第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 軍事

1 国防政策
中国は、国家の安全と発展の利益に見合った強固な国防と強大な軍隊の建設を国家の近代化建設のための戦略的な任務であると位置づけており、国防政策の目標と任務については、主に、国家の主権、安全、発展の利益を擁護すること、社会の調和と安定を擁護すること、国防と軍隊の近代化を推進すること、ならびに世界の安定と平和を擁護することであるとしている1
中国は、湾岸戦争やコソボ紛争、イラク戦争などにおいて見られた世界の軍事発展の趨勢(すうせい)に対応し、情報化条件下の局地戦に勝利するとの軍事戦略2に基づいて、軍事力の機械化および情報化を主な内容とする「中国の特色ある軍事変革」を積極的に推し進めるとの方針をとっている。中国は、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視しているとみられ、「三戦」と呼ばれる「輿論(よろん)戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作の項目に加えた3ほか、「軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させる」4との方針も掲げている。
中国の軍事力近代化においては、ロシアなど陸上で国境を接する周辺諸国との関係の安定化を背景として、台湾問題への対処、具体的には台湾の独立および外国軍隊による台湾の支援を阻止する能力の向上5が、最優先の課題として念頭に置かれていると考えられる。さらに、近年では、台湾問題への対処以外の任務のための能力の獲得にも取り組み始めている6。軍事力近代化の長期的な計画については、「2020年までに機械化を基本的に実現させ、情報化建設において重大な進展を成し遂げる」との目標を掲げ、「情報化条件下における局地戦で勝利する能力を中核とする、多様化した軍事任務を完遂する能力を向上させ、新世紀における新段階での軍隊の歴史的使命を全面的に履行する」7としており、国力の向上に伴い軍事力も発展させていく考えであるとみられる。
中国は、核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした軍事力の広範かつ急速な近代化を進め、戦力を遠方に投射する能力の強化に取り組んでいる。また、各軍・兵種間の統合作戦能力の向上、実戦に即した訓練の実施、情報化された軍隊の運用を担うための高い能力を持つ人材の育成および獲得、国内の防衛産業基盤の向上に努めている。人民解放軍には依然として旧式な装備も多く、現在行われている軍事力の近代化は軍の能力を全面的に向上させようとする取組であると考えられるが、その具体的な将来像は明確にされていない。さらに、中国は、自国の周辺海域において活動を拡大・活発化させている。このような国防政策の不透明性や軍事力の動向は、わが国を含む地域・国際社会にとっての懸念事項であり、慎重に分析していく必要がある。
 
わが国近海において訓練などを行った後、太平洋から東シナ海に向けて北西進する中国海軍の国産最新鋭艦とみられるジャンカイII級フリゲート(11(平成23)年6月)
わが国近海において訓練などを行った後、太平洋から東シナ海に向けて北西進する中国海軍の国産最新鋭艦とみられるジャンカイII級フリゲート(11(平成23)年6月)

2 軍事に関する透明性
中国は、従来から、具体的な装備の保有状況、調達目標および調達実績、主要な部隊の編成や配置、軍の主要な運用や訓練実績、国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない。
中国は、98(平成10)年以降2年ごとに、国防白書である「中国の国防」を発表してきており、外国の国防当局との対話も数多く行われている8。07(同19)年8月には、国連軍備登録制度への復帰および国連軍事支出報告制度への参加を表明し、それぞれの制度に基づく年次報告を提出した。
このように、中国が、自国の安全保障についてまとまった文書を継続して発表していることや軍備と軍事支出に関する国連の制度に復帰・参加したことなど9は、軍事力の透明性向上に資する動きとして評価できる。
他方で、たとえば、国防費の内訳の詳細については、基本的に、人員生活費、活動維持費、装備費に三分類し、それぞれの総額と概括的な使途を公表しているのみであり、「2008年中国の国防」では情報開示の面でわずかな進展は見られたものの10、主要装備品の調達費用などの基本的な内訳も示されておらず、国際社会の責任ある大国として望まれる透明性は依然として確保されていない。また、中国が09(同21)年に提出した国連の軍事支出報告制度の報告も、わが国を含む多くの国が使用している軍事支出の内訳を詳細に記載する標準様式による報告ではなく、既に中国が国防白書で公表している内容とほぼ同様の簡略な報告であった。
04(同16)年11月に発生した中国原子力潜水艦による国際法違反となるわが国領海内潜没航行事案については、その詳細な原因は明らかにされていない。また、07(同19)年1月に中国が対衛星兵器の実験を行った際も、中国政府から実験の内容や意図などについてわが国の懸念を払拭するに足る十分な説明がなされなかった。同年11月には、中国は米空母キティホークなどの香港寄港を寄港予定日になって認めないことを通知し、その後寄港を認めることを通知し直したが、米海軍艦艇は既に寄港を断念し転針していた。さらに、10(同22)年10月、中国は、海上自衛隊の練習艦隊が予定していた青島への寄港について、寄港予定日の直前になって寄港延期を通知したことから、練習艦隊は寄港を取りやめることとなった。これらの事案は、中国の軍事に関する意思決定や行動に懸念を生じさせるものである。
中国は、政治、経済的に大国として着実に成長し、軍事に関しても各国がその動向に注目する存在となっている。中国に対する懸念を払拭するためにも、中国が国防政策や軍事力の透明性を向上させていくことがますます重要になっており、今後、国防政策や軍事力に関する具体的な情報開示などを通じて、中国が軍事に関する透明性を高めていくことが望まれる。

3 国防費
中国は、2011年度の国防予算を約5,836億元11と発表した12。発表された予算額を昨年度の当初予算額と比較すると、約12.4%(約645億元)の伸びとなり13、中国の公表国防費は、引き続き速いペースで増加している14。公表国防費の名目上の規模は、過去5年間で2倍以上、過去20年間で約18倍の規模となっている。中国は、国防と経済の関係について、「2010年中国の国防」において、「国防建設と経済建設の調和的発展の方針を堅持する」と説明し、国防建設を経済建設と並ぶ重要課題と位置付けている。このため、中国は経済建設に支障のない範囲で国防力の向上のための資源投入を継続していくものと考えられる。
また、中国が国防費として公表している額は、中国が実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎないとみられていること15に留意する必要がある。たとえば、装備購入費や研究開発費などはすべてが公表国防費に含まれているわけではないとみられている。
(図表I-2-3-1)
 
