4 わが国の周辺のロシア軍
1 全般
極東地域のロシア軍の戦力は、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、依然として核戦力を含む相当規模の戦力が存在している。わが国周辺におけるロシア軍の活動は、演習・訓練を含め、活発化の傾向がみられる。
同地域では、近年ほぼ隔年で、テロ対策などを目的とした大規模演習「ボストーク」が実施されているほか、常時即応部隊によるロシア西方から極東地域への機動展開演習である「モビリノスチ2004」などの演習が行われている。また、10(同22)年に行われた大規模演習「ボストーク2010」は、指揮機構の改編による軍改革の成果の検証などを目的として極東地域以外の部隊なども多数参加して実施された
1。
ロシア全土およびロシア軍全般に関わるものとして、08(同20)年には、大陸間弾道ミサイルの発射を含む大規模共同演習「スタビリノスチ2008」が行われたほか、09(同21)年に行われたベラルーシとの大規模共同演習「ザパド2009」では「軍の新たな姿」に示された新たな指揮組織の検証も行ったとされている
2。
ロシア軍全般が戦略核部隊の即応態勢を維持し、常時即応部隊の戦域間機動による紛争対処を運用の基本としていること
3を踏まえると、極東地域のロシア軍については、他の地域の部隊の動向も念頭に置いた上で、その位置付けや動向につき引き続き注目していく必要がある。
(図表I-2-4-2 参照)
(1)核戦力
極東地域における戦略核戦力については、シベリア鉄道沿線を中心に、SS-25などのICBMや約30機の長距離爆撃機Tu-95MSが配備されている。さらに、SLBMを搭載したデルタIII級SSBNなどがオホーツク海を中心とした海域に配備されている。これら戦略核部隊については、即応態勢がおおむね維持されている模様である。
非戦略核戦力については、中距離爆撃機Tu-22M「バックファイア」、海上(水中)・空中発射巡航ミサイルなど多様な装備が配備されている。Tu-22Mは、バイカル湖西方、サハリン対岸地域および沿海地域に約80機配備されている。
(2)陸上戦力
極東地域における地上軍については、その兵力は縮小傾向にあり、軍改革の一環として師団中心から旅団中心の指揮機構への改編とすべての戦闘部隊の常時即応部隊への改編を推進しているとみられ、15個師団・旅団約9万人
4となっている。また、海軍歩兵師団を擁しており、水陸両用作戦能力を有している。
(図表I-2-4-3 参照)
(3)海上戦力
海上戦力については、太平洋艦隊がウラジオストクやペトロパブロフスクを主要拠点として配備・展開されており、主要水上艦艇約20隻と潜水艦約20隻(うち原子力潜水艦約15隻)、約28万トンを含む艦艇約240隻、合計約55万トンで、その規模は縮小傾向にある。
(図表I-2-4-4 参照)
(4)航空戦力
極東地域における航空戦力については、空軍、海軍を合わせて約570機の作戦機が配備されている。その作戦機数は、縮小傾向にあるが、既存機種の改修による能力向上が図られている。
(図表I-2-4-5 参照)
1)10(平成22)年6〜7月に極東およびシベリア軍管区において実施された「ボストーク2010」には、上記軍管区内の部隊のほか、沿ヴォルガ・ウラル軍管区の常時即応部隊や北洋艦隊および黒海艦隊の艦艇なども参加している。また、「ボストーク2010」の一環として、択捉島において関連の演習が実施された。
2)マカロフ参謀総長は09(同21)年10月、「「ザパト2009」演習でわれわれは、「軍の新たな姿」への移行に際して、軍の組織改編に関する自らの見解の正しさを確認した」と述べた。また、同参謀総長は「ザパド2009」演習ではあらゆる軍種・兵科が参加し、鉄道、航空機、海上輸送手段を用いた部隊移動が行われ、あらゆる戦闘行動の要素が演練された旨述べている。
3)08(同20)年8月のグルジア紛争において、ロシア軍は、北カフカス地域の部隊のみでなく、他の地域の部隊も投入した。
4)シベリア軍管区と極東軍管区における推定兵員数。