第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

5 その他の諸国との関係

(1)東南アジア諸国との関係
 東南アジア諸国との関係では、引き続き首脳クラスなどの往来が活発であり、中国は、この地域のすべての国との二国間関係の発展を図ってきている。また、ASEAN+1(中国)やASEAN+3、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)といった多国間の枠組においても中国は積極的な関与を行っている。中国は、外交の場を利用して、ASEAN諸国との間の経済的、文化的協力関係の深化を進めるとともに、最近では安全保障分野における協力関係を進展させることに積極的である9。また、中国は、フィリピンへの工兵機材の供与やカンボジアへの哨戒艇の供与など軍事援助による関係強化も図っている。

(2)中央アジア諸国との関係
 中国西部の新疆(しんきょう)ウイグル自治区は、中央アジア地域と隣接している。カザフスタン、キルギス、タジキスタンの3か国とは直接国境を接しており、それぞれの国境地帯をまたがって居住する少数民族があり、人的交流も活発である。そのため、中国にとって中央アジア諸国の政治的安定やイスラム過激派によるテロなど治安情勢は大きな関心事項であり、01(同13)年6月に設立されたSCOへの関与は、中国のこのような関心の表れと見られる。

(3)南アジア諸国との関係
 中国は、国境紛争などからインドとは対立関係が続いてきたが、インドと対立関係にあるパキスタンとは従来から良好な関係を有し、武器輸出や武器技術移転など軍事分野での協力関係も伝えられる。他方で、近年、中国は、パキスタンとのバランスにも配慮しつつ、インドとの間の関係改善にも努めており、積極的な首脳往来を行う中で、インドとの関係を戦略的パートナーシップの関係にあるとし、過去、軍事衝突に至った中印国境画定問題も進展していると表明している。インドとの関係進展の背景には、中印両国における経済成長の重視や米印関係の強化の動きへの対応があるものと考えられる。
 軍事交流では、中国とパキスタンやインドとの間で、03年以降、海軍共同捜索・救難訓練が行われている。07(同19)年12月には、中国雲南省において62(昭和37)年の中印国境紛争以来初の両国陸軍部隊による対テロ共同訓練「携手2007」が行われ、昨年12月にもインド南部において、対テロ共同訓練「携手2008」が行われた。

(4)EU諸国との関係
 近年、中国とEU諸国との間の貿易の伸びは著しく、中国にとってEUは、特に経済面において、日本、米国と並ぶパートナーとなってきている。中国は、外交の場を利用して、EU諸国に対し、89(平成元)年の天安門事件以来の対中武器禁輸措置の解除を強く求めてきている。
 EU加盟国は、情報通信技術、航空機用電子機器、潜水艦の大気非依存型推進システムなどにおいて中国や中国に武器を輸出しているロシアよりも進んだ軍事技術を保有している。このため、EUによる対中武器禁輸措置が解除された場合、EU諸国の武器や軍事技術が中国に移転されたり、ロシアとの武器取引を有利にするための交渉材料として用いられたりする可能性がある。わが国からEUに対しては、対中武器禁輸措置の解除に反対の意を表明してきており、引き続き今後のEU内の議論に注目していく必要がある。


 
9)最近の中国と東南アジア諸国との間の主な軍事交流としては、中国とタイの陸軍が07(平成19)年7月および昨年9月に行った中タイ対テロ共同軍事演習、06(同18)年4月にトンキン湾で中国とベトナムの海軍艦艇が共同で初めて行った共同パトロール、昨年11月の中国海軍練習艦のカンボジア、タイおよびベトナム訪問、曹剛川(そう・ごうせん)国防部長(当時)による昨年1月のインドネシア訪問、呉勝利(ご・しょうり)海軍司令員による昨年10月のタイ訪問などがある。


 

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