図表I-2-3-1 中国の公表国防費の推移

4 軍事態勢
中国の軍事力は、人民解放軍、人民武装警察部隊16と民兵17から構成されており、中央軍事委員会の指導および指揮を受けるものとされている18。人民解放軍は、陸・海・空軍と第二砲兵(戦略ミサイル部隊)からなり、中国共産党が創建、指導する人民軍隊とされている。
(図表I-2-3-2)
 
図表I-2-3-2 中国軍の配置と兵力

(1)核戦力およびミサイル戦力
中国は、核戦力および弾道ミサイル戦力について、50年代半ばごろから独自の開発努力を続けており、抑止力の確保、通常戦力の補完および国際社会における発言力の確保を企図しているものとみられている。核戦略に関して、中国は、核攻撃を受けた場合に、相手国の都市などの少数の目標に対して核による報復攻撃を行える能力を維持することにより、自国への核攻撃を抑止するとの戦略をとっているとみられている19
 中国は、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)、中距離弾道ミサイル(IRBM/MRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile/Medium-Range Ballistic Missile)、短距離弾道ミサイル(SRBM:Short-Range Ballistic Missile)という各種類・各射程の弾道ミサイルを保有している。これらの弾道ミサイル戦力は、液体燃料推進型については固体燃料推進型への更新による残存性および即応性の向上が行われている20ほか、射程の延伸、命中精度の向上や多弾頭化などの性能向上の努力が行われているとみられている。
戦略核戦力であるICBMについては、これまでその主力は固定式の液体燃料推進方式のミサイルであったが、中国は、固体燃料推進方式で、発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)に搭載される移動型の新型ICBMであるDF-31およびその射程延伸型であるDF-31Aを開発し、既に配備を開始したとみられている21。また、SLBMについては、現在射程約8,000kmとみられている新型SLBMであるJL-2の開発およびこれを搭載するためのジン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)の建造が行われているとみられている。DF-31およびDF-31Aの配備に加えて、JL-2が実用化に至れば、中国の戦略核戦力は大幅に向上するものと考えられる。
わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収めるIRBM/MRBMについては、液体燃料推進方式のDF-3およびDF-4のほか、TELに搭載され移動して運用されるDF-21も配備されており、これらのミサイルは、核を搭載することが可能である。中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃するための通常弾頭の対艦攻撃弾道ミサイル(ASBM:Anti-Ship Ballistic Missile)も開発中であるとみられている22。また、中国は、IRBM/MRBMに加えて、射程1,500km以上の巡航ミサイルであるDH-10のほか、核兵器や巡航ミサイルを搭載可能なH-6(Tu-16)中距離爆撃機を保有しており、これらは、弾道ミサイル戦力を補完し、わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収める戦力となる可能性がある23。SRBMについては、DF-15およびDF-11を多数保有し、台湾正面に配備しているとみられている24 25
 一方、中国は10(同22)年1月に、ミッドコースにおけるミサイル迎撃技術の実験を実施したと発表しており、中国による弾道ミサイル防衛の今後の動向が注目される26
(図表I-2-3-3参照)
 
図表I-2-3-3 中国(北京)を中心とする弾道ミサイルの射程

(2)陸上戦力
陸上戦力については、約160万人と世界最大である。中国は、85(昭和60)年以降に軍の近代化の観点から実施してきた人員の削減や組織・機構の簡素化・効率化に引き続き努力しており、装備や技術の面で立ち遅れた部隊を漸減し、能力に重点を置いた軍隊を目指している。具体的には、これまでの地域防御型から全国土機動型への転換を図り、歩兵部隊の自動車化、機械化を進めるなど機動力の向上を図っているほか、空挺(くうてい)部隊(空軍所属)や特殊部隊の強化を図っているものと考えられる。また、部隊の多機能化を進め、統合作戦能力の向上と効率的な運用に向けた指揮システムの構築に努力し、後方支援能力を向上させるための改革にも取り組んでいる27。中国は09(平成21)年、軍区を横断する演習としては過去最大とされる「跨越2009」演習を行ったほか、10(同22)年にも同様の機動演習「使命行動2010」を実施した。これらの演習は、陸軍の長距離機動能力、民兵や公共交通機関の動員を含む後方支援能力など、陸軍部隊を遠隔地に展開するために必要な能力の検証・向上などを目的としていたとみられる28

(3)海上戦力
海上戦力は、北海、東海、南海の3個の艦隊からなり、艦艇約950隻(うち潜水艦約50隻)、約134万トンを保有しており、国の海上の安全を守り、領海の主権と海洋権益を保全する任務を担っている。中国海軍は、近代的なキロ級潜水艦のロシアからの導入や新型国産潜水艦の積極的な建造を行うなど潜水艦戦力を増強するとともに、艦隊防空能力や対艦ミサイル能力の高い水上戦闘艦艇の増強を進めている。また、揚陸艦や補給艦の増強を行っているほか、08(同20)年10月には大型の病院船を就役させた29。このような中国海軍の近代化状況などから、中国はより遠方の海域において作戦を遂行する能力の構築を目指しているものと考えられる。
空母の保有に関しては、梁光烈(りょう・こうれつ)国防部長をはじめ、複数の軍高官が空母の保有に肯定的な発言を行っている30。また、ウクライナから購入した未完成のクズネツォフ級空母ワリャーグの改修を行っているほか、陸上において空母を模した建造物の建設や発着艦訓練用とみられる飛行場の整備を進めるなど、空母の保有に向けて、必要な技術の研究・開発を進めていると考えられる31

(4)航空戦力
航空戦力は、空軍、海軍を合わせて作戦機を約2,040機保有している。第4世代の近代的戦闘機は着実に増加しており、国産のJ-10戦闘機を量産しているほか、ロシアからSu-27戦闘機の導入・ライセンス生産を行い、対地・対艦攻撃能力を有するSu-30戦闘機も導入している。また、中国は国産の次世代戦闘機の開発を進めていると考えられる32。防空能力の向上のため、ロシアから長射程で高性能の地対空ミサイルの導入も行っている。空中給油や早期警戒管制といった近代的な航空戦力の運用に必要な能力を向上させる努力を継続しているほか、ロシアから大型輸送機を多数導入する予定とも伝えられている。
中国は、航空機の電子戦能力や情報収集能力の向上、周辺諸国に対する情報収集活動にも力を入れるようになってきており、近年、中国の航空機によるわが国に対する何らかの情報収集と考えられる活動が見られるようになっている。07(同19)年9月には複数のH-6中距離爆撃機が、東シナ海上空においてわが国の防空識別圏に入り日中中間線付近まで進出する飛行を行っており、10(同22)年3月にはY-8早期警戒機が、同じく日中中間線付近まで進出する飛行を行っている。また、11(同23)年3月にはY-8哨戒機およびY-8情報収集機が、日中中間線を越えて尖閣諸島周辺のわが国領空まで約50kmに接近する飛行を行っている。さらに、南シナ海上空では、空軍戦闘機などが空中給油を伴う訓練を行っていると伝えられている。
 
