第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

第2節 日米同盟の深化
本節では、日米安保体制の歴史的背景と今後の方向性を示す日米同盟の深化のプロセスについて説明する。

1 歴史的経緯
日米両国は、従来から、わが国を取り巻く安全保障環境などを踏まえて防衛協力を発展させてきた。
(図表III-2-2-1参照)
 
図表III-2-2-1 日米防衛協力の範囲の変化

冷戦期においては、日米安保体制は、自由主義陣営としてのわが国の安全の確保とともに、地域の平和と安定に寄与してきた。
冷戦終結後、96(平成8)年には、日米両国首脳による「日米安全保障共同宣言」(「宣言」)を発表した。この中では、冷戦後のアジア太平洋地域の情勢を踏まえて、日米同盟の重要性を再確認するとともに、78(昭和53)年の「日米防衛協力のための指針」1(「前指針」)の見直し、弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)に関する研究、沖縄における米軍施設・区域の整理・統合・縮小、アジア太平洋地域における平和と安定の実現といった分野において、両国間の協力関係を前進させることとした。
翌97(平成9)年の「2+2」では、前年の「宣言」で示された協力関係前進の一環として、新たな「指針」が了承された。これにより、平素からならびに日本に対する武力攻撃および周辺事態に際してより効果的かつ信頼性ある日米協力を行うための基盤が整備され、また、平素からの、および緊急事態における日米両国の役割、協力や調整のあり方について、冷戦後の情勢の変化を踏まえた一般的な大枠と方向性が示された。
その後、01(同13)年の9.11テロや大量破壊兵器の拡散など安全保障環境のさらなる変化を踏まえ、日米両国は安全保障に関する協議を強化してきた。この日米協議においては、アジア太平洋地域の平和と安定の強化を含む日米両国間の共通戦略目標の確認(第1段階)、共通戦略目標を達成するための日米の役割・任務・能力の検討(第2段階)、兵力態勢の再編の検討(第3段階)、という三つの段階を経て日米同盟の方向性を整理した。その内容は、07(同19)年5月の「2+2」においても確認され、10(同22)年5月の「2+2」共同発表で補完されている。
(図表III-2-2-2・3参照)
参照 資料36、41〜46
 
図表III-2-2-2 日米協議の全体像
 
図表III-2-2-3 「再編の実施のための日米ロードマップ」に示された在日米軍などの兵力態勢の再編

このような両国間の政策協議と並行して、具体的な課題に対応する形で、部隊運用面も含め両国間の協力関係も強化されてきた。たとえば、日米防衛協力のための指針に定められた平素から行う協力として、日本に対する武力攻撃に際しての共同作戦計画についての検討および周辺事態に際しての相互協力計画についての検討を含む共同作業が進められている。こうした共同作業などを踏まえ、従来の部隊間での指揮所演習、実動訓練のみならず、共同統合実動演習などの共同訓練を行い、さらなる相互運用性(インターオペラビリティ)の向上に努めている。
加えて、日米豪などの三か国訓練やコブラゴールドなどの多国間で行われる訓練にも参加しており、その結果日米両国間の協力体制は様々な分野において進展している。また近年では、地方自治体が開催する防災訓練に在日米軍も参加し、関係機関や自治体との連携を深めている。さらに、今般の東日本大震災においては、これまでの日米共同訓練などの成果を生かして、米軍は自衛隊と連携して「トモダチ作戦」を実施した。
また、弾道ミサイルへの対応において、運用情報の共有や対処要領について日米間の協議を行い、弾道ミサイル攻撃に際しての日米共同対処能力を向上させてきた。その成果として09(同21)年4月の北朝鮮による弾道ミサイル発射の際にも日米で緊密な連携を行うことができた。また装備面では、従来からの脅威への対処能力の向上を図るとともに高性能、多様化する将来の弾道ミサイル脅威に対処するため、弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルなどの日米共同開発を進めている。
国際的な安全保障環境改善へ向けた取組においては、01(同13)年12月以降、中断をはさみながら約8年にわたり、旧テロ対策特措法(同法の失効後は旧補給支援特措法)に基づき行ったインド洋における補給活動により、米国をはじめとするテロ対策に取り組む諸外国の艦船に対する洋上補給などを実施し、03(同15)年以降、約5年にわたる旧イラク特措法に基づく活動においても、米国とともに活動したことで、日米の安全保障面での協力を緊密化させることとなった。
また、ハイチにおける国際緊急援助活動および国際平和協力業務にあたっては、部隊展開および要員交代のための要員・物資などの空輸にあたり、ハイチとの中継地として米国カリフォルニアおよびマイアミに所在する米軍基地の使用やハイチでの国際空港の使用に関する調整など運用面におけるさまざまな分野で協力を推進した。さらに、アデン湾における海賊対処活動においても、米国およびEUなどの各国・機関派遣部隊などとの情報共有を通じて、関係各国が実施する立ち入り検査などに協力している。こうした日米両国の協力関係は今や、アジア太平洋地域の安定化やグローバルな安全保障環境の改善を図る上でも重要性を増している。
こうした日米が協力する機会の増加にともない、96(同8)年に署名した日米物品役務相互提供協定(ACSA)についても、年間200件程度であった物品役務の相互提供が、近年では年間500件を超えるなど、後方支援においても日米間の協力は着実に進展している。


 
1)78(昭和53)年に作成された前指針。日米安保条約などの目的を効果的に達成するため、日米の協力のあり方について規定したものである。


 

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