第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 軍事態勢

1 核戦力

 ロシア軍は、多極的な世界の形成を推進する趨勢(すうせい)の中での国際的地位の確保と、米国との核戦力のバランスをとる必要があることに加え、通常戦力の劣勢を補う意味でも核戦力を重視しており、核戦力部隊の即応態勢の維持に努めていると考えられる。
 戦略核戦力については、ロシアは、老朽化などの理由により、戦略核ミサイルの削減を徐々に進めているが、依然として米国に次ぐ規模の大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)や長距離爆撃機(Tu-95MS「ベアー」、Tu-160「ブラックジャック」)を保有している。
 核ミサイルの代替更新に関しては、ロシアは、新規装備の開発・導入の加速化に着手し、05(同17)年に新型のICBM「トーポリM」(SS-27)の部隊配備を開始している。また、「トーポリM」の多弾頭型とみられているRS-24の飛翔実験を07(同19)年から開始している。
 07(同19)年4月には、ボレイ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)を進水させているが、新型SSBNの建造は、全般的に当初の計画から遅延していると考えられる。また、ボレイ級SSBNに搭載されるとみられる新型のSLBM「ブラヴァ」の飛翔実験は05(同17)年9月に始まったが、09(同21)年までの飛翔試験は安定して成功していないとの指摘もあり、未だ配備には至っていない。
 米国とロシアは、09(同21)年4月、同年12月5日に失効する第1次戦略兵器削減条約(STARTI:Strategic Arms Reduction Treaty I)に代わる戦略攻撃兵器の削減および制限に関する法的拘束力のある新たな条約の締結について両国政府間の交渉を開始することで合意し1、10(同22)年4月、米露両大統領により新たな戦略兵器削減条約に署名が行われ、条約発効後7年までに双方とも配備戦略弾頭2を1,550発まで、配備運搬手段を700基・機まで削減することなどが定められた3
 非戦略核戦力については、ロシアは、射程500km以上、5,500km以下の地上発射型短距離および中距離ミサイルを中距離核戦力(INF:Intermediate-Range Nuclear Forces)条約に基づき91(同3)年までに廃棄し、翌年に艦艇配備の戦術核も各艦隊から撤去して陸上に保管したが、その他の多岐にわたる核戦力を依然として保有している4


 
1)米露首脳による戦略攻撃兵器の一層の削減の交渉に関する共同声明(09(平成21)年4月)

 
2)配備済みの大陸間弾道ミサイル(ICBM)および潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に搭載した弾頭(実際に取り付けられた弾頭の数をカウント)ならびに配備済の重爆撃機に搭載した核弾頭(1機当たり1発とカウント)

 
3)このほか、STARTIより簡素で費用のかからない検証措置が規定されたほか、戦略攻撃兵器と戦略防衛兵器の相互関係などについて触れられている。なお、この条約の発効にともない、両国の配備核弾頭を12(平成24)年12月31日までに1,700〜2,200発(核弾頭の保管分を除く)まで削減すべきことを規定する戦略攻撃能力削減に関する条約(モスクワ条約)は失効することになる。

 
4)ロシアは、米露以外の国々が中距離弾道ミサイル(IRBM:Intermediate Range Ballistic Missile)を保有している現状を踏まえ、米露のみが規制されるINF条約からの脱退を示唆していたが、07(平成19)年10月には、INF条約のグローバル化を米国と共に国際社会に表明している。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む