東シナ海を飛行する中国の哨戒機
東シナ海を飛行する中国の哨戒機
 
東シナ海を飛行する中国の情報収集機
東シナ海を飛行する中国の情報収集機

以上のような航空戦力の近代化や航空機の活動状況などから、中国は、国土の防空能力の向上に加えて、より前方での制空戦闘および対地・対艦攻撃が可能な能力の構築や長距離輸送能力の向上を目指していると考えられる33。このような中国の航空戦力の動向には今後も注目していく必要がある。

(5)宇宙の軍事利用およびサイバー戦に関する能力
中国は宇宙開発の努力を続けており、これまでに国産のロケットを使用して各種の人工衛星を打ち上げたほか、有人宇宙飛行、月周回衛星の打上げなどを行っている34。中国の宇宙開発は、国威の発揚や宇宙資源の開発を企図しているとの見方がある一方、宇宙開発においては軍事分野と非軍事分野が関連しているとみられることから35、中国は、情報収集、通信、航法などの軍事目的での宇宙利用を行っている可能性がある。最近では、複数の中国空軍幹部が、空軍として宇宙利用に積極的に取り組む方針を明らかにしている36
中国は対衛星兵器の開発も行っており、07(同19)年1月に弾道ミサイル技術を応用して自国の人工衛星を破壊する実験を行ったほか、レーザー光線を使用して人工衛星の機能を妨害する装置を開発しているとの指摘もある。
中国はサイバー戦に強い関心を有しているとみられており、サイバー戦の専門部隊を編成し、訓練を行っているとみられている37
中国が対衛星兵器やサイバー戦に関心を有している背景には、迅速で効率的な戦力の発揮に欠くことのできない軍事分野での情報収集、指揮通信などが人工衛星やコンピュータネットワークへの依存を高めていることが指摘できる38

5 海洋における活動
(1)わが国近海などにおける活動の状況
近年、中国は、海洋における活動を拡大・活発化させており、わが国の近海においては、何らかの訓練と思われる活動や情報収集活動を行っていると考えられる中国の海軍艦艇や、海洋権益の保護などのための監視活動を行う中国の公船が視認されている39
中国海軍の艦艇部隊による太平洋への進出も確認されており40、たとえば、08(同20)年10月には、中国のソブレメンヌイ級駆逐艦など4隻の艦艇が津軽海峡を通過41した後、太平洋を南下してわが国を周回する航行を行ったほか、同年11月には、最新鋭のルージョウ級駆逐艦など4隻の艦艇が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に進出する航行を行った。09(同21)年6月には、ルージョウ級駆逐艦など5隻の艦艇が沖縄本島と宮古島の間を通過して沖ノ鳥島北東の海域に進出し、訓練とみられる活動を行った。10(同22)年3月には、ルージョウ級駆逐艦など6隻の艦艇が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に進出する航行を行い、これらの艦艇はその後、南シナ海に進出したと伝えられている42。同年4月には、キロ級潜水艦やソブレメンヌイ級駆逐艦など10隻の艦艇が沖縄本島と宮古島の間を通過して沖ノ鳥島西方の海域に進出し、訓練とみられる活動を行った43が、その際、これらの艦艇を警戒監視中の海自護衛艦に対して中国の艦載ヘリコプターが近接飛行する事案が複数回発生した44。同年7月には、ルージョウ級駆逐艦など2隻の艦艇が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に進出した。さらに、11(同23)年6月には、ソブレメンヌイ級駆逐艦やジャンカイ・級フリゲートなど11隻の艦艇が沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋に進出し、射撃訓練のほか、無人航空機や艦載ヘリコプターの飛行などの訓練および洋上補給を行った。このような軍事的な活動に加え、近年では、わが国近海などにおいて中国の法執行機関による監視活動などを強化する動きが確認されている45。また、10(同22)年9月には、尖閣諸島周辺領海内において、わが国海上保安庁の巡視船に対し中国漁船が衝突する事件が生起している。
このほか、04(同16)年11月には、中国の原子力潜水艦が、国際法違反となるわが国の領海内での潜没航行を行い、05(同17)年9月には、東シナ海の樫(中国名「天外天」)ガス田付近を中国のソブレメンヌイ級駆逐艦1隻を含む5隻の艦艇が航行し、その一部が同ガス田の採掘施設を周回したことが確認された。06(同18)年10月には、沖縄近海と伝えられる海域において、中国のソン級潜水艦が米空母キティホークの近傍に浮上したが、米空母に外国の潜水艦が接近したことは軍事的に注目すべき事象と考えられる。08(同20)年12月には、中国国家海洋局の海洋調査船2隻が尖閣諸島付近のわが国領海において、徘徊・漂泊といった国際法上認められない航行を行う事案が発生している。また、11(同23)年3月および4月には、東シナ海において警戒監視中の海自護衛艦に対して、中国国家海洋局所属とみられるヘリコプターなどが近接飛行する事案が複数回発生している46
わが国の近海以外でも、ASEAN諸国などと領有権について争いのある南沙(なんさ)・西沙(せいさ)諸島を含む南シナ海において活動を活発化させている。09(同21)年3月には、中国海軍艦艇、国家海洋局の海洋調査船、漁業局の漁業監視船およびトロール漁船が、南シナ海で活動していた米海軍の音響測定艦に接近し、同船の航行を妨害するなどの行為を行う事案などが発生している47。また、10(同22)年3月には6隻の艦艇が3週間にわたって南シナ海まで展開する訓練を行ったと伝えられているほか、同年7月には水上艦艇や航空部隊など多兵種による大規模な合同実弾演習を実施したとされている。さらに近年では、同海域における中国の活動に対してベトナムやフィリピンなどが抗議を行うなど、南シナ海をめぐって中国と周辺諸国との摩擦が表面化している。
参照 2章5節
 
