第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

3 災害対処への平素からの取組など

(1)災害対処への平素からの取組
 自衛隊は、各種の災害に迅速かつ的確に対応するために、災害派遣計画を策定するとともに、統合防災演習をはじめとする各種防災訓練を行い、また地方公共団体などの行う防災訓練にも積極的に参加している。
 中でも、平成21年度は、8月30日から9月5日にかけての防災週間にあたり、大規模震災時に迅速かつ効果的な災害派遣などを行えるよう防衛省総合防災訓練を行った。具体的には、1)政府主催により官邸で行われた「防災の日」政府本部運営訓練(首都直下地震対処訓練)への参加、2)防衛省独自の災害対策本部運営訓練、3)八都県市合同防災訓練に連携した自衛隊統合防災演習、4)静岡県総合防災訓練と連携した訓練、5)関係地方公共団体などの行う総合防災訓練への参加、である。

(2)地方公共団体などとの連携
 災害派遣活動を円滑に行うためには、地方公共団体などとの平素から連携の強化も重要である。
 このため、自衛隊は、各種防災訓練への参加、連絡体制の充実や防災計画の整合など地方公共団体との連携の強化を進めている。
 具体的には、1)自衛隊地方協力本部においては、「国民保護・災害対策連絡調整官」を設置し、地方公共団体との平素からの連携の確保に努めている。
 また、2)東京都の防災担当部局に自衛官を出向させているほか、陸自中部方面総監部と兵庫県の間で事務官による相互交流を行っている。さらに、3)地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。こうした形で地方公共団体の防災関連部門などに在職している退職自衛官は、10(同22)年4月末現在、全国44都道府県・103市区町村に180名である。
 地方公共団体などに、自衛隊員としての経験や知識を活かした人的協力を行うことは、地方公共団体との連携を強化する上できわめて効果的である。

参照 資料35

 他方、防衛省・自衛隊としては、災害派遣時の活動がより効果的に行えるよう、地方公共団体においても、次のような取り組みがなされることが重要であると考えている。

ア 集結地やヘリポートの確保
 部隊などが活動するためには、現地の指揮所や宿泊、駐車、資材の集積などのための場所(集結地)7が必要である。また、災害時には車両での活動が制限される可能性があることから、ヘリコプターによる緊急患者・物資の輸送、消火活動などのため、被災地やその近くにヘリポート8が必要である。こうした集結地やヘリポートの確保については、地域防災計画への記述の推進など、日頃から自治体との連携を強化しているところである。また、平素から、避難場所と集結地・ヘリポートを明確に区分し、これを住民に周知しておくことも必要であり、今後、こうした点についても調整していきたいと考えているところである。

イ 建物を識別するための標示
 航空機による情報収集、人員・物資の輸送などを効率的に行うためには、空中から建物を確認しやすいよう、県庁、学校など防災上重要な施設の屋上に、建物を識別するための名称や番号などを標示しておくことは有効である。
 
消火活動のため水源から消火水を補充するCH-47

ウ 連絡調整のための施設の確保
 災害派遣の際、自衛隊の連絡要員が円滑に連絡調整を行えるよう、地方自治体などの庁舎内に、連絡要員が作業や通信などを行うための区画や駐車場などが確保されていることが必要である。
 現在、各地方自治体の協力も得て、現在、13都県の地域防災計画において自衛隊の連絡調整のための施設確保について明記されているなど、必要な措置がとられつつある。

エ 資機材などの整備
 各防災機関が共通で使用できるよう、避難場所や集積地・ヘリポートの位置などが記入された防災地図の整備が必要である。また、ヘリコプターによる空中消火のための器材整備や、溜(た)め池などの水源地確保なども重要であり、これらの対策は各自治体において整備が進んでいるところである。

(3)各種災害への対応マニュアルの策定
 さまざまな形で起こり得る災害に、より迅速かつ的確に対応するため、あらかじめ対応の基本を明確にして関係者の認識を統一しておくことが有効である。このため、00(同12)年11月、防衛庁(当時)・自衛隊は、災害の類型ごとの対応において留意すべき事項を取りまとめた各種災害への対応マニュアルを策定9し、関係機関、地方公共団体などに配布した。

(4)原子力災害などへの対処
 99(同11)年、茨城県東海村のウラン加工工場で発生した臨界事故の教訓を踏まえ、原子力災害対策特別措置法が制定され、これにともない、自衛隊法が一部改正された10
 東海村での臨界事故以降、経済産業省が主体となって00(同12)年から行っている原子力総合防災訓練では陸・海・空自が輸送支援、住民避難支援、空中と海上での放射線観測(モニタリング)支援などを行い、原子力災害に際しての各省庁や地方公共団体との連携要領を検討するなどの実効性の向上を図っている。
 また、原子力災害のみならず、その他の特殊災害11に対処するため、中期防において、NBC対処能力を強化することとしている。


 
7)集結地は、被災地近くの公園やグラウンドなどが適しており、たとえば陸自の1個連隊規模の部隊が宿泊して活動を行うのであれば、約15,000平方メートル(東京ドーム約1/3個分の面積)、師団であれば約140,000平方メートル(東京ドーム約3個分の面積)以上の広さが必要となる。

 
8)ヘリポートの広さは、ヘリコプターの機種や活動内容によって異なるが、1機あたりの目安として、50〜100m四方が必要である。

 
9)都市部、山間部及び島嶼部の地域で発生した災害並びに特殊災害への対応について
http://www.mod.go.jp/j/approach/defense/saigai/pdf/hyoushi02.pdf>参照。

 
10)1)原子力災害対策本部長の要請により、部隊などを支援のために派遣することができる。2)原子力災害派遣を命ぜられた自衛官が必要な権限を行使できる。3)原子力災害派遣についても、必要に応じ特別の部隊を臨時に編成することなどができる。4)原子力災害派遣を行う場合についても、即応予備自衛官に招集命令を発することができる。

 
11)特殊災害は、テロや大量破壊兵器などによる攻撃によっても生じる可能性がある。


 

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