第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

6 地域の諸問題

 東南アジアでは、域内各国の協力関係が進展する一方で、依然として不安定要素も存在している。
 昨年7月、世界遺産委員会でカンボジアのプレアビヒア寺院の遺産登録が正式に承認されたのを機に、同寺院周辺の国境未画定地域の扱いをめぐり、カンボジアとタイとの間で緊張が高まった。同年10月には対峙していた両国軍の間で銃撃戦が発生し、双方に死傷者が発生する事態に至った。その後は、両国の現地軍司令官が協議を行い、同寺院周辺で共同パトロールを行うことで合意し、事態の解決が試みられているが、本年4月には、再び両国軍の間で銃撃戦が発生している。
 フィリピンでは、昨年8月以降、軍とイスラム系反政府勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF:Moro Islamic Liberation Front)の武力衝突が激化し、一般市民が避難を余儀なくされるなどの影響が出ている。フィリピン政府とMILFの仲介を行い、国際監視団(IMT:International Monitoring Team)1の主要なメンバーであったマレーシアは、和平交渉の停滞を理由に、昨年11月末にIMTから撤退しており、今後の治安情勢の悪化が懸念される。
 東ティモールでは、06(同18)年4月の治安悪化を受け、オーストラリア、ニュージーランド、ポルトガル、マレーシアの4か国が国際治安部隊を現地に派遣し2、同年8月には、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT:United Nations Integrated Mission in Timor-Leste)が設立された。
 昨年2月、ラモス・ホルタ大統領およびグスマン首相に対する武装勢力による襲撃事件が発生したものの、その後、同国の政治的・治安上の状況は改善し、現在は全体的に平穏を保っている。しかし、依然として情勢は不安定であり、UNMITのマンデートは来年2月26日まで延長された3。なお、東ティモールは12(同24)年までのASEAN加盟を目標としている。


 
1)IMTはマレーシアを団長に、ブルネイ、リビア、日本から構成されており、03(平成15)年7月のフィリピン政府とMILFの停戦合意に基づき、04(同16)年10月よりミンダナオにおいて停戦監視活動を行っていた。しかし昨年11月以降、マレーシアの撤退によりIMTの活動は中止している。

 
2)現在は、オーストラリア、ニュージーランドの2か国で国際治安部隊を構成している。

 
3)UNMITは本年2月の国連安保理決議第1867号により、来年2月26日までマンデートが延長されている。本年2月末現在、文民警察要員1,578名および軍事監視要員33名が展開している。


 

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