3機と輸送ヘリコプター(CH-47)3機からなる国際緊急航空援助隊を編成し、同国に派遣した。(同年10月に任務終了)
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また、11(同23)年2月、ニュージーランド南島地震災害(クライストチャーチ付近を震源)においても、政府専用機2機(うち1機は予備機)からなる国際緊急援助空輸隊を編成し、消防、警察などで編成された国際緊急援助隊と物資の緊急輸送を行った。(同年3月に任務終了)
パキスタン国際緊急援助活動
防衛省・自衛隊はさまざまな組織で構成されているが、その組織が機能を十分に発揮するた めには、優れた能力を持つ隊員と最先端の装備品やシステムが一体となって機能することはもちろんのこと、これらの装備品やシステムを生み出す技術力、生産力などが盤石であり、かつ防衛省・自衛隊の取組に対する国民や地域社会の理解と協力を得ることが必要不可欠である。
人的基盤に関する改革
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人事制度の抜本的な見直しを図り、人件費の抑制・効率化、隊員の若年化などによる精強性の向上を推進するため、「人的基盤に関する改革委員会」を設置。
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「防衛力の実効性向上のための構造改革推進委員会」と連携しつつ、人的基盤の効果的活用のためのさまざまな施策の検討を実施中。
防衛大学校改革
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自衛隊が任務の多様化、国際化に対応し、国民から真に信頼され、内外で発展していくためには、人的基盤の充実が急務。
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防衛大学校は、自衛隊の高等教育機関であり、卒業生は自衛隊の中核となって活躍しているが、少子化にともなう18歳人口の減少や大学進学率の上昇の中、引き続き質の高い学生を確保し、高い規律を維持しつつ、優秀な幹部自衛官となるよう教育を行っていくことが重要な課題となっている。
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このため、「防衛大学校改革に関する検討委員会」を設置し検討が行われ、11(平成23)年6月1日に検討結果が報告された。
防衛大学校改革に関する検討委員会報告書のポイント
(1) 新たな防衛大学校の役割
自衛隊を巡る新たな環境のもとで必要な幹部自衛官の資質も変化。防大教育は新たな時代の要請に応えるべく、建学以来の伝統の上に改良を行うことが必要。このため、新たな役割を以下のように整理。
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「知」「徳」「体」のバランスの良い発展を目指す教育、「廉恥・真勇・礼節」の学生綱領の実践は不変
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幅広い任務をグローバルな環境下で遂行するのに不可欠な柔軟な思考力・知的基盤の涵養
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公開講座や講演、出版などを通じた安全保障に関する知識の社会的発信
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地域の誇りとして認識され、その理解のもと、高等教育機関・研究機関としての役割を果たしていくための地域社会との連携
(2) 教育理念の明示
防大は、上記の役割を果たし、我が国における防衛・安全保障分野の第一級の高等教育・研究機関として発展していくことが必要。このため「建学の精神」に立ち返りつつ、新たな時代の要請に応えていくために教育理念を整理。
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我が国の平和と独立を守り、国際社会の安定に寄与する自衛隊のリーダーを養成する。
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「真の紳士淑女にして、真の武人」というように、リーダーに相応しい豊かな人間性をかん養する。「廉恥・真勇・礼節」の学生綱領をその中軸とする。
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伸展性のある知・徳・体のバランスのとれた基盤的素養を養う。広い視野と科学的思考力を特に重視する。
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国際社会の中での日本の防衛力を担う強い志と使命感を確立し、幹部自衛官として必要な基本的識能を身につける。
(3) 人材確保のための施策
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入試制度改革
・AO(アドミッション・オフィス)方式による総合選抜入試を導入。また、現行一般入試に加え、2月から3月にかけて実施する新型一般入試を平成24年度試験から導入。
・平成24年度試験より、一般入試の一次試験(現在11月に実施)を可能な限り後ろ倒しして実施するほか、平成23年度試験より、面接を重視し、資質・入校意欲を従来以上に考慮。
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多様な人材の確保
理工系の人材を確保するため、高等専門学校の卒業生を、一般教育に関しては理系の3学年相当程度に編入させる施策を検討。
(4) 教育訓練、研究の充実
・基礎学力と基礎体力の指導を強化し、資質人格教育を充実。防衛・安全保障に関する教育研究成果を発信。
・外国語教育を強化し、外国士官学校交流を強化。また、女子学生に配慮した訓練管理の実施等、訓練の充実・改善を実施。
・防衛医科大学校第1学年に対し、リーダーシップ教育として防衛大学校において約1か月間教育を実施。
(5) 防衛大学校の運営、態勢などの改革
・教務・訓練などの部内を横断する機能を強化するほか、教授などの任期付き採用や客員教授の任用拡大を実施。
・一般の大学生との公平の観点から、任官辞退者からの償還制度を導入するとともに、学位審査手数料を学生の負担とするほか、入学試験の手数料徴収を検討する。
防衛生産・技術基盤の維持・育成
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防衛力の発揮に必要な各種装備品の生産・維持を支える、防衛生産・技術基盤の維持・育成が喫緊の課題。
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昨今の厳しい財政事情から、国内にすべての防衛生産・技術基盤を保持することは極めて困難なため、安全保障上の重要性および国内産業の競争力強化の観点から、国内に保持すべき重要なものを指定し、その分野の維持・育成に力を傾注(「選択と集中」)。
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「防衛生産・技術基盤研究会」を開催し、防衛生産・技術基盤の現状調査・分析およびそのあり方について検討を実施しており、11(同23)年7月には中間報告を提出。
総合取得改革の推進
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厳しい財政事情や装備品の高価格化など、装備品の取得をめぐるさまざまな問題がある中、防衛上の所要に応じた装備品を適切かつ効率的に取得するため、装備品の開発、構想段階から運用、廃棄の段階まで見すえ、装備品の調達制度や維持、整備のあり方の見直しを含めた「総合取得改革」を推進している。
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改革推進のため、「総合取得改革プロジェクトチーム」において、以下の項目に関して検討を実施中。
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ライフサイクルコスト管理の強化
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インセンティブ契約制度の拡充
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コスト抑制のための努力
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公正性、透明性の向上のための取組
地域社会とのかかわり
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地方公共団体のみならず、国民一人ひとりの理解と協力を得るべく、さまざまな活動を行っている。