第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

1 北朝鮮

1 全般

 北朝鮮は、思想、政治、軍事、経済などすべての分野での社会主義的強国の建設を目指すとする「強盛大国」建設を基本政策として標榜(ひょうぼう)し1、その実現に向けて「先軍政治」という政治方式をとっている。これは、「軍事先行の原則に立って革命と建設に提起されるすべての問題を解決し、軍隊を革命の柱として前面に出し、社会主義偉業全般を推進する領導方式」と説明されている2。実際に、金正日(キム・ジョンイル)朝鮮労働党総書記が、国防委員会委員長として軍を完全に掌握する立場にあり3、また、軍組織を引き続き頻繁に視察していることなどから、軍事を重視し、かつ、軍事に依存する状況は、今後も継続すると考えられる。
 北朝鮮は、現在も、深刻な経済困難に直面し、食糧などを国際社会の支援に依存しているにもかかわらず、軍事面に資源を重点的に配分し、戦力・即応態勢の維持・強化に努めていると考えられる。たとえば、人口に占める軍人の割合は非常に高く、総人口の5%近くが現役の軍人とみられている4。また、そうした軍事力の多くをDMZ付近に展開させていることなどが特徴となっている。なお、09(同21)年4月の最高人民会議における北朝鮮の公式発表によれば、北朝鮮の同年度予算に占める国防費の割合は、15.8%となっているが、これは、実際の国防費の一部にすぎないとみられている。
 さらに、北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発などに努めるとともに、大規模な特殊部隊を保持するなど、いわゆる非対称的な軍事能力を維持・強化していると考えられる。
 北朝鮮のこうした軍事的な動きは、朝鮮半島の緊張を高めており、わが国を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。
 北朝鮮の核兵器保有が認められないことは当然であるが、同時に、核問題以外の安全保障上の懸念も忘れてはならず、北朝鮮の弾道ミサイル開発・配備・拡散などの動きや朝鮮半島における軍事的対峙にも、引き続き注目する必要がある。
 北朝鮮の政策や行動については、北朝鮮が、依然として閉鎖的な体制をとっているため、その動向の詳細や意図を明確に把握することは困難であるが、引き続き細心の注意を払っていく必要がある。


 
1)北朝鮮は、故金日成国家主席の生誕100周年にあたる12(平成24)年に、「強盛大国」の扉を開くとしている。

 
2)朝鮮労働党機関紙「労働新聞」および朝鮮労働党機関誌「勤労者」共同論説(99(平成11)年6月16日)。

 
3)国防委員会委員長は、憲法上、北朝鮮の「最高領導者」として、北朝鮮の「一切の武力を指揮、統率する」とされているほか、各国の国防省に相当する人民武力部は、内閣の下ではなく、この国防委員会の下に置かれていると考えられる。

 
4)総人口に占める現役の軍人(自衛官)の割合は、日本で約0.2%、米国で約0.5%、ロシアで約0.7%、韓国で約1.4%。


 

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