第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

第2節 実効的な抑止及び対処
新防衛大綱では、実効的な抑止及び対処は防衛力の役割の一つとされている。本節では、この役割を効果的に果たすために重視している点について、さまざまな事態における統合運用体制下での自衛隊の対応を例にとりながら説明する。

1 周辺海空域の安全確保
本格的な侵略事態はもとより、各種事態に際し、自衛隊が迅速に対応するためには、平素から領海・領空とその周辺の海空域において常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動( 常続監視)を行うなど、同海空域の安全確保に努めることが極めて重要であり、新防衛大綱においても特に重視することとされている。また、こうした活動により、アジア太平洋地域の安全保障環境の安定化にも寄与している。

1 周辺海域における警戒監視
海自は、1日に1回を基準として、哨戒機(P-3C)により、北海道の周辺海域や日本海、東シナ海を航行する船舶などの状況を監視している。また、ミサイル発射に対する監視など必要に応じ、護衛艦・航空機を柔軟に運用して警戒監視活動を行い、わが国周辺における事態に即応する態勢を維持している。さらに、主要な海峡では、陸自の沿岸監視隊や海自の警備所などが、24時間態勢で警戒監視活動を行っている。
 
警戒監視活動中のP-3C哨戒機
警戒監視活動中のP-3C哨戒機

2 領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル)
空自は、全国のレーダーサイトと早期警戒機(E-2C)、早期警戒管制機(E-767)などにより、わが国とその周辺の上空を24時間態勢で監視している。また、戦闘機が直ちに発進できるよう、その一部を常に待機させている。領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合、緊急発進(スクランブル)した空自の戦闘機などがその航空機に接近して状況を確認し、必要に応じてその行動を監視する。実際に領空侵犯が発生した場合には、退去の警告などを発する。
 
緊急発進のためF-15に駆け込む隊員
緊急発進のためF-15に駆け込む隊員

なお、平成22年度の空自機による緊急発進(スクランブル)回数は386回であった1
(図表III-1-2-1・2参照)
 
図表III-1-2-1 最近10年間の緊急発進実施回数とその内訳
 
図表III-1-2-2 緊急発進の対象となったロシア機および中国機の飛行パターン例

3 領水内潜没潜水艦への対処
わが国の領水2内で潜没航行する外国潜水艦に対しては、速やかに海上警備行動3を発令して対処する。こうした潜水艦に対しては、国際法に基づき海面上を航行し、かつ、その旗を揚げるよう要求し、これに応じない場合にはわが国の領海外への退去を要求する。
参照 資料25・26

海自は、わが国の領水内を潜没航行する外国潜水艦を探知・識別・追尾し、こうした潜水艦に対するわが国の意思を表示する能力の整備・向上と浅海域における対処能力の維持・向上を図っている。

4 武装工作船などへの対処
(1)基本的考え方
武装工作船と疑われる船(不審船)には、警察機関である海上保安庁が第一義的に対処するが、海上保安庁では対処することが不可能または著しく困難と認められる場合には、機を失することなく海上警備行動を発令し、自衛隊が海上保安庁と連携しつつ対処する。
参照 資料25・26

防衛省・自衛隊は99(平成11)年の能登半島沖での不審船事案4や01(同13)年の九州南西海域での不審船事案5などで得られた教訓・反省事項を踏まえ、不審船に対して効果的かつ安全に対処するため、関係省庁と連携を強化し、政府として万全を期すべく、必要な措置を講じてきている。

(2)武装工作船などへの対処のための防衛省・自衛隊の取組
ア 装備品などの充実
海自は、1)能力を向上したミサイル艇の配備6、2)「特別警備隊」7の編成、3)護衛艦などへの機関銃の装備、4)強制停船措置用装備品(平頭弾)8の装備、5)艦艇要員の充足率の向上などを行っている。

イ 海上保安庁との連携の強化のための措置
防衛省と海上保安庁は、定期的な相互研修、情報交換、共同訓練などを行っている。99(同11)年、防衛庁(当時)は、海上保安庁との間で、不審船が発見された場合の情報連絡体制や初動対処要領、海上警備行動の発令前後における役割分担(共同対処要領)などを定めた「不審船に係る共同対処マニュアル」を策定した。
海自は、同マニュアルに基づき、不審船に対する追尾・捕捉の要領や通信などの共同訓練を海上保安庁と行っており、連携の強化を図っている。


 
1)緊急発進(スクランブル)回数の対象別の割合(推定含む。)はロシア約68%、中国約25%、台湾約2%、その他約5%。

 
2)領海および内水。

 
3)「海上における警備行動」(自衛隊法第82条)。海上における人命もしくは財産の保護または治安の維持のため特別の必要がある場合に自衛隊がとる行動で内閣総理大臣の承認が必要。

 
4)警戒監視活動中の哨戒機(P-3C)が能登半島東方、佐渡島西方の領海内で日本漁船を装った北朝鮮の工作船と判断される不審船2隻を発見した。巡視船、護衛艦、航空機などで1昼夜にわたり追跡したが、両船は、防空識別圏外へ逃走し、北朝鮮北部の港湾に到達したものと判断された。

 
5)警戒監視活動中の哨戒機(P-3C)が不審な船舶を発見し、巡視船、航空機で追尾・監視を行った。不審船は海上保安庁の度重なる停船命令を無視し逃走を続けたため、射撃警告の後、威嚇射撃を行った。しかし同船は引き続き逃走し、追跡中の巡視船が武器による攻撃を受けたため、巡視船による正当防衛射撃を行い、その後同船は自爆によるものと思われる爆発を起こし沈没するに至った。捜査過程で判明した事実などから、北朝鮮の工作船と特定された。02(平成14)年にも、警戒監視活動中の哨戒機(P-3C)が能登半島沖の北北西約400km(わが国の排他的経済水域外)において不審船の疑いのある船舶を発見し、巡視船、護衛艦、航空機で追尾・監視を行った事案が起きている。

 
6)04(平成16)年3月までに、計6隻が配備済みであり、主に次の点を充実させている。1)62口径76ミリ速射砲の搭載、2)船体の大型化による居住性の向上、3)航続距離の延伸、4)艦橋への防弾措置、5)暗視装置の装備。

 
7)01(平成13)年3月、海上警備行動下に不審船の立入検査を行う場合、予想される抵抗を抑止し、その不審船の武装解除などを行うための専門の部隊として海自に新編された。

 
8)護衛艦搭載の76mm砲から発射する無炸さくやく薬の砲弾で、先端部を平坦にして、跳弾の防止が図られている。


 

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