第II部 わが国の防衛政策の基本と防衛力整備 

2 新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会

 1 懇談会の開催状況
 同年2月18日、第1回懇談会が開催された。この中で、鳩山内閣総理大臣(当時)は、16大綱の見直しを新政権の下で議論するためにそのプロセスを1年延ばした経緯を紹介した。また、最近の注目すべき安全保障環境の変化に触れつつ、日米同盟の深化、国連平和活動や災害救援活動、テロ対策といった国際平和のための取組への対処といった問題があることを指摘し、懇談会においてさまざまな角度から中長期的な視野で検討願いたいと述べた。
 本懇談会は、10(同22)年5月までに8回開催され(開催状況については図表U-2-3-1 参照)、同年8月27日、第9回の会合を開催し、報告書を菅内閣総理大臣に提出した。
 
第9回「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会(10(平成22)年8月27日)[内閣広報室]
図表II-2-3-1 「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の開催状況
注:上記8回の懇談会とは別に、勉強会を14回開催し、自衛隊の駐屯地・基地を抱える自治体(千歳市、佐世保市)などからの意見聴取や、報告書の作成に関する調整などを実施した。

 2 報告書の概要懇談会の開催状況
 報告書は4つの章から構成されている。
 まず第1章においては、日本がこれから取るべき安全保障戦略として、安全保障上の目標を定義し、現在から2020年前後を目処に日本が置かれるであろう国際環境について分析を加えた上で、日本がいかなる手段を用意し、その利用を図るべきかについて基本的方針を論じている。
 具体的には、(1)日本の安全と繁栄、(2)日本周辺地域と世界の安定と繁栄、(3)自由で開かれた国際システムの維持、という3つの安全保障上の目標を示し、そのための戦略および手段として、日本を取り巻く安全保障環境について分析しつつ、日本の地理的特性、経済力・防衛力の特性などを考えれば、日本のアイデンティティーは「平和創造国家」と表現できることを指摘した上で、(1)日本自身の取組、(2)同盟国との協力、(3)多層的な安全保障協力、の必要性について述べている。
 第2章においては、防衛力のあり方についての基本的な考え方として、平素から防衛力の適時適切な運用を行い、高い防衛能力を明示しうる運用能力を兼ね備えた、いわば動的抑止力が重要になっており、また、今日では基盤的防衛力という概念を継承しないことを明確にし、それに付随する受動的な発想や慣行から脱却して踏み込んだ防衛体制の改編を実現することが必要な段階に来ているとし、今後防衛力が果たすべき役割として、16大綱で示された3つの役割1を再構成し、(1)多様な事態への対応、(2)日本周辺地域の安定の確保、(3)グローバルな安全保障環境の改善、の3つを提示している。
 多様な事態への対応に関しては、弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃、特殊部隊・テロ・サイバー攻撃などへの対応と、こうした事態への同時対処や複合的な対処が必要な事例(「複合事態」)に効果的に対応できる防衛力が必要であるなどとしている。
 日本周辺地域の安定の確保に関しては、自衛隊と米軍の一層緊密な連携とともに、情報収集・警戒監視・偵察活動を重視し、各国との防衛協力・交流、地域安全保障枠組みへの参加を強化する必要があることなどを指摘している。
 グローバルな安全保障環境の改善に関しては、自衛隊は国際平和協力活動を通じて「平和創造国家」として日本のプレゼンスを世界に示すべきであり、可能なものについては積極的に参加すべきであると述べている。
 さらに、以上の3つの役割を果たすために必要な防衛力の機能と体制について選択と集中を進めるべきことなどを提言している。
 第3章においては、日本の目指す防衛力を支えるためにどのような基盤整備をすべきかについて、人的、物的、社会的基盤の課題と今後整備すべき方向を提案している。
 第4章においては、安全保障戦略を支える基盤の整備として、第1章で提起した日本のとるべき安全保障戦略をより効果的なものとし、また防衛力を安全保障の手段として適切に活用するために必要な、さまざまな制度や体制などの基盤をどのように整備すべきかについて述べている。
 報告書の概要については、図表U-2-3-2のとおりである。
 今後、政府として、この報告書も参考としつつ、16大綱の見直しが進められることになる。


 
1)(1)新たな脅威や多様な事態への実効的な対応、(2)本格的な侵略事態への備え、(3)国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組のこと。(本章第2節2参照)。

 

前の項目に戻る     次の項目に進む