図表I-2-3-4 わが国近海などにおける最近の中国の活動

(2)わが国近海などにおける活動の目標
中国が海軍の任務として海洋権益の擁護や海上の安全を守ることを法律などに明記している点48、中国の置かれた地理的条件、グローバル化する経済などの諸条件を一般的に考慮すれば、中国海軍などの海洋における活動には、次のような目標があるものと考えられる。
第一に、中国の領土や領海を防衛するために、可能な限り遠方の海域で敵の作戦を阻止することである。これは、近年の科学技術の発展により、遠距離からの攻撃の有効性が増していることが背景にある。
第二に、台湾の独立を抑止・阻止するための軍事的能力を整備することである。たとえば、中国は、台湾問題を解決し、中国統一を実現することにはいかなる外国勢力の干渉も受けないとしており、中国が、四海に囲まれた台湾への外国からの介入を実力で阻止することを企図すれば、海洋における軍事作戦能力を充実させる必要がある。
第三に、海洋権益を獲得し、維持および保護することである。中国は、東シナ海や南シナ海において、石油や天然ガスの採掘およびそのための施設建設や探査を行っている49。05(同17)年9月の中国海軍艦艇による樫ガス田採掘施設付近の航行には、中国海軍が海洋権益を獲得し、維持および保護する能力をアピールする狙いもあったものと考えられる。
第四に、自国の海上輸送路を保護することである。背景には、中東からの原油の輸送ルートなどの海上輸送路が、グローバル化する中国の経済活動にとって、生命線ともいうべき重要性を有していることがある。将来的に、中国海軍が、どこまでの海上輸送路を自ら保護すべき対象とするかは、そのときの国際情勢などにも左右されるものであるが、近年の中国の海・空軍の近代化を考慮すれば、その能力の及ぶ範囲は、中国の近海を越えて拡大していくと考えられる。
こうした中国の海洋における活動の目標や近年の動向を踏まえれば、今後とも中国は、東シナ海や太平洋といったわが国近海および南シナ海などにおいて、活動領域の拡大と活動の常態化を図っていくものと考えられることから、わが国周辺における海軍艦艇の活動や各種の監視活動のほか、活動拠点となる施設の整備状況50、自国の排他的経済水域などの法的地位に関する独自の解釈の展開51などを含め、その動向に注目していく必要がある。

6 軍の国際的な活動
中国軍は近年、平和維持、人道支援・災害救助、海賊対処といった非伝統的任務を重視し始めており、これらの任務を行うために積極的に海外に部隊を派遣するようになってきている52。このような軍の国際的な活動に対する姿勢の背景には、中国の国益が国境を越えて拡大することにともない、国外において国益の保護および促進を図る必要が高まっていることや、大国として国際社会に対する責任を果たす意思を示すことにより自国の地位を強化する意図があるとみられている。
中国は、PKOを一貫して支持するとともに積極的に参加するとしており、「2010年中国の国防」によれば、これまでにPKOにのべ1万7,390名の軍人が派遣されている。国連によれば、中国は、11(同23)年5月末時点で、国連リベリア・ミッション(UNMIL:United Nations Mission in Liberia)、国連スーダン・ミッション(UNMIS:United Nations Mission in Sudan)、国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH:United Nations Stabilization Mission in Haiti)など11のPKOに計2,036名の部隊要員、文民警察要員、軍事監視要員を派遣しており、PKOにおいて一定の存在感を示している。中国のPKOに対する積極姿勢の背景には、同活動を通じて当該PKO実施地域、特にアフリカ諸国との関係強化を図るとの狙いもあるとみられている。
 また、中国は、ソマリア沖・アデン湾における海賊に対処するための国際的な取組にも参加しており、中国海軍として初めての遠洋における任務として、08(同20)年12月から、同海域に海軍艦艇を派遣し、中国船舶などの護衛にあたらせている。これは、中国海軍がより遠方の海域で作戦を遂行する能力を向上させていることを示すとともに、中国が自国の海上輸送路の保護を一層重視しつつあることのあらわれであると考えられる53
さらに、中国は、リビア情勢の悪化を受け、11(同23)年2月から3月にかけて在留中国人の退避活動を行った際、民間のチャーター機などに加え、海軍のフリゲートおよび空軍の輸送機を現地に派遣した。海外在留中国人の退避活動へ軍が参加することは初めてとされ、中国はこの活動を通じて、軍の平和的・人道的なイメージや、戦争以外の軍事作戦を重視する意図を内外に示すとともに、戦力を遠方に投射する能力を検証する狙いもあるとの指摘もなされている。

7 教育・訓練などの状況
人民解放軍は、近年、運用面においても近代化を図ることなどを目的として実戦的な訓練の実施を推進しており、陸・海・空軍間の協同演習や上陸演習などを含む大規模な演習も行っている。06(同18)年に開かれた全軍軍事訓練会議において、機械化条件下の軍事訓練から情報化条件下の軍事訓練への転換の推進が強調され、09(同21)年から施行された、新たな「軍事訓練および評価大綱」では、複数の軍種による統合訓練のほか、非戦争軍事行動の訓練、情報化に関する知識・技能の教育、ハイテク装備のシミュレーション訓練、ネットワーク訓練、電子妨害が行われるなどの複雑な電磁環境下での訓練などが重視されている54
人民解放軍は、教育面でも、科学技術に精通した軍人の育成を目指している。03(同15)年から、情報化作戦の指揮や情報化された軍隊の建設などを担うための高い能力を持つ人材を育成するための軍隊の人材戦略プロジェクトが推進されており、20(同32)年にかけて、人材建設の大きな飛躍を成し遂げるという目標を掲げている。人民解放軍で近年行われているとみられる給与水準の向上には優秀な人材を確保する目的があると考えられる。また、00(同12)年から、優秀な高学歴者を確保するため、一般大学の大学生に奨学金を給付して卒業後に将校として入隊させる制度も導入されている。
 また中国は、戦争などの非常事態において民間資源を有効に活用するため、動員体制の整備を進めてきており、10(同22)年2月には、戦時における動員についての基本法となる「国防動員法」を制定し、同年7月に施行した55

