第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 中国との関係

 東南アジア諸国と中国の間では、南沙群島および西沙群島の領有権について争いがある1。02(同14)年11月、ASEANと中国の首脳会議で、領有権問題の平和的解決へ向けた「南シナ海における関係国の行動宣言」2が署名されたが、より具体的な行動を定め、かつ法的拘束力を有する「南シナ海における地域行動規範」3の策定に向けた作業については、大きな進展は見られていない。南沙群島および西沙群島をめぐっては、近年、周辺国などによる領有権主張のための活動の活発化や、これに対する抗議の表明の動きなどが見られる4
 近年、中国は、主権問題を棚上げした形で、同群島海域での資源開発を優先するよう関係国に対して積極的に働きかけている。04(同16)年9月、フィリピンとの間で南沙群島海域での共同油田探査が合意されたのに続き、05(同17)年3月には、フィリピン、ベトナムとの3か国で南シナ海における石油・天然ガスの共同探査を開始することが合意された。しかし、フィリピンは同合意の更新・延長に応じず、08(同20)年7月、同合意から離脱した。
 また、中国は近年、東南アジア諸国との間で、二国間および多国間の枠組を通じた政府要人の往来など協力関係の発展に努めている。97(同9)年にASEAN・中国首脳会議を初めて開催し、07(同19)年の第11回中国・ASEAN首脳会議では、温家宝(おん・かほう)総理は非伝統的安全保障分野でASEANと協力を強化する用意があり、マラッカ海峡のための海上調査訓練などに資金を提供する用意がある旨を表明した。 防衛の分野においては、主に二国間での交流を中心として、軍高官の往来や部隊間の交流・協力を進めている。04(同16)年に東南アジアの国とは初めてとなる共同捜索救難訓練をタイと行い、06(同18)年に中国とベトナムの海軍艦艇によるトンキン湾の共同パトロールが開始されたほか、07(同19)年および08(同20)年には中タイ特殊作戦部隊による対テロ共同訓練5などが行われた。09(同21)年もシンガポールとの間で、対テロ共同訓練が行われた6。また、07(同19)年には中国からの援助としてカンボジアへ哨戒艇などが供与されたほか、08(同20)年には東ティモールへの哨戒艇2隻の売却契約が結ばれたと伝えられている。


 
1)現在、南沙群島については、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張しており、西沙群島については、中国、台湾、ベトナムが領有権を主張している。南沙群島をめぐっては、88(昭和63)年には、中国とベトナムの海軍が武力衝突し一時緊張が高まったが、その後、大きな武力衝突は生起していない。

 
2)「南シナ海における関係国の行動宣言」は、南シナ海における問題を解決する際のおおまかな原則について明記された政治宣言である。

 
3)「南シナ海における地域行動規範」案は、99(平成11)年のASEAN外相会議でフィリピンにより提案され、その後の会合でも協議されているが、細部について意見の隔たりが大きく策定に至っていない。

 
4)07(平成19)年11月に中国は西沙群島で軍事演習を行い、12月には、中国政府が南沙群島を含む「三沙市」の設立を承認したと伝えられたことから、これに反発した民衆によるデモがベトナムで発生した。また、08(同20)年には、陳水扁・台湾総統(当時)が南沙群島の太平島を視察したことに対し、ベトナム、フィリピンが非難、懸念などを表明した。さらに、09(同21)年2月、フィリピンの「群島基線画定法」の制定をめぐり、中国がフィリピンに対し抗議したほか、台湾およびベトナムは、南沙群島などが自国の領土に属しており、これを侵害する行為については一切認めない旨の声明を発表した。同年11月には、中国海南省政府が西沙群島内の一部の島に村民委員会を設立すると決定したことに対して、ベトナムが「領有権を侵害する行為である」と非難したほか、同月、中国が西沙群島に漁業取締船を派遣したことなどに対して、ベトナムはこれを重大な主権侵害であると中国に抗議した。
 最近、中国が南シナ海を「核心的利益」と位置付けたとの報道がある。

 
5)07(平成19)年7月には「突撃2007」が中国・広州で行われ、08(同20)年9月には「突撃2008」がタイ・チェンマイで開催された。

 
6)09(平成21)年6月、両国から約60名ずつが参加して、中国・桂林で「協力2009」が行われた。


 

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