第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 対外関係

(1)基本姿勢
 インドは、90年代より経済の自由化や改革を進めるとともに多角的かつ積極的な外交を推進しており、国際社会におけるインドの存在感は確実に高まっている。インドは、全ての友好国家との軍事協力の急速な拡大が、南アジア地域の安全保障環境を強化することのみならず、世界の安全保障を強化することを期待するとしており、近年、多くの国々との間で共同訓練を行うなど9、軍事交流の進展に努めている。
(2)米国との関係
 インドは、米国との関係強化に積極的に取り組んでおり、米国もインドの経済成長にともなう関係拡大を背景に対印関与を促進していることから、各分野において、双方向で関係が強化されている。
 05(同17)年7月、シン印首相は、米国を公式訪問し、ブッシュ大統領(当時)との間で、両国が宇宙、民生用原子力エネルギーおよび軍民両用技術などの分野において協力する「グローバル・パートナーシップ」確立への決意を示す共同声明を発表した。さらに、06(同18)年3月には、ブッシュ米大統領(当時)が、米国大統領として6年ぶりにインドを訪問し10、シン印首相との間で戦略的に両国の関係強化を図ることに合意した。
 民生用の原子力協力については、昨年10月、ライス米国務長官(当時)とムカジー印外相(当時)は、核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)未加入のインドに対して、米国からの核技術および核燃料の供給を可能にする米印原子力協力協定に署名している。
 安全保障の分野においては、05(同17)年6月、ムカジー印国防相(当時)とラムズフェルド米国防長官(当時)が、武器の共同生産やミサイル防衛での協調などの両国の軍事協力拡大に道を開く10年間の防衛関係の指針「米印防衛関係の新たな枠組み」に署名した。06(同18)年3月には、米国防省が、海洋の安全保障を含め、インドとの安全保障協力の推進を表明した11。さらに、昨年2月にはゲイツ米国防長官がインドを訪問し、シン印首相らと会談した。
 米印間では共同軍事演習などの軍事交流も活発化している。昨年8月、インド空軍は、ネバダ州ネリス空軍基地で行われた米軍の演習「レッド・フラッグ08-4」に初めて参加した12。昨年10月には、米印両軍は、「マラバール08」をアラビア海で行った。「マラバール08」には、米海軍の空母が参加し、対空戦、対潜戦、対水上戦および立入検査を行うなど、米国との共同演習は質・量ともに充実傾向にある。また、本年4月から5月にかけて、「マラバール09」が沖縄沖で、日本が加わり3か国で行われている13
 インドは、兵器の調達先を国際的に拡大する姿勢を示しており、米国製兵器の調達についても関心を示している。インドはすでに、米国から中古の揚陸艦を購入しており14、本年3月には、米国は、P-8哨戒機のインドへの売却を承認している15

(3)中国との関係
 インドは、中国との間ではチベット問題および未画定の国境問題を抱えており、また、中国の核やミサイル、海軍力を含む軍事力の近代化の動向に対して警戒感を示しているものの、両国首脳による相互訪問を行うなど、対中関係の改善に努めている。04(同16)年3月、曹剛川(そう・ごうせん)国防部長のインド訪問に際し、両国は軍事交流の拡大に合意し、これに基づき、同年12月には、約10年ぶりとなるインド陸軍参謀長の中国訪問が実現した。両国は、05(同17)4月の温家宝(おん・かほう)総理のインド訪問時に、「平和と繁栄のための戦略的・協力的パートナーシップ」16の樹立に合意した。06(同18)年11月には、胡錦濤(こ・きんとう)国家主席が中国の元首として10年ぶりに訪印し、シン印首相と会談、両国は中印の戦略的・協力的パートナーシップの発展は重要な共通認識であることに合意するとともに、首脳会談の定例化などを盛り込んだ共同宣言を発表した17。また、昨年1月には、シン印首相が訪中し、温家宝総理との間で、「21世紀の共同展望」を目指す共同文書に署名した。さらに、07(同19)年12月には、初の両国陸軍による共同訓練となる中印対テロ共同訓練が中国の雲南省で行われた。昨年12月には、両国陸軍による2度目の共同訓練となる中印対テロ共同訓練がインドで行われた18

