平成22年版防衛白書の刊行に寄せて 

平成22年版防衛白書の刊行に寄せて
 
防衛大臣写真
 
防衛大臣
防衛大臣揮毫

 昨年9月、政権交代という大きな歴史的転換がありました。これに伴い、防衛に関わる事項についてもいくつかの見直しを行いました。一方、今後とも、日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念に従い、日米安保体制を堅持するとともに、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備するという、防衛政策の基本については、維持していきます。

 防衛省は、わが国の防衛政策や1年間の防衛省・自衛隊に関わる主要な事象を記述した防衛白書を毎年刊行しています。本書は、より多くの国民のみなさまに、わが国の防衛についての理解を深めていただくとともに、わが国の防衛政策の透明性を担保し、わが国に対する諸外国の理解と信頼を高める、という大きな意義を有しております。本年の防衛白書は、政権交代後に初めて刊行されることもあり、こうした意義は例年にもまして大きいと考えます。

 さて、近年、国際的な安全保障環境は大きく変化し、伝統的な国家間の問題から新たな脅威や多様な事態に至るまで、国際社会は様々な課題に直面しております。北朝鮮の核やミサイルなどの問題、中国の軍事力の近代化、中国やロシアの軍の活動の活発化など、わが国周辺の安全保障環境は厳しさを増しております。

 また、わが国は資源や食糧の多くを海外に依存しており、国際社会の平和と安定は、わが国の平和と安全に密接に結びついています。その意味で、国際社会における安全保障上の問題について、国際的な協力や連携を図ることが重要です。自衛隊は、約8年間に及ぶインド洋での補給支援活動を無事に終える一方、カリブ海のハイチで本年1月に発生した大規模地震に対応するため、新たなPKOを開始しました。またゴラン高原、ネパール、スーダンでは引き続きPKOを行っています。さらにアフリカのソマリア沖・アデン湾においては、海上輸送の安全確保のため、護衛艦と固定翼哨戒機P−3Cが活動しています。このように、わが国を取り巻く環境が一層厳しくなる中、防衛省・自衛隊の活動範囲はますます広がり、日々進化を続けています。
加えて、本年は現行の日米安全保障条約の締結から50年という節目の年を迎えます。日米安保体制は、わが国のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎をなすものであり、今やPKOや大規模災害への対応などの地球的規模の活動における協力を行うまでに広がりを見せています。日米両国の緊密な協力関係は、さまざまな安全保障上の課題に取り組む上で重要な役割を果たすことから、今後もこれを維持・強化していくことが極めて重要です。その際、普天間飛行場の移設をはじめとする米軍再編は、抑止力の維持と地元の負担軽減を図る上で大変重要であり、政府として真剣に取り組んでいきます。

 さらに、本年中に防衛力整備の基本的指針となる防衛大綱の見直しを行うこととしています。防衛大綱の見直しに向けた検討のため、本年2月来、新たな有識者懇談会が開催され、8月に報告書が内閣総理大臣に提出されました。また防衛省においても防衛会議を開催して検討を指示し、これを基に議論を行っています。今後、安全保障環境認識や防衛力の役割、自衛隊の体制の他、防衛生産・技術基盤のあり方などについても検討し、国民のみなさまの安全・安心を確保できる防衛力をいかに効果的に、また効率的に整備するかを考えてまいります。

 他方で、残念ながら、近年、防衛省・自衛隊に対する国民のみなさまの信頼を大きく損なう一連の事案が発生したことも事実です。これを受け、防衛省改革に取り組んでおり、この改革では、不祥事再発防止の観点は当然のこととし、それにとどまらず、文民統制の実効性を確保しつつ、防衛省を取り巻く環境に対応して防衛行政を効果的・効率的に推進するとの観点から検討を進めています。

 こうした一連の事象を踏まえ、本年は、防衛白書作成にあたり、警戒監視活動や災害派遣など平素からの活動をはじめとする防衛省・自衛隊の「ありのままの姿」をお伝えするとともに、国民のみなさまが国の防衛を考える際の資料をより多く提供できるよう努めました。具体的には、コラムや図表を例年にもまして多く取り入れ、わが国の安全保障を考える上で重要な事項を分かりやすい言葉で解説するとともに、日々の任務を遂行している隊員の生の声や防衛省とかかわりの深い方々の声を取り上げています。

 国の防衛は、国民のみなさまの信頼と支持なくしては成り立ちません。この防衛白書が、一人でも多くの国民のみなさまに読まれ、防衛に対する理解を深めていただく一助となることを切に希望しています。

 

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