第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

5 地域内の協力

 東南アジア諸国では、地域の多国間安全保障の枠組みとしてASEANの活用が図られている。アジア太平洋地域における政治・安全保障分野を対象とする対話のフォーラムであるASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)に加え、06(平成18)年以降、ASEAN国防相会議(ADMM:ASEAN Defense Ministers' Meeting)が年1回のペースで開催されている1。また、07(同19)年11月の第13回ASEAN首脳会議においては、15(同27)年までのASEAN共同体設立に向け、基本原則となるASEAN憲章2が採択され、全加盟国の批准手続きの完了を受けて、昨年12月に発効した。本年2月に開催された第14回ASEAN首脳会議において、「ASEAN政治・安全保障共同体青写真」などが採択され、15(同27)年の共同体構築へ向けた動きが進んでいる。
 
本年2月に行われた第3回ASEAN国防相会談〔シンガポール国防省〕

 東南アジア地域においては、テロや海賊のような国境を越える問題など安全保障上の幅広い問題へ対応するため、ASEAN以外の枠組においても多国間の協力が進展している。
 04(同16)年7月には、マレーシア、インドネシアおよびシンガポールの3か国が、マラッカ・シンガポール海峡の海賊などの警戒のため、海軍が互いに連携を取りつつ各々自国の領域をパトロールする「調整されたパトロール(Trilateral Coordinated Patrols)」を開始し、05(同17)年9月には、航空機による共同パトロール(Eyes in the Sky)も始動させている。昨年9月には、これらの枠組に、タイも加わった。このほかの海賊対策としては、わが国が提案・主導した「アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP:Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery Against Ships in Asia)」3が06(同18)年9月に発効しており、海賊に関する情報共有および協力体制の構築を進めている。
 また、04(同16)年以降、マレーシア、シンガポール、英国、オーストラリア、ニュージーランドは「5か国防衛取決め(FPDA:Five Power Defence Arrangements)」の枠組で、海上阻止訓練などを内容とする共同統合演習を行っている。


 
1)本年2月に開催された第3回ASEAN国防相会議では、自然災害やテロ、海上安全保障、パンデミックなど、国境を越える安全保障上の問題が幅広く議論されるとともに、ADMMプラス(拡大ADMM)の参加国の原則、人道支援及び災害救援におけるASEANの軍用資産及び能力の使用など3つのコンセプト・ペーパーが採択された。

 
2)内政不干渉をかかげ、コンセンサス方式をとるASEANでは、これまでミャンマーなどに対して実効性のある措置がとられてこなかったことから、その機構改革の行方が注目されていたが、ASEAN憲章では、従来どおり全会一致を原則とし、一致が得られない場合には首脳会議が意思決定の方法を決めるとした。また、重大な憲章違反や憲章不遵守があった場合に、問題を首脳会議に付託することや、人権機関を設立することなどが盛り込まれ、ASEANの組織・制度強化が図られた。

 
3)海賊に関する情報共有体制と各国協力網の構築を通じ、海上保安機関間の協力強化を図ることを目的としている。ASEAN諸国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)、日本、バングラデシュ、中国、インド、韓国、スリランカが協定の作成交渉に参加したが、インドネシアとマレーシアは協定締結に至っていない。


 

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