第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 


 
概観


1 全般


1 国際社会の動向

 今日の国際社会においては、今般の経済危機により、一部、保護主義的な傾向が見られるが、国家間の相互依存関係が深化した状態であるといえる。
 相互依存関係は、各国に安定と繁栄をもたらしてきたが、ある国で生じた経済的な問題や安全保障上の問題あるいは地域の不安定要素が国境を越えて世界中に広がり、他の国々に波及するという負の側面も持つ。このため、各国は、より安定した国際安全保障環境を構築することで世界や地域の平和、安定と繁栄を確保していくことを共通の利益にしており、国際社会が直面する問題の解決に利益を共有している国家同士によって協力して取り組むことがますます重要になっている。
 米国は、「唯一の超大国」として、これまで国際社会が直面する問題の解決のために主導的な役割を果たしてきた。将来的には、米国の相対的な優位性は軍事面を含め低下するとの指摘があるが、今後とも、国際社会において、米国は、引き続き最も影響力を有する国家であることに変化はないものと考えられる。本年1月に就任したオバマ大統領は、米国のみでも米国抜きでも今世紀の脅威に立ち向かうことはできないとして、国際社会における諸課題に立ち向かうためには古くからの同盟を強化するとともに新たな同盟を形成し、米国の全ての国力を利用するとしている。
 一方、近年の著しい経済成長により、中国やインドなどが台頭するとともに、ロシアについても90年代の社会・経済の混乱から脱却し、国力は回復基調にある。これらの国々は、世界的な経済危機の影響などを受け、景気減速の兆しもみられるが、今後は、多極化を志向しているこれらの国々の国際的な影響力は相対的に増していくとみられている。
 このような動きは、国際協調・協力に向けた大きな機会と捉えるべきものであるが、同時にこれらの大国の動向は安全保障環境に大きな影響を及ぼす可能性があることから、その動向、相互関係やこれらの国々といかなる関係を構築すべきかについての関心が高まりをみせている。

 

前の項目に戻る     次の項目に進む