8 国防産業部門の状況
中国では、自国で生産できない高性能の装備や部品をロシアなど外国から輸入しているが、装備の国産化を重視していると考えられ、多くの装備を国産しているほか、新型装備の研究開発に意欲的に取り組んでいる。中国の国防産業部門は、独自の努力のほか、経済成長にともなう民間の産業基盤の向上、軍民両用技術の利用、外国技術の吸収によって発展しているとみられ、中国の軍事力の近代化を支える役割を果たしている56
中国の国防産業は、かつて、過度の秘密主義などによる非効率性のために順調な成長が妨げられてきたが、近年は、国防産業の改革が進められている。特に、軍用技術を国民経済建設に役立てるとともに、民生技術を国防建設に吸収するという双方向の技術交流に重点を置いており、具体的には、国防産業の技術が、宇宙開発や航空機工業、船舶工業の発展に寄与してきたとされている。
また、軍民両用産業分野における国際協力および競争を奨励、支持するとしており、軍民両用の分野を通じて外国の技術を吸収することにも関心を有しているとみられる。


 
1)「2010年中国の国防」による。

 
2)中国は、以前は、世界的規模の戦争生起の可能性があるとの情勢認識に基づいて、大規模全面戦争への対処を重視し、広大な国土と膨大な人口を利用して、ゲリラ戦を重視した「人民戦争」戦略を採用してきた。しかし、軍の肥大化、非能率化などの弊害が生じたことに加え、世界的規模の戦争は長期にわたり生起しないとの新たな情勢認識に立って、1980年代前半から領土・領海をめぐる紛争などの局地戦への対処に重点を置くようになった。91(平成3)年の湾岸戦争後は、ハイテク条件下の局地戦に勝利するための軍事作戦能力の向上を図る方針がとられてきたが、最近では情報化条件下の局地戦に勝利する能力の強化が軍事力近代化の核心とされている。

 
3)中国は03(平成15)年、「中国人民解放軍政治工作条例」を改正し、「輿論戦」、「心理戦」および「法律戦」の展開を政治工作に追加した。「輿論戦」、「心理戦」および「法律戦」について、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(同22)年8月)は次のように説明している。
・「輿論戦」は、中国の軍事行動に対する大衆および国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反するとみられる政策を追求することのないよう、国内および国際世論に影響を及ぼすことを目的とするもの。
・「心理戦」は、敵の軍人およびそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするもの。
・「法律戦」は、国際法および国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する予想される反発に対処するもの。

 
4)「2008年中国の国防」による。

 
5)米国「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)(10(平成22)年2月)は、多岐にわたる洗練された武器等を有する国家が米軍部隊の展開を阻害するアクセス拒否能力を行使する環境下において、米国と同盟国を守ることのできる能力を保有する必要があるとしつつ、中国について、「大量の中距離弾道ミサイルと巡航ミサイル、先進兵器を装備した新型の攻撃型潜水艦、能力を向上させつつある高性能の長距離防空システム、電子戦およびコンピュータネットワーク攻撃能力、先進的戦闘機、対宇宙システムを開発・配備している」と指摘している。また、米国「国家軍事戦略」(NMS)(11(同23)年2月)は、「中国の軍事力近代化の範囲と戦略的意図、宇宙、サイバー空間、黄海、東シナ海、南シナ海での高圧的な姿勢を懸念する」と指摘した上で、国際公共財とサイバー空間へのアクセスとその使用を危険にさらし、同盟国の安全を脅かすいかなる国にも対抗する用意があるとしている。

 
6)「2008年中国の国防」では、「新世紀における新段階での軍隊の歴史的使命を全面的に履行することに着眼し、情報化条件下での局地戦に勝利する能力を強化することを核心とし、海洋、宇宙、電磁空間の安全を擁護し、反テロ・安定維持、応急救援、国際平和維持任務を遂行する能力を高める」としている。また、「2010年中国の国防」では、軍の任務の多様化について、「国境、海上境界、防空における安全維持」、「社会安定の維持」、「国家建設と災害救難」、「国連平和維持活動への参加」、「アデン湾・ソマリア海域における船舶護衛」、「外国との合同演習・訓練」、「国際災害救援任務」の7項目を挙げて説明している。

 
7)「2010年中国の国防」による。なお、「2008年中国の国防」では、「21世紀中頃に国防および軍隊の近代化の目標を基本的に達成する」との目標があわせて記述されている。

 
8)「2010年中国の国防」では、中国は「2年間で、人民解放軍の高級軍事代表団は40余りの国を訪問し、60余りの国の国防大臣、参謀総長が来訪した」とされている。

 
9)中国が、09(平成21)年に行った海軍成立60周年記念行事(4月)や空軍成立60周年記念行事(11月)において、これまで一般には公開していなかった一部の戦闘機や潜水艦をわが国を含む外国代表団に公開したことは、軍事力に関する透明性向上に取り組む姿勢の表れとも考えられる。また、中国国防部は、国防白書の発表などの特定のテーマに関する記者会見のほか、11(同23)年4月から毎月定例で記者会見を行う方針を明らかにしている。

 
10)たとえば、「2008年中国の国防」では、2007年度の国防費の支出に限り、人員生活費、活動維持費、装備費のそれぞれについて、現役部隊、予備役部隊、民兵別の内訳が明らかにされた。

 
11)中央財政支出における国防予算。なお、全国財政支出における2011年度国防予算は約6,012億元とされており、同予算額を前年度の全国財政支出における国防予算(当初予算)と比べると、約13.0%(約690億元)の伸びとなる。

 
12)外国の国防費を単純に外国為替相場のレートを適用して他の通貨に換算することは、必ずしもその国の物価水準に照らした価値を正確に反映するものではないが、仮に2011年度の中国の国防予算を1元=13円で換算すると約7兆5,868億円となる。なお、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)「2010年版年鑑」(10(同22)年6月)は、09(同21)年の中国の軍事支出を約1,000億米ドルと見積もっており、米国に次ぐ世界第2位としている。

 
13)中国は、2011年度の国防費の伸び率を「前年度比約12.7%(約676億元)の増加」と発表したが、これは2010年度執行額と2011年度当初予算を比較した伸び率である。

 
14)中国の公表国防費は、中央財政支出における当初予算比で、2009年度まで21年連続で二桁の伸び率を記録し、2010年度は約9.8%の伸びとしていた。

 
15)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(平成22)年8月)は、中国の国防費について、2009年度の軍事関連支出は1,500億ドル以上であると見積っている。また、同報告書は、中国の公表国防費は主要な支出区分を含んでいない、と指摘している。

 
16)党・政府機関や国境地域の警備、治安維持のほか、民生協力事業や消防などの任務を負う。「2002年中国の国防」では、「国の安全と社会の安定を維持し、戦時は人民解放軍の防衛作戦に協力する」とされる。

