第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 わが国の周辺のロシア軍

1 全般

 極東地域のロシア軍の戦力は、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、依然として核戦力を含む相当規模の戦力が存在している。訓練活動などの減少傾向は、下げ止まり、近年は練度回復を図る中にあって、活発化の傾向もみられる。なお、同地域では、03(平成15)年以降、大規模な対テロ演習である「ボストーク」が隔年で開催されているほか、常時即応部隊によるロシア西方から極東地域への機動展開演習である「モビリノスチ2004」などの演習が行われている。また、昨年は、大陸間弾道ミサイルの発射を含む大規模共同演習「スタビリノスチ2008」が、ロシア全土およびベラルーシにおいて行われた。本演習の一環として、極東地域では、大規模演習「ベレグ」が行われた。
 ロシア軍全般が戦略核部隊の即応態勢を維持し、常時即応部隊の戦域間機動による紛争対処を運用の基本としていること1を踏まえると、極東地域のロシア軍の将来像については、他の地域の部隊の動向も念頭に置いた上で、その位置付けや動向について、引き続き注目しておく必要がある。
(図表I-2-4-2 参照)
 
図表I-2-4-2 わが国に近接した地域におけるロシア軍の配置

(1)核戦力
 極東地域における戦略核戦力については、SS-25などのICBMや戦略爆撃機Tu-95MSベアーがシベリア鉄道沿線を中心に配備され、SLBMを搭載したデルタIII級SSBNなどがオホーツク海を中心とした海域に配備されている。これら戦略核部隊については、即応態勢がおおむね維持されている模様である。
 非戦略核戦力については、極東地域のロシア軍は、中距離爆撃機Tu-22Mバックファイア、海上(水中)・空中発射巡航ミサイルなど多様な装備を保有している。バックファイアは、バイカル湖西方、サハリン対岸地域および沿海地域に約80機配備されている。
(2)陸上戦力
 極東地域の地上軍の兵力は、90(同2)年以降、その規模は縮小傾向にあり、現在、15個師団約9万人2となっている。
 また、海軍歩兵師団を擁しており、水陸両用作戦能力を有している。
(図表I-2-4-3 参照)
 
図表I-2-4-3 極東地域のロシア軍の地上兵力の推移

(3)海上戦力
 海上戦力については、太平洋艦隊がウラジオストクやペトロパブロフスクを主要拠点として配備・展開されており、主要水上艦艇約20隻と潜水艦約20隻(うち原子力潜水艦約15隻)、約28万トンを含む艦艇約240隻、合計約55万トンで、90(同2)年以降、その規模は縮小傾向にある。
(図表I-2-4-4 参照)
 
図表I-2-4-4 極東地域のロシア軍の主要海上兵力の推移
(4)航空戦力
 航空戦力については、空軍、海軍を合わせて約600機の作戦機が配備されている。その作戦機数は、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、既存機種の改修による能力向上が図られている3
(図表I-2-4-5・6 参照)
 
図表I-2-4-5 極東地域のロシア軍の航空兵力の推移(戦闘機)
 
図表I-2-4-6 極東地域のロシア軍の航空兵力の推移(爆撃機)


 
1)昨年8月のグルジア紛争において、ロシア軍は、北カフカス地域の部隊のみでなく、他の地域の部隊も投入した。

 
2)シベリア軍管区と極東軍管区における推定兵員数

 
3)ステルス性や高運動性を有した、いわゆる第5世代戦闘機を開発中である。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む