第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 米国との関係

 米国との関係は、テロとの闘いにおける協力などを通じて、さまざまな分野において進展したが11、米国は昨年8月のグルジア紛争時のロシアの軍事行動12や内政の動向に、ロシアは米国の対外政策にそれぞれ懸念を表明しており、ロシアは、次世代の兵器開発に多額の資金を投じ、東欧諸国に軍を展開する米国への対抗策が必要な状況に立たされているとしている。
 弾道ミサイル防衛(MD:Missile Defense)を推進する米国による02(同14)年6月の対弾道ミサイル・システム制限(ABM:Anti-Ballistic Missile)条約からの脱退に対し、ロシアは、米国のABM条約脱退の決定は誤りであるとはしたものの、ロシアの安全保障上の脅威とはならないと受け止めてきた。しかし、米国のMDシステムの一部をチェコおよびポーランドに配備するための本格的交渉の開始が合意されたことに対し、このシステムがロシアに向けられたものであり、自国の核抑止能力に否定的影響を与える可能性があるとしてロシアは強く反発している13。また、米国とロシアは、本年4月、同年12月5日に失効するSTARTIに代わる戦略攻撃兵器の削減および制限に関する法的拘束力のある新たな条約の締結について両国政府間の交渉を開始することで合意した。


 
11)たとえば、信頼醸成措置から始まった両国の軍事面における協力関係は、実際の共同行動をも念頭に置いた段階に発展しつつある。04(平成16)年から在欧米陸軍とロシア地上軍の間で指揮所演習「トルガウ2004」(05(同17)年、「トルガウ2005」も実施)が開始され、07(同19)年は実動訓練を伴う「トルガウ2007」が行われた。

 
12)本年2月に米国務省が公表した「2008年の人権状況に関する年次報告書」では、「昨年8月、ロシアは、不釣り合いに大規模な兵力を使用し、グルジアの国際的に認められた国境を越えて、軍事的侵攻を行った。グルジア部隊およびロシア部隊による軍事作戦には、無差別の武力行使が含まれ、多数のジャーナリストを含む民間人死傷者が出た。」と記述されている。

 
13)メドベージェフ大統領は昨年11月の年次教書演説の中で、米国のMDシステム配備に対抗し、短距離ミサイルをポーランドと接するロシア領のカリーニングラード州に配備することを示唆するなど、米国への強い姿勢を明確にしている。


 

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