第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

2 災害派遣などの初動態勢・実施状況

(1)災害に対する初動対処態勢
 阪神・淡路大震災の教訓から、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うため、初動態勢を整えている。陸自は、全国に配置した157か所の駐(分)屯地を基盤として待機態勢を維持しており、初動対応部隊として、人員、車両、ヘリコプター(ヘリ映像伝送を含む。)のほか、不発弾処理や化学防護のための部隊を1時間を基準に出動できる態勢を整えている。海自は、応急的に出動できる艦艇を基地ごとに指定しているほか、航空機の待機態勢を整えている。空自は、救難機・輸送機の待機態勢などを整えている。
 震度5弱以上の地震発生の情報を受けた場合、速やかに自主派遣として、航空機などにより現地の情報を収集し、官邸などに伝達する態勢をとっている。また、状況に応じ、関係地方公共団体などに連絡要員を派遣して情報収集を行う。
 自衛隊は、中央防災会議において検討されている大規模地震に対応するため、各種の大規模地震対処計画を策定している。たとえば、「首都直下地震対処計画」では、政治、行政、経済の首都中枢機能障害と相まって、甚大な人的・物的被害の発生のおそれがあることから、各自衛隊が協同し、組織的に対処することとしている。この場合、最大で陸自は約11万人の部隊などを被災地域に集中し、海自は最大艦艇約60隻、航空機約50機を、空自は偵察機、救難機、輸送機など約70機を運用する。
 また、平素からこうした計画の実効性を高めるための訓練をはじめとするさまざまな取組を行っている。
(図表III-1-2-14・15 参照)
 
図表III-1-2-14 災害派遣などにおける待機態勢(基準)
 
図表III-1-2-15 首都直下型震災発生の際の対処(一例)

(2)災害への対応
ア 救急患者の輸送
 自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送している(急患輸送)。平成21年度の災害派遣総数599件のうち、353件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)、五島列島(長崎県)、伊豆諸島、小笠原諸島(東京都)など離島への派遣が340件と大半を占めている。
 また、他機関の航空機では航続距離が短いなどの理由で対応できない本土から遠く離れた海域で航行している船舶からの急患輸送も行っている。

イ 消火支援
 平成21年度の消火支援件数は、86件であり、急患輸送に次ぐ件数となっている。
 その内訳は、自衛隊の施設近傍の火災への対応が最も多く、平成21年度は73件であった。また、山林などの消火が難しい場所では、都道府県知事からの災害派遣要請を受けて空中消火活動も行っている。
(図表III-1-2-16 参照)
 
図表III-1-2-16 災害派遣の実績(平成21年度)

参照 資料34

ウ 自然災害への対応
 09(同21)年7月、梅雨前線の活動が活発化したことにともなう西日本での大雨により、山口県、福岡県、長崎県において孤立者・行方不明者が発生した。このため、同月21日、山口県知事から第17普通科連隊長に、同月24日福岡県知事から第4師団長に、同月27日、長崎県知事から第16普通科連隊長に対し、それぞれ災害派遣要請がなされた。山口県防府市の勝坂峠、石原、真尾(まなお)などでは、大規模な土石流が発生し、孤立者や行方不明者が多数発生した。このため、県からの災害派遣要請受理後、ヘリコプターにより被災地域の状況を確認するとともに、被災地域のニーズに的確に応えるため山口県庁、防府市役所などに連絡員を派遣した。また、約300名の隊員をもって、勝坂峠などにおける行方不明となった方々の捜索・救助活動を行った。さらに、真尾に所在する特別養護老人ホームにおいては、孤立した入居者を救助するとともに負傷者をヘリコプターにより、医師とともに近傍の病院に搬送した。
 
森林火災にともなう災害派遣に際し消火活動を行う隊員

 山口市内では、豪雨の影響で広範囲に断水が発生し、かつ、多数の住民の方々が避難所生活を強いられ生活に不便が生じたため、市内の小学校や病院に山口県外から自衛隊の給水車、野外入浴セットを持ち込み、給水・入浴支援を実施した。また、福岡県筑紫郡でも、豪雨により大規模な土石流が発生し、約110名の住民が孤立したため、航空機で近隣中学校まで輸送した。さらに、長崎県佐世保市では、土砂崩れにより水道管が破裂し、約1万5,000世帯が断水した。多数の世帯に給水するため、大量の真水が運搬できる自衛隊艦船を相浦港に停泊させ、真水を給水車に移し替えて市内小学校、公民館などの合計19か所において給水活動を実施した。
 活動終了後、同年8月には、山口県知事から自衛隊の活動に対し、感謝状が贈られた。この一連の災害派遣での派遣規模は、人員約9,690名、車両約1,620両、航空機16機、艦船19隻となった。
 
中国・北部九州豪雨にともなう災害派遣に際し救助活動を行う隊員
 
台風9号の被害にともなう災害派遣に際し行方不明者の捜索を行う隊員

 また、09(同21)年8月には、台風9号にともなう大雨により、兵庫県と岡山県において孤立者や行方不明者が発生した。このため、同月9日、兵庫県知事から第3特科隊長に、岡山県知事から第13特科隊長に対し、それぞれ災害派遣要請がなされた。これを受け、兵庫県佐用町・宍粟(しそう)市では、土石流の発生により行方不明となった方々の捜索・救助活動を行った。また、兵庫県佐用町・宍粟市および岡山県美作(みまさか)市では、豪雨の影響で広範囲に断水が発生し、住民の方々の生活に支障が生じたため、給水支援を行った。活動終了後、同年12月には、兵庫県知事から、自衛隊の活動に対し、感謝状を贈られた。こうした支援を行った結果、派遣規模は、人員約2,990名、車両約330両となった。
 
防府市の災害派遣に際し救助活動を行う隊員

 加えて、10(同22)年2月には、チリ中部沿岸で発生した地震に際して、津波が到達するおそれがあるとして、北海道から沖縄までの太平洋沿岸の広い地域に大津波警報や津波警報が発令された。これを受け、全国の陸・海・空自の各部隊の航空機を使用して、津波による被害発生の有無を確認するとともに、東北地方などにおいては地上からも津波の発生の有無について確認などを行った。また、関係自治体との連携を強化するために、青森県庁、岩手県庁、宮城県庁をはじめとする20都県および気仙沼市、石巻市、鴨川市をはじめとする40市町村に連絡員を派遣した。さらに、東北地方各地では、津波による被害発生に素早く対応するために、地上部隊が事前に展開した。こうした派遣の規模は、人員約1,020名、車両約200両、航空機77機となった。
 宮崎県においては10(同22)年4月に、牛や豚などの家畜に口蹄疫(こうていえき)が発生した。口蹄疫の拡大にともない、同年5月1日に宮崎県知事から第43普通科連隊長に対し災害派遣要請がなされ、口蹄疫まん延防止の観点から緊急に対処する必要があったことから、5月1日から7月27日までの約3ヶ月(88日間)にわたり、逐次派遣規模を拡大しながら、家畜の埋却場所や清浄化のための畜舎の消毒作業(計138箇所)消毒ポイントにおける24時間体制の車両消毒作業(計15箇所)を実施した。
 これらの作業に当たった自衛隊の統制のとれた活動は、宮崎県知事をはじめ、関係市町長などから高く評価された。こうした口蹄疫の対応に係る災害派遣の規模は、人員約1万8,720名、車両約4,140両(施設車両など含む)となった。
 
口蹄疫まん延防止を行う隊員

 

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