 
17)平時においては経済建設などに従事するが、有事には戦時後方支援任務を負う。「2002年中国の国防」では、「軍事機関の指揮の下で、戦時は常備軍との合同作戦、独自作戦、常備軍の作戦に対する後方勤務保障提供および兵員補充などの任務を担い、平時は戦備勤務、災害救助、社会秩序維持などの任務を担当する」とされる。

 
18)中央軍事委員会には、形式上は中国共産党と国家の二つの中央軍事委員会があるが、党と国家の中央軍事委員会の構成メンバーは基本的には同一であり、いずれも実質的には中国共産党が軍事力を掌握するための機関とみなされている。

 
19)「2010年中国の国防」では、「中国は終始、核兵器先制不使用の政策を遂行し、自衛防御の核戦略を堅持し、いかなる国とも核軍備競争を行なわない」としている。一方、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(平成22)年8月)は、中国の核兵器先制不使用政策の適用条件については不明瞭な点がある旨指摘している。

 
20)一般的に、液体燃料推進型のミサイルは、発射直前に時間をかけて液体燃料を注入する必要があるのに対し、固体燃料推進型のミサイルは、推進剤が予め装填されており、即時発射が可能である。このため固体燃料推進型のミサイルは、液体燃料推進型のミサイルに比べて、発射の兆候を事前に察知されにくく、先制攻撃を受ける可能性が低いとされる。

 
21)なお、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(平成22)年8月)は、中国は新型の移動型ICBMを開発している可能性があり、おそらく当該ICBMは、多弾頭独立目標再突入体(MIRV: Multiple Independently targeted Re-entry Vehicles)を搭載できる、と指摘している。

 
22)09(平成21)年2月に公表された米国国家情報長官「年次脅威評価」において、中国は、米国の海軍部隊や航空基地に対する攻撃に使用することができる終末誘導機動弾頭(MaRV:Maneuverable Re-entry Vehicle)を装備した、通常弾頭の短・中距離弾道ミサイルを開発しているとされている。また、11(同23)年1月、ゲイツ米国防長官(当時)は、中国による対艦巡航・弾道ミサイルについて、就任以来懸念してきたとした上で、開発は相当に進展しているとの見解を示している。さらに同年2月、中国紙は、軍事専門家の話として、「東風(DF)-21D」対艦弾道ミサイルは既に配備を開始しており、主として海上目標を打撃する、と報じた。

 
23)米中経済安全保障再検討委員会の年次報告書(10(平成22)年11月)は、中国は東アジアにおける米空軍の6ヶ所の主要基地のうち5ヶ所を、通常ミサイル(弾道ミサイルおよび陸上発射巡航ミサイル)によって攻撃することが可能であるほか、爆撃機の能力向上によってはグアムの空軍基地をも標的にすることが可能になる、と指摘している。

 
24)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(平成22)年8月)では、09(同21)年12月までに中国が台湾対岸に1,050〜1,150基のSRBMを配備しており、改良された射程、精度、弾頭を有する派生型の導入を含む攻撃力向上の取り組みを行っているとされている。

 
25)このほか、11(平成23)年3月には、台湾の蔡さい・とくしょう得勝国家安全局長が、中国は新型ミサイル「DF-16」を開発・配備しており、同ミサイルは長射程で威力が大きく主に台湾および米軍介入阻止作戦に対して使用される旨発言したと伝えられる。

 
26)実験実施を発表した翌日の記者会見において、中国外交部報道官は、「今回の実験は宇宙軌道に残留する破片を発生させるものではなく、軌道上の宇宙飛行体の安全に脅威を与えることもない。今回の実験は防御的なものであり、いかなる国に向けられたものでもなく、中国が一貫して遂行している防御的な国防政策と一致するものである」と発言している。一方、「2010年中国の国防」では、「中国は、グローバルなミサイル防衛計画は国際的な戦略バランスと安定を損ない、国際および地域の安全を傷つけ、核軍縮プロセスに消極的な影響を与えると考えている。中国は、あらゆる国は海外において戦略的なミサイル迎撃能力あるいは潜在力を有するミサイル防衛システムを配備したり、関連した国際協力を展開すべきではないと主張している」とされている。

 
27)「2010年中国の国防」などによる。

 
28)「跨越2009」演習では、瀋陽、蘭州、済南、広州の各軍区に所属する4個師団が、それぞれ所属軍区から他の軍区に長距離移動した後、仮想敵部隊との対抗演習を行ったとされる。人員・装備品の輸送には、空軍輸送機や貨物列車のほか、民航貨物機や旅客機、高速鉄道「和諧号」なども利用したと伝えられている。また、「使命行動2010」演習では、北京、蘭州、成都の各軍区に所属する師団などに加え、空軍および第二砲兵の部隊など総兵力約3万人が参加したと伝えられており、長距離機動能力のほか統合作戦能力の向上を図ったとみられている。

 
29)この病院船「岱山島(たいざんとう)」は「平和の方舟」と呼称されており、09(平成21)年10月から約1ヶ月間にわたり、中国大陸沿岸や南沙・西沙諸島の島や礁などを巡回し、駐留する軍人や住民などに医療サービスを提供したと伝えられている。また、同船は、10(同22)年8月から11月にかけて、医療サービス任務「調和の使命2010」を実施し、アデン湾で活動中の中国海軍艦艇に対する医療支援のほか、ジブチ、ケニア、タンザニア、セーシェル、バングラデシュの5カ国を訪問し、医療サービスの提供などを行ったとされている。

 
30)梁光烈国防部長は、09(平成21)年3月および11月に行われた日中防衛相会談において、「永遠に空母を持たないわけにはいかない」「経済発展、建造のレベル、安全の要素といった諸要素を総合的に勘案した上で空母保有について決定する」と発言している。このほか、複数の中国政府および軍関係者による空母の保有や建造についての肯定的な発言が伝えられており、最近では、08(同20)年11月、銭利華(せん・りか)国防部外事弁公室主任が、いかなる大国の海軍も1隻またはそれ以上の空母を保有する夢を持っている旨の発言を行ったと伝えられ、12月には、国防部報道官が、中国の空母建造について、「中国政府は各方面の要素を総合し、関係する問題について真剣に研究し、考慮する」と発言している。また、10(同22)年5月に出版された「中国海洋発展報告2010」(中国国家海洋局海洋発展戦略研究所編纂)では、「2009年、中国は航空母艦建造の構想及び計画を提起した」と記述されている。さらに、11(同23)年6月には、陳炳徳(ちん・へいとく)総参謀長が、「空母は現在建造中である」と発言したと伝えられている。

