第II部 わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など 

第2章 新防衛大綱

 わが国の防衛力整備は、これまで、国際情勢の枠組、自衛隊の現状、わが国周辺諸国の状況、経済財政事情などに応じて、最も適切な方法により行われてきている。「 防衛計画の大綱」は、安全保障の基本方針、防衛力の意義や役割、さらには、これらに基づく、自衛隊の具体的な体制、主要装備の整備目標の水準といった今後の防衛力の基本的指針を示すものである。  本章では、第1節でこれまでの防衛計画の大綱の変遷を説明し、第2節および第3節では、昨年12月に決定された「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」(新防衛大綱)の策定の背景およびその内容について、それぞれ説明する。 参照 資料7

第1節 防衛大綱の変遷
わが国は、昭和33年度以降、4次にわたる防衛力の整備計画に基づき、防衛力の漸進的な整備を行ってきたが、76(昭和51)年10月に、わが国が保有すべき防衛力の水準を明らかにし、わが国の防衛力整備のあり方などについての指針を示すものとして、「昭和52年度以降に係る防衛計画の大綱」1(51大綱)が国防会議2と閣議で初めて決定された。その後、冷戦の終結などの国際情勢の大きな変化、自衛隊の国際活動を含む役割に対する期待の高まりなどを踏まえて、95(平成7)年11月に「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱」3(07大綱)が、さらに、国際テロ組織の活動、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散などが国際社会の共通の課題となっていることなどを踏まえて、04(同16)年12月に「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」4(16大綱)が、それぞれ安全保障会議と閣議で決定された。わが国は、こうした防衛計画の大綱に基づき、昭和61年度以降は中期防衛力整備計画(中期防)を5年ごとに策定し、現在に至るまで防衛力の整備・維持・運用などを行ってきた5
(図表II-2-1-1参照)
本節では、これまでわが国が策定してきた防衛計画の大綱のポイントを説明する。
 
図表II-2-1-1これまでの防衛力整備計画の推移

1 「昭和52年度以降に係る防衛計画の大綱」(51大綱)
51大綱の特徴は、防衛力整備の基本的な考え方として基盤的防衛力構想を取り入れるとともに、この構想のもと、整備すべき防衛力の具体的な目標ないし水準を明示したことである。
51大綱は、70年代のデタント1を背景として策定されたものであり、当時の国際情勢について、・全般的には、さまざまな国際関係の安定化の努力などにより東西間の全面的軍事衝突などが生起する可能性は少ない、・わが国周辺においては、米中ソの均衡的な関係と日米安保体制の存在がわが国への本格的な侵略の防止に大きな役割を果たし続けるとの認識に立っている。
51大綱は、このような情勢が当分の間大きく変化しないという前提に立って、わが国が保有すべき防衛力は、
1)防衛上必要な各種の機能を備え、
2)後方支援体制を含めてその組織および配備において均衡のとれた態勢を保有することを主眼とし、
3)これをもって平時において十分な警戒態勢をとり得るとともに、
4)限定的かつ小規模な侵略までの事態に有効に対処することができ、
5)さらに情勢の変化が生じ、新たな防衛力の態勢が必要とされるに至ったときには、円滑にこれに移行し得るよう配慮されたものとする
こととされ、これが「基盤的防衛力構想」として示された。4次にわたるそれまでの防衛力整備計画に基づき漸進的に整備されてきた当時の防衛力の現状は、規模的にはこの構想において目標とするところとほぼ同じ水準にあると判断された。
さらに、51大綱では、「防衛の構想」として、わが国の防衛は、わが国自ら適切な規模の防衛力を保有し、日米安保体制と相まって、いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構築することにより、わが国への侵略を未然防止することが基本であるとしている。
つまり、51大綱で導入した基盤的防衛力構想は、わが国への侵略を起こさせないことに重点を置いた抑止効果を中心とした考え方であるということができる。


 
1)<http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/1977/w1977_9110.html>参照。

 
2)86(昭和61)年に、安全保障会議に機能が引き継がれた。

 
3)<http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/1996_taikou/dp96j.html>参照。

 
4)<http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2005/taikou.html>参照。

 
5)平成22年度を除く。2節2(1)参照。

 
1-1)米ソ間における平和共存と対等を謳った「基本原則」宣言などの一連の東西冷戦の緊張緩和をいう。


 

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