(4)ロシアとの関係
 従来から友好関係にあったロシアとの間では、毎年首脳が相互訪問するなど緊密な関係を維持している。00(同12)年10月、両国は「戦略的パートナーシップ宣言」に署名して関係を強化し、T-90戦車などのロシアからの導入や超音速巡航ミサイルの共同開発を進めてきた19。昨年12月には、ロシアのメドベージェフ大統領がインドを訪問し、両国首脳による「共同宣言」のほか、原子力発電所建設に関する政府間協定をはじめとする合意文書に署名した。
 インドにとってロシアは主要な兵器の調達先であり20、04(同16)年1月には、ロシアのイワノフ国防相(当時)がインドを訪問し、ロシアの退役空母「アドミラル・ゴルシコフ」の売買契約が締結された。07(同19)年1月にも、イワノフ国防相(当時)はインドを訪問し、軍事技術協力、共同演習などについて協議した21。さらに、両国は、第5世代戦闘機の共同開発の実現化を進めているものと伝えられている22
 また、03(同15)年以降、両国の共同軍事演習が実施されている23

(5)東南アジア諸国との関係
 90年代半ばより、インドは、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)を含む東アジア諸国との関係強化を図っている。03(同15)年10月には、「東南アジア友好協力条約」(TAC:Association of Southeast Asian Nations)にも署名した24


 
9)07(平成19)3月から5月にかけて、インド海軍は、艦隊を派遣し、シンガポール、米国、日本、中国、ロシアなどとの間で共同訓練を行った。

 
10)ブッシュ米大統領(当時)は、インドは米国の「ナチュラル・パートナー」であると言及した。

 
11)米国は、同協力の目標はインドに見合うだけの防衛力を整備し、能力や技術を提供することであるとし、F-16やF-18戦闘機売却の用意についても表明している。

 
12)「レッド・フラッグ」は、米軍が同盟国の空軍と定期的に行う実戦的な戦闘訓練であり、「レッド・フラッグ08-4」には、インド空軍からSu-30MKI戦闘機、IL-78空中給油機、IL-76輸送機および人員247名が参加した。

 
13)従来、「マラバール」は、米印の二国間演習であったが、「マラバール07-2」には、日本、オーストラリアおよびシンガポールが加わり、5か国が参加した。

 
14)インドは、米海軍のオースチン級ドック型輸送揚陸艦を購入し、07(同19)年6月、インド海軍艦艇「ジャラシヴァ」として再就役させた。なお、同艦はインド海軍が保有する初の米国艦艇

 
15)P-8は米海軍の新型哨戒機であり、海外への売却はインドが初めて。

 
16)本合意の中で、中国は、シッキム州がインドの領土であることを認めるとともに、両国は、未画定国境問題の早期解決に向けた努力を継続することに合意している。

 
17)両国は、首脳級会談の定例化に合意し、相互貿易額を2010年までに400億ドルに倍増する目標を設定した。また、投資保護や新たな総領事館の相互設置などに関する合意文書に署名した。

 
18)本訓練の目的は、中印両軍の相互理解・信頼の増進および関係の発展推進であるものと伝えられており、07(平成19)12月に行われた「携手2007(Hand-in-Hand 2007)」および昨年12月に行われた「携手2008」には、中印両軍からそれぞれ約100人が参加した。

 
19)本年1月および3月にも、インドは同ミサイルの発射実験を行っている。

 
20)インドの保有する兵器の約7割は旧ソ連およびロシア製とされる。

 
21)両国は、多用途中型輸送機および第5世代戦闘機の共同開発プロジェクトに関する文書に署名した。また、すでに締結されている協定の枠組の中で、T-90戦車、Su-30MKI戦闘機およびMi-17ヘリコプターのインドへの追加提供に関する提案が検討された。両国間では現在共同開発中の巡航ミサイル「ブラモス」の生産力の向上とともに、同ミサイルの空中発射バージョンの開発を目指すことが確認された。また、MiG-29戦闘機用エンジンのライセンス生産の契約に関する政府間協定を締結した。さらに、本年4月および9月に、両国がロシア領内で対テロ共同軍事演習を行うことに合意した。

 
22)07(平成19)10月、両国は第5世代戦闘機の開発・生産に関わる協力協定に署名している。

 
23)03(平成15)年以降、共同演習「インドラ」が隔年で行われている。

 
24)同時に、「印・ASEAN包括的経済協力のための枠組み協定」および「テロとの闘いに関する印・ASEAN共同宣言」に署名した。


 

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