2 16大綱見直しの経緯
以上のような安全保障環境のもとで、10(平成22)年12月に新防衛大綱が策定されるに至ったところであるが、それまでの経緯は、以下のとおりである。
(1)09(同21)年の検討および見直し時期の変更
1節3で述べたとおり、16大綱は、策定の5年後には、検討の上、必要な修正を行うこととされていた。09(同21)年は、16大綱策定の5年後にあたることから、見直しに向けて所要の検討が進められた。同年1月より開催された「安全保障と防衛力に関する懇談会」は、同年8月には麻生内閣総理大臣(当時)に報告書を提出した。防衛省においても、08(同20)年に設置した「防衛力の在り方検討のための防衛会議」
1において、防衛力のあり方などについて議論を行った。
しかしながら、09(同21)年8月に実施された総選挙の結果、政権交代となった。16大綱の見直しについては、国家の安全保障にかかわる重要課題であり、政権交代という歴史的転換を経て、新しい政府として十分な検討を行う必要があると判断され、同年12月の閣議決定「平成22年度の防衛力整備等について」において、同年ではなく、翌10(同22)年中に結論を得ることとされた
2。あわせて、この閣議決定においては、平成22年度の防衛力整備について、16大綱の考え方に基づき行うこととした上で、・各種事態の抑止および即応・実効的対応能力の確保、・地域の安全保障環境の一層の安定化、・グローバルな安全保障環境の改善に向けた取組の推進、・効率化・合理化に向けた取組といった4つの重点事項など、中期防がない中で適切に防衛力整備を行うための方針を定めた。これらの重点事項は、新防衛大綱における防衛力のあり方を検討する際にも参考となるものであった。
(2)10(同22)年の政府・防衛省における検討
1)新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会
政府は、防衛大綱の見直しについての検討に資するため、10(同22)年2月より、安全保障と防衛力のあり方に関係する分野などの有識者などで構成する「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」
3を開催した。同懇談会は、同年5月までに8回開催され、8月27日に報告書
4を菅内閣総理大臣に提出した。
報告書では、1)日本の安全と繁栄、2)日本周辺地域と世界の安定と繁栄、3)自由で開かれた国際システムの維持、という3つの安全保障上の目標を示し、そのための戦略および手段として、日本を取り巻く安全保障環境などについて分析しつつ、1)日本自身の取組、2)同盟国との協力、3)多層的な安全保障協力、の必要性について述べている。
防衛力のあり方についての基本的な考え方としては、平素から防衛力の適時適切な運用を行い、高い防衛能力を明示し得る運用能力を兼ね備えた、いわば動的抑止力が重要になっていることなどを指摘している。また、今後防衛力が果たすべき役割として、16大綱で示された3つの役割
5を再構成し、1)多様な事態への対応、2)日本周辺地域の安定の確保、3)グローバルな安全保障環境の改善、の3つを提示するとともに、これら3つの役割を果たすために必要な防衛力の機能と体制について選択と集中を進めるべきことなどを提言している。
日本の目指す防衛力を支えるためになすべき基盤整備について、1)人的基盤について、少子高齢化時代の自衛隊における課題について早期に具体的な制度設計を行うべきことなど、2)物的基盤について、防衛産業・技術戦略を示すべきこと、装備品の国際共同開発・共同生産に参加できるようにすべきことなど、3)社会的基盤について、緊急事態における国民への情報伝達のあり方の検討の必要性、防衛施設の存在に関し地域住民に理解と協力を求める必要性、防衛施設の日米共同使用化に取り組むべきことなど、をそれぞれ指摘している。また、安全保障戦略を支える基盤の整備として、安全保障戦略をより効果的なものとし、また防衛力を安全保障の手段として適切に活用するために必要な制度や体制などの基盤の整備について述べている。
2)防衛省における検討
政府としての検討に資するため、防衛省としては、16大綱が策定された04(同16)年以降の日米関係や周辺国における新しい事象、国際平和協力活動の本来任務化などを踏まえつつ、防衛大綱の評価、国際情勢、防衛力の役割、今後の課題を踏まえたわが国のあるべき防衛体制などについて、省内の他の検討とも関連付けながら幅広く議論を行った。
具体的には、北澤防衛大臣の指示のもと、政権交代を踏まえた新しい視点から、より効果的な防衛力を効率的に整備するため、安全保障環境認識、防衛力の役割、定員・実員のあり方、防衛生産・技術基盤のあり方、人的側面の施策のあり方、実効性のある自衛隊の体制のあり方など、防衛省・自衛隊が直面する多様な課題を含めて総合的な検討を行った。この防衛省における検討内容は、次に述べる安全保障会議などにおける政府としての検討において、重要な役割を果たした。
3)安全保障会議などにおける検討
今後の安全保障や防衛力のあり方を検討するため、10(同22)年9月からは、安全保障会議において、1)で述べた「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告も検討材料の一つとしつつ、政府としての議論が進められるとともに、論点整理や意見集約のための関係閣僚間における議論も精力的に行われた。9回に及ぶ安全保障会議における今後の防衛力のあり方についての幅広い観点からの総合的な審議を経て、10(同22)年12月17日に新防衛大綱が安全保障会議と閣議において決定された。
(図表II-2-2-2参照)