第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

8 その他の対応

1 自衛隊施設などの警護態勢の整備
(1)自衛隊の施設などの警護出動
内閣総理大臣は、国内の自衛隊施設や在日米軍施設・区域でテロが行われるおそれがあり、被害を防止するため特別の必要があると認める場合には、当該施設または施設・区域の警護のために自衛隊の部隊などの出動(警護出動)を命ずることができる。
警護出動を命ぜられた部隊などの自衛官の職務の執行については、警察官職務執行法に基づく権限が一部準用1されるほか、同法第7条を超える武器の使用権限なども規定されている。
参照 資料25・26

防衛省・自衛隊は、警護出動の実効性を確保するため、03(平成15)年以降、各地の在日米軍施設・区域において警護出動訓練を行っているほか、警察や海上保安庁との間で意見交換を行っている。
 
警護出動下における日米共同対処訓練
警護出動下における日米共同対処訓練

(2)平素における自衛隊の施設警護のための武器の使用
国内の自衛隊の施設2を自衛官が職務上警護する際の武器使用権限が規定3されている。

2 在外邦人等の輸送態勢の整備
防衛大臣は、外国での災害、騒乱、その他の緊急事態に際し、外務大臣から依頼があった場合、協議をした上で、在外邦人等の輸送を行うことができる。その際は、自衛隊などが、派遣先国の空港・港湾などで、在外公館から在外邦人を引き継ぎ、航空機・船舶まで安全に誘導することとなる。このため、陸自ではヘリコプター隊と誘導隊4の要員を、海自は輸送艦をはじめとする艦艇と航空部隊を、空自では輸送機部隊と派遣要員をそれぞれ指定するなど待機態勢を維持している。
在外邦人等の輸送は、陸・海・空自の緊密な連携が必要となることから、輸送機や輸送艦などを用いた協同訓練を行っている。11(同23)年1月には、空自小牧基地などで平成22年度在外邦人等輸送協同訓練が行われ、陸・海・空自部隊が訓練に参加し、それぞれの指揮官の下、各部隊相互の連携要領を訓練した。
 
在外邦人等輸送協同訓練(空自小牧基地)
在外邦人等輸送協同訓練(空自小牧基地)

また、防衛省は、毎年タイで行われている多国間共同訓練コブラ・ゴールドにおける在外邦人等の輸送訓練に、在タイ日本国大使館の協力を得て、同大使館職員およびその家族ともに参加している。なお、平成22年度はタイ以外の在外日本大使館の関係職員も同訓練に参加した。こうした訓練を通じ、外務省との連携要領や海外における自衛隊の活動要領への習熟を深め、任務遂行のための能力向上に努めている。
なお、在外邦人等の輸送は、07(同19)年1月、本来任務と位置づけられた。
(図表III-1-2-21参照)
参照 資料25・26

 
図表III-1-2-21 在外邦人等の輸送の一例

3 周辺事態への対応
防衛省・自衛隊は、周辺事態に際して、周辺事態安全確保法や船舶検査活動法に定める後方地域支援としての物品・役務の提供や後方地域捜索救助活動、船舶検査活動を行うこととしている。
なお、こうした活動は、07(同19)年1月、本来任務と位置づけられた。
参照 2章1節2、資料25・26

4 新型インフルエンザへの対応
防衛省・自衛隊は、政府の新型インフルエンザ対策行動計画5の改定を踏まえ、09(同21)年3月に新型インフルエンザ対策を的確かつ迅速に行うため、整備すべき態勢、措置の内容などの方針を示すことを目的とした「防衛省新型インフルエンザ対策計画」6を策定した。
本計画では、基本方針として、1)防衛省・自衛隊が平素から関係機関と密接に連携・協力すること、2)新型インフルエンザが発生した場合においても主たる任務の遂行に万全を期すこと、3)関係機関からの要請に応じ、自衛隊員の安全を確保した上で、新型インフルエンザ対策に関する活動を行うことをあげている。また、具体的な自衛隊の活動の例として、家きん7に対する防疫対策、在外邦人等の輸送、医官などによる検けんえき疫支援、救援物資などの輸送、防衛医科大学校病院や自衛隊病院での診断・治療などをあげている。
防衛省・自衛隊は、本計画を実効性あるものとするため、具体的な活動要領などの検討を進めている。こうした中、統幕は、09(同21)年8月、新型インフルエンザが発生した場合における各自衛隊の具体的な実施要領を提示し、各活動を迅速に行うことに資するため「自衛隊新型インフルエンザ対策実施要領」を策定した。また防衛省は、10(同22)年6月、新型インフルエンザが発生した場合においても機能を維持し必要な業務を継続することができるよう、「防衛省新型インフルエンザ対応業務継続計画」8を策定した。

5 軍事情報の収集
各種事態で防衛力を効果的に運用するためには、各種事態の兆候を事前に察知し、迅速・的確な情報の収集・分析・共有を行うことがより一層求められている。そのため、わが国の安全保障の観点からは、より広範で総合的な情報能力が必要となっている。
これらを踏まえ、防衛省・自衛隊では、情報収集手段の多様化を図るとともに、各種情報の総合的な分析・評価に努めている。情報収集活動の例としては、1)わが国上空に飛来する軍事通信電波や電子兵器の発する電波などの収集・処理・分析、2)高分解能商用衛星画像データの収集・解析9、3)艦艇・航空機などによる警戒監視、4)各種公刊情報の収集・整理、5)各国国防機関などとの情報交換、6)防衛駐在官などによる情報活動10などがあげられる。また、安全保障環境や技術動向などを踏まえた多様な情報収集能力や総合的な分析・評価能力などを強化するため、人材の育成や各種情報収集器材・装置などの充実を図るとともに、情報能力を支える情報本部をはじめとする情報部門の体制の充実を図っている。


 
1)犯罪の予防および制止、武器の使用が認められるほか、警察官がその場にいない場合に限り、質問、避難等の措置、土地などへの立入が認められる。

 
2)自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備もしくは液体燃料を保管し、収容しもしくは整備するための施設設備、営舎または港湾もしくは飛行場にかかわる施設設備が所在するもの。

 
3)当該職務を遂行するためまたは自己もしくは他人を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、当該施設内において、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、正当防衛または緊急避難に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

 
4)輸送部隊(自衛隊の航空機・艦艇)とともに派遣され、現地において在外邦人などの誘導・防護にあたる臨時に編成される部隊。

 
5)軍事情報の収集<http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/kettei/090217keikaku.pdf>参照。

 
6)<http://www.mod.go.jp/j/news/2009/03/17b-02.pdf>参照。

 
7)鶏、あひる、うずらなど、家畜として飼養されている鳥。

 
8)この計画に基づき、同年4月から6月にかけて、新型インフルエンザ(A/H1N1)対策として、防衛省・自衛隊は、厚生労働省からの要請に基づき、防衛医科大学校や自衛隊の医官などのべ約1,260名を、成田、関西および中部の各空港検疫所に派遣し、検疫支援を行った。

 
9)わが国独自の画像情報収集能力を強化するため、これまでに5基の情報収集衛星が打ち上げられ、防衛省においても、情報収集衛星から得られる情報を適切に活用している。

 
10)11(平成23)年1月1日現在、防衛省から外務省に出向した防衛駐在官49名(陸23名、海13名、空13名)が、38か所の在外公館に派遣されており、自衛官の経験などを活かし、派遣された国の国防関係者や各国の駐在武官との交流を通じて軍事情報の収集などを行っている。


 

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