 
31)「ワリャーグ」のほか、中国は80年代以降、鉄くずやレジャー施設転用を名目として、退役した空母である英国製マジェスティック級空母「メルボルン」、旧ソ連製キエフ級空母「ミンスク」および「キエフ」も購入している。06(平成18)年には、中国が、クズネツォフ級空母で運用可能なロシア製のSu-33艦上戦闘機の購入を交渉していると伝えられたほか、07(同19)年には、中国が空母で使用される着艦拘束装置などをロシアから購入する予定であると伝えられた。08(同20)年9月には、中国が、海軍のパイロットの教育訓練に関して、空母艦載機用の模擬訓練施設を有するウクライナとの協力を計画していると伝えられた。また、10(同22)年には、中国は、Su-33艦上戦闘機を基に独自の艦上戦闘機「J-15」を開発しているとも伝えられている。米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(同22)年8月)は、「中国は、活発な空母研究・開発計画を有しており、中国の造船産業は、本年(10(同22)年)末までに国産空母の建造を開始しうる。中国は、運用可能な複数の空母と支援艦艇を今後10年以内に建造することに関心を持っている」と指摘している。

 
32)何為栄(か・いえい)空軍副司令員は、09(平成21)年11月に放映されたテレビインタビューにおいて、中国の次世代戦闘機について、8〜10年後に部隊に配備されることが可能である旨を述べている。また、ゲイツ米国防長官(当時)は、11(同23)年2月の上院軍事委員会での証言において、中国はステルス性能を備えた次世代戦闘機を2020年までに50機、25年までに200機程度配備する可能性がある、との見方を示している。なお、同年1月には、いわゆるステルス戦闘機「J-20」の試作機が、初の飛行試験に成功したと報じられた。

 
33)「2008年中国の国防」は、中国空軍が「国土防空型から攻防兼備型への転換を加速し、偵察・早期警戒、航空攻撃、防空・ミサイル対処および戦略投射能力を高め、近代化された戦略空軍を建設することに力を入れている」と説明している。また、米国防省「中華人民共和国の軍事力に関する年次報告」(06(平成18)年5月)は、中国空軍の目標は、機動的な、全天候の、昼夜を問わず、低空で水上を飛行できる戦力を形成することにより、素早く、複数の作戦任務を実施する能力を持ち、「第一列島線」を越えて戦力の遠隔投射能力を得ることにある、と指摘している。さらに、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(同22)年8月)は、中国空軍は引き続き、限定的な領土防衛から、米国およびロシアの空軍をモデルとして、沖合で攻撃および防御の両方の役割で作戦を行うことが可能な、より柔軟性のある有能な戦力への転換を継続している、と指摘している。なお、中国やロシアなどが参加した合同軍事演習「平和の使命 2010」(10(同22)年10月)では、中国のH-6爆撃機2機およびJ-10戦闘機2機の戦闘群が、早期警戒機および空中給油機に支援され、片道1,000kmの経路を無着陸で往復し対地攻撃訓練を実施したとされている。

 
34)中国は、08(平成20)年9月に有人宇宙船「神舟7号」を打ち上げ、宇宙飛行士による船外活動に初めて成功した。また、10(同22)年10月に月周回衛星「嫦娥2号」を打ち上げたほか、11(同23)年内には宇宙実験室「天宮1号」の打ち上げを予定するなど、宇宙ステーション建設なども視野に入れた計画を推進しているとされる。

 
35)「2006年中国の国防」では、国防科学技術工業に関して、「有人宇宙飛行と月面探査プロジェクトなど重要な科学技術プロジェクトを組織、実施し、ハイテク産業の飛躍的な発展を促進し、国防科学技術全体の著しい発展を実現している」と記述されている。また、有人宇宙飛行プロジェクトの総指揮は、人民解放軍総装備部長がとっているとされる。

 
36)たとえば、許其亮(きょ・きりょう)空軍司令員が、「中国空軍は、「航空・宇宙一体、攻防兼備」の空軍戦略を確立した」と発言したと伝えられている。

 
37)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(平成22)年8月)は、「中国軍は、敵のコンピュータシステムおよびネットワークを攻撃するためのウイルスや、味方のコンピュータシステムおよびネットワークを防御するための戦術および方法を開発するための情報戦部隊を設立した。これらの部隊には民兵が含まれており、中国軍のネットワークオペレーターと中国の民間の情報技術専門家とのつながりを生み出している」と指摘している。

 
38)「2010年中国の国防」では、新時期の中国の国防政策の目標・任務の主な内容のひとつとして、「宇宙、電磁空間、インターネット空間における安全利益の擁護」を挙げている。

 
39)中国軍については、平時と戦時の兵力配備を同一化し、従来の活動領域を超えた領域での活動を行うなどして、例外的行為を慣例化・常態化させることにより、相手方の警戒意識の麻痺や国際社会に状況の変化を黙認・受容させることなどを企図している、との見方(2009年版台湾「国防報告書」)がある。

 
40)「2006年中国の国防」では、「海軍は近海防御の戦略的縦深を徐々に拡大する」とされている。また、呉勝利海軍司令員は、09(平成21)年4月、中国海軍の訓練について、「外洋訓練が常態化した」と発言したと伝えられている。さらに、「2010年中国の国防」では、海軍は近海防御戦略の要請に基づき、「艦隊による遠洋訓練を組織し、非戦争軍事行動の訓練モデルを確立した」とされている。

 
41)中国海軍の戦闘艦艇による津軽海峡通過が確認されたのは初めてである。

 
42)これらの艦艇は、バシー海峡を抜けて南シナ海に進出し、南沙諸島周辺海域を巡航し、西沙諸島海域で軍事訓練を実施したと伝えられている。

 
43)10(平成22)年4月の中国軍機関紙「解放軍報」では、複数の潜水艦、駆逐艦、フリゲート、総合補給艦、艦載ヘリコプターなどからなる東海艦隊の多兵種協同部隊が外洋展開訓練を開始し、実兵対抗訓練のほか、「三戦(輿論戦、心理戦、法律戦)」、対テロ、海賊対処などの訓練も行う旨が伝えられている。

