6 核戦略
オバマ大統領は、核兵器のない世界を目標にする一方で、この目標は早期に実現できるものではなく、核兵器が存在する限り核抑止力を維持するとしている。
10(同22)年4月に発表されたNPRは、核をめぐる安全保障環境が変化してきており、核テロリズムおよび核拡散が今日における切迫した脅威となっているとしている。また、核兵器保有国、特にロシアおよび中国との戦略的安定性の確保という課題に向けて取り組まなくてはならないとしている。
今回のNPRはこのような安全保障環境認識に立脚し、次の5つの主要目標を提示している。
1) 核拡散と核テロリズムの防止:核不拡散体制強化のため、北朝鮮及びイランの核兵器獲得への野心を転換させるとともに、核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)の不遵守に重大な制裁等が科される環境を創出する。また、核テロリズム防止のため、4年以内にすべての脆弱な核物質の安全を確保するとともに、エネルギー省の核不拡散プログラムの予算を拡大するなどの措置をとる。
さらに、軍備管理・軍縮促進のため、ロシアと新たな戦略兵器削減条約を締結し、包括的核実験禁止条約(CTBT:Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty)の批准及び早期発効を追求する。
2) 米国の核兵器の役割の低減:米国の核兵器の根本的な役割(fundamental role)は、米国、同盟国、パートナー国に対する核攻撃の抑止である。非核手段による攻撃を抑止するに際しての核兵器の役割を低減するため、消極的安全保証(Negative Security Assurance)を強化し、NPTに加盟し、核不拡散の義務を遵守している非核兵器国に対しては核兵器を使用せず、核兵器による脅威を与えないこととする。生物・化学兵器による攻撃に対しては、通常兵器による壊滅的な反撃で対応するが、バイオ技術などの進展などを考慮してこの方針に修正を加える権利を留保する。核兵器国またはNPTを遵守しない非核兵器国に対処する場合は、通常兵器あるいは生物・化学兵器による攻撃を抑止するにあたって核兵器が一定の役割を担う可能性を排除せず、核兵器の役割を核攻撃の抑止という唯一の目的(sole purpose)に限定する用意は現時点ではない。米国、同盟国、パートナー国のきわめて重要な国益を防衛するための、極限の状況でのみ核兵器の使用を考慮する。
3) 低減された核戦力レベルでの戦略的抑止と安定の維持:ロシアとの新たな戦略兵器削減条約のもと、配備戦略弾頭と運搬手段を削減しつつも、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)および戦略爆撃機による核抑止の三本柱は維持する。非戦略核兵器
7については、米露間の将来の削減対象とすることを目指すが、通常兵器と核兵器の双方を搭載可能な戦闘機を保持する。また、他の手段による代替が可能なため、核搭載海上発射型巡航ミサイル(TLAM-N:Tomahawk Land Attack Missile-Nuclear)を退役させる。
4) 地域的抑止の強化と同盟国・パートナー国に対する安心供与:二国間及び地域的な安全保障上の結びつきを強化し、同盟国等と緊密に協力する。ミサイル防衛、大量破壊兵器(WMD:Weapons of Mass Destruction)対処能力、通常戦力投射能力などからなる地域的な安全保障構造を強化する。同盟国およびパートナー国に対し、米国の拡大抑止が信頼でき効果的なものであるとの安心感を供与する。
5) 安全で確実で効果的な核兵器の維持:米国は今後、核実験を実施せず、新しい核弾頭の開発を行わない。その中で核弾頭の安全性・確実性・効果性を確保するため、核弾頭の寿命延長プログラム(LEP:Life Extension Program)を実施するとともに、LEPの実施に必要な科学・技術・工学的基盤を強化する。
7)非戦略核戦力については、94(平成6)年9月、クリントン政権(当時)が発表したNPRによると、1)空母艦載型の核・非核両用機への核兵器搭載能力を除去、2)水上艦艇への核搭載トマホーク巡航ミサイル搭載能力を除去、3)攻撃型潜水艦への核搭載トマホーク巡航ミサイル搭載能力を維持、4)欧州および米本土に配備する核・非核両用航空機と欧州に配備する核兵器の展開に関する現在のコミットメントを維持するとしている。今回のNPRは、通常兵器と核兵器の双方を搭載可能な戦闘機を保持し、これに搭載する核弾頭に寿命延長プログラムを適用していくとしている。