第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 軍改革

 ロシアは、ソ連邦崩壊後の混乱を経て、90年代の厳しい経済情勢や人口減少などにより、冷戦期のような軍事態勢を維持することは困難な状況のもと、97(同9)年以降、「コンパクト化」、「近代化」、「プロフェッショナル化」という3つの改革の柱を掲げて軍改革を本格化させてきた。
 現在、兵員の削減と機構面の改革、新型装備の開発・導入を含む軍の近代化、即応態勢の立て直しなどが進められており4、100万人を適正水準とする兵員削減については、16(同28)年までに達成するとしている5
 機構面の改革は、3軍種3独立兵科制への移行や軍管区の統合などが行われ、おおむね完了した。軍の近代化については、06(同18)年10月に「2007年から2015年までの装備国家綱領」が大統領により承認され、15(同27)年までの間に装備の開発・調達などに約5兆ルーブル(約22兆2,000億円)が投じられる予定である6
 また、全ての戦闘部隊を常時即応部隊化し、12(同24)年までに各軍管区に1個緊急対応旅団を創設するなど、常時即応部隊の整備とあいまってロシア軍の即応態勢の向上に寄与し、軍人の質的向上を図り練度の高い軍を維持するために、徴兵ではなく契約により採用を行う契約勤務制度の導入が進められているが7、処遇改善など、専門技術知識と能力を有する人材確保が課題と認識されている8。その他、ロシア軍では、部隊指揮システムの改善も進められており、これらの通常戦力の能力向上のための取組は、核兵器による戦略抑止能力を維持するための努力とともに、近年の国防予算の増加傾向を背景として、今後も、継続されていくと考えられる。
(図表I-2-4-1 参照)
 
図表I-2-4-1 ロシアの国防費の推移


 
4)昨年10月、セルジュコフ国防相は、大統領により同年9月「ロシア連邦軍の将来の姿(「軍の新たな姿」)」が承認され、指揮機構の改編(軍管区−軍−師団−連隊の4層構造から軍管区−作戦コマンド−旅団の3層構造へ)、全戦闘部隊の常時即応部隊化、将校の階級構成の是正等を行う旨発表した。

 
5)昨年10月、セルジュコフ国防相は軍改革に関連し、12(平成24)年までに軍の総兵力を100万人に削減すると発言した。しかし、同年12月の大統領令により、同兵力削減を16(平成28)年をもって行うとした。

 
6)昨年からの金融危機や原油価格下落などの影響で、ロシア連邦予算に財源不足が生じたため、国防予算を含む2009年度の連邦予算を下方修正することとなったが、これまでの好調な経済を背景に積み立てられた予備費を連邦予算に充当して対応するとしており、軍事力の近代化は引き続き行う旨をメドベージェフ大統領は表明している。また、現在、ハイテク装備の調達を優先し、グルジア紛争の教訓を考慮した「2011年から2020年までの装備国家綱領」も策定中である。

 
7)07(平成19)年4月、プーチン大統領(当時)は年次教書演説において、ロシア軍の3分の2が職業軍人となると発言した。また、昨年1月より、徴兵期間は12か月に短縮された。

 
8)プーチン大統領(当時)の演説「2020年までのロシアの発展戦略」(昨年2月)。また、初級将校の確保のため、軍学校の改編や民間高等教育機関(大学)に短期勤務を行う将校を養成するための「教育センター」の設置を行うほか、プロフェッショナルな下士官を養成するため専門教育課程を軍学校に開設するなど、人材確保に努めている。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む