1 16大綱策定の背景
1 国際情勢の変化と軍事力の役割の多様化
冷戦終結後、国家間の相互依存関係が深化・拡大し、国際協調・協力の進展などにより、世界的な規模の武力紛争が生起する可能性は、07大綱策定時と比較しても、一層遠のいている。その一方、領土、宗教、民族問題などに起因する複雑で多様な地域紛争が発生しているほか、新たな脅威や多様な事態
4への対応が各国および国際社会の差し迫った課題となっている。
このような中で、国家間紛争の防止には、従来の抑止力の維持は引き続き重要であるが、国際テロ組織のような非国家主体などに対しては、従来の抑止の考え方が必ずしも有効に機能し得ないものとなっている。
また、一国のみで安全保障上の問題を解決することが一層困難となっており、国際的な安全保障環境の安定を図ることは、各国にとって共通の利益となっている。そのため、各国はこれらの問題解決のため、軍事力を含む各種の手段を活用し、諸施策の連携と国際的な協調のもと、幅広い努力を行っている。その中で軍事力の役割は、従来からの武力紛争の抑止・対処に加え、紛争の予防や復興支援など多様化してきている。
こうした中、米国は、国際協調を考慮しつつ、国際テロや大量破壊兵器などの拡散といった問題への対応のための各種活動を行っており、これらの活動によっては、従来の同盟関係とは異なる有志連合(Coalition)という国際的な協力の枠組が機能する例が見られる。
このようなグローバルな変化の中で、わが国周辺地域は、民族、宗教、政治体制、経済力などが多様性を有するとともに、複数の主要国が存在し、利害が錯綜する複雑な構造を有し、統一・領土問題や海洋権益をめぐる問題も存在している。また、この地域の多くの国々では、軍事力の拡充・近代化が行われてきている。このような中で、特に、北朝鮮は大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発、配備などを行うとともに、大規模な特殊部隊など非対称な軍事力を維持強化している。さらに、中国は、政治的・経済的にもこの地域の大国として着実に成長し続けている。また軍事面でも、近年、核・ミサイル戦力や海・空軍力の近代化を推進するとともに、宇宙開発の推進や海洋における活動範囲の拡大などを図っており、このような動向については今後も注目していく必要がある。
4)「新たな脅威や多様な事態」とは、16大綱で「大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ組織等の活動を含む新たな脅威や平和と安全に影響を与える多様な事態」と定義されている。具体的には、弾道ミサイル攻撃、ゲリラや特殊部隊による攻撃、島嶼部に対する侵略、領空侵犯、武装工作船の侵入や外国潜水艦によるわが国領海での潜没航行、大規模・特殊災害などがあげられる。また、サイバー攻撃への対応なども、こうした事態への対応の一部として考えられる。