 
44)これら10隻の艦艇の一部は、太平洋に進出する前に、東シナ海中部海域において訓練を行っており、その際、中国の艦載ヘリコプターが、警戒監視中の護衛艦「すずなみ」に近接飛行を行った。最接近した際の距離は水平約90m、高度約30mであり、このような飛行は艦艇の安全航行上危険であると認識しており、わが国から中国政府に対して、外交ルートを通じて事実関係の確認と申し入れを行った。また、その後、太平洋上においても、これらの艦艇を警戒監視中の護衛艦「あさゆき」に対して、中国の艦載ヘリコプターが接近・周回する飛行を行った。最接近した際の距離は水平約90m、高度約50mであり、艦艇の安全航行上危険な行為であることに加え、同様の事案が続けて生じたことから、外交ルートを通じて中国政府に抗議を行った。

 
45)たとえば、10(平成22)年9月に生起した尖閣諸島周辺領海内における海上保安庁巡視船と中国漁船との衝突事件の後、中国農業部漁業局所属で漁業管理などを担う「漁政201」などが尖閣諸島周辺海域を複数回にわたって航行した。また、同年10月には、中国は自国の海洋権益維持の法執行能力を向上するため、今後5年以内に30隻の法執行船を建造する計画を制定した旨伝えられたほか、中国国家海洋局が、南シナ海の南沙諸島周辺海域において海洋監視などを担う「海監75」などを配備したと伝えられている。

 
46)11(平成23)年3月7日、中国国家海洋局所属とみられるヘリコプター「Z-9」が、東シナ海中部海域において警戒監視中の護衛艦「さみだれ」に対して、水平約70m、高度約40mの距離に接近し周回したほか、同月26日には、護衛艦「いそゆき」に対して、水平約90m、高度約60mの距離に接近し周回するという事案が発生した。4月1日には、「いそゆき」に対し、国家海洋局所属とみられる航空機「Y-12」が、水平約90m、高度約60mの距離に接近し周回した。
 なお、中国国家海洋局東海分局の公式ウェブサイトには、「海監ヘリコプターが任務遂行中に初めて海上プラットフォーム上で燃料補給に成功」と題する記事が掲載されており、当該記事の写真から、同局所属の海監ヘリコプターは平湖油ガス田を基点に行動していることが明らかであるほか、同記事は「中国の管轄する東シナ海海域において、権益を侵害する目標に対して追跡・監視を継続する」としている。

 
47)09(平成21)年3月10日の米上院軍事委員会において、ブレア国家情報長官(当時)は、「ここ数年、中国は、排他的経済水域に対する権利の主張をより攻撃的に行うようになった」と証言している。また、米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(同22)年8月)は、米中両国には排他的経済水域に関する意見の相違があり、そうした相違に対する適切な対応についても認識を異にしている、と指摘している。

 
48)たとえば、「2010年中国の国防」では、「国家の海洋権益の擁護」が中国の国防政策の目標・任務の主な内容のひとつとして位置づけられているほか、軍は、海監や漁政などを含む他の政府機関と責任を分担して、国境警備・海上防衛などの任務を実施している旨記述されている。

 
49)11(平成23)年3月、中国国有企業「中国海洋石油」が東シナ海の白樺(中国名「春暁」)油ガス田の開発と生産を開始している旨伝えられたが、中国政府は、報道内容を否定しつつも、従来どおり、中国は同ガス田に完全な主権と管轄権を有しており活動は合法的である旨主張している。

 
50)中国は、海南島南端の三亜市に、原子力潜水艦用の地下トンネルを有する大規模な海軍基地を建設していると伝えられている。中国にとって同基地は、南シナ海のほか、西太平洋へ進出する上での戦略的要衝に位置しており、空母の配備を含め、南海艦隊の主要な基地として整備が進められているとの指摘もある。

 
51)中国は近年、国連海洋法条約などの独自の解釈を利用しつつ、自国の排他的経済水域における他国の軍事活動の制限を企図した主張を展開しているとの指摘がある。たとえば、中国政府は、「中国の排他的経済水域においては、許可を得ていない如何なる国の、如何なる軍事活動にも反対である」と表明している(10(平成22)年11月26日、外交部声明)ほか、同年11月の中国軍機関紙「中国国防報」においては、排他的経済水域は自国の管轄権が及ぶ「国家海洋国土の主要部分」と指摘した上で、その上空は公海の上空とは異なることから他国航空機の飛行は制限されるなどと指摘し、米軍艦艇・航空機による排他的経済水域における活動を批判している。

 
52)中国は、国際的な災害救援活動に積極的に参加しており、「2010年中国の国防」では、人民解放軍はこれまでに援助任務を28回遂行し、22の被災国に総額9億5,000万元以上の救援物資を供与した、とされている。10(平成22)年1月に発生したハイチにおける大地震に際しては、工兵など軍の要員を含む中国国際救援隊が地震発生当日(北京時間)に現地に向けて出発したほか、同年8月に発生したパキスタンにおける洪水被害に際しては軍の輸送用ヘリコプターを初めて海外に派遣している。

 
53)「2010年中国の国防」では、中国海軍が遠洋における協力と非伝統的安全保障上の脅威に対応する能力を発展させている旨が記述されている。また、呉勝利海軍司令員は、10(平成22)年8月から11月にかけて実施した中国海軍の病院船「岱山島」(通称「平和の方舟」)による医療サービス任務「調和の使命2010」について、「海軍にとって多様化軍事任務の遂行という具体的な検証を通じて総合的な支援能力を向上させるものであると同時に、国際義務を積極的に履行するという責任ある大国としてのイメージを誇示するもの」との認識を示している。

 
54)「2010年中国の国防」においても、人民解放軍は「情報化条件下の軍事訓練への転換を積極的に推進する」とされ、引き続き、統合訓練のほか、非戦争軍事行動の訓練、複雑な電磁環境化での訓練などを行っていくとされている。

 
55)なお、「2010年中国の国防」では、「中国は、平時と戦時を結びつけ、軍隊と民間を結びつけ、軍需産業と民間産業を融合させる方針を堅持し、国防動員と国防予備兵力の建設を強化し、国防動員能力の向上と国防における実力を増強している」とされている。

 
56)米国防省「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」(10(平成22)年8月)は、中国の国防産業について、造船産業および電子機器分野において特に進展が見られるほか、ミサイルや宇宙システム分野においても技術力を高めているが、対照的に、誘導・制御システムやエンジン、最新のアプリケーション・ソフトウェアといった分野における進展は遅く、これらの技術については海外に大きく依存している旨指摘している。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む