第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 対外関係

 北朝鮮は、対外関係の改善に努めてきたが、核問題やミサイル問題をめぐる一連の行動は、各国の懸念を高めている。
 米国は、他国と緊密に協力しつつ北朝鮮の核計画廃棄に取り組む姿勢を明らかにし、六者会合を通じて問題の解決を図ろうとしている。北朝鮮も、朝鮮半島の非核化は「金日成(キム・イルソン)主席の遺訓」であるとして、「すべての核兵器および既存の核計画」の放棄を約束している。しかしながら、北朝鮮は、米国が北朝鮮に対する「敵視政策」を放棄していないなどとして米国のさまざまな政策を非難し続けており、米朝の立場には依然隔たりがみられる26。また、米国は、北朝鮮による核兵器・核関連物質の拡散の可能性や弾道ミサイルの開発・配備・拡散に関する懸念を繰り返し表明している。
 なお、米国は、国別テロリスト報告書において、日本人拉致問題が未解決であること、北朝鮮が依然として「よど号」グループのハイジャック犯が依然として北朝鮮に居住していることを指摘しているが、昨年10月、同年6月に提出された核計画の申告に対する一連の検証措置に北朝鮮が合意したなどとして、北朝鮮の「テロ支援国家」指定を解除した27
 南北関係においては、核問題などにより国際社会の北朝鮮に対する懸念が高まっている中においても、対話や経済面・人道面の交流が行われてきていたが、韓国で李明博(イ・ミョンバク)政権が発足後、南北間の対話や交流に進展はみられていない。特に、軍事的な分野を含め、当局間の対話は停滞している28
 中国との関係では、61(昭和36)年に締結された「中朝友好協力および相互援助条約」が現在も継続している。92(平成4)年に中韓の国交が樹立されてから、冷戦期の緊密さとは異なる事象もみられたが、その後、中朝首脳が相互訪問するなど、関係の進展がみられた。中国は、北朝鮮の核問題に対しては、朝鮮半島の非核化を支持する旨繰り返し表明しつつ、六者会合では議長役として合意の達成に貢献するなど、この問題の解決に向けて積極的な役割を果たしている。他方で、中国と北朝鮮との関係に一定の距離がみられつつあるという指摘もある。
 ロシアとの関係は、冷戦の終結にともない疎遠になっていたが、00(同12)年2月、従前の条約と違い軍事同盟的な条項が欠落した29「露朝友好善隣協力条約」が署名された。その後、露朝首脳が相互訪問するなど、北朝鮮とロシアとの関係改善の動きが見られる。
 また、北朝鮮は、99(同11)年来、相次いで西欧諸国などとの関係構築を試みており、欧州諸国などとの国交の樹立やARF閣僚会合30への参加などを行ってきた。他方、EUやASEANなどは、従来から北朝鮮の核問題などに懸念を表明している。
 北朝鮮の核問題の解決に当たっては、日米韓が緊密な連携を図ることが重要であることは言うまでもないが、六者会合の他の参加国である中国、ロシアなどの諸国や国連、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)といった国際機関の果たす役割も重要である。
 北朝鮮の核兵器保有が認められないことは当然であるが、同時に、核問題以外の安全保障上の懸念も忘れてはならず、朝鮮半島における軍事的対峙(たいじ)や北朝鮮の弾道ミサイル開発・配備・拡散などの動きにも、引き続き注目する必要がある。
 北朝鮮の政策や行動については、北朝鮮が、依然として閉鎖的な体制をとっているため、その動向を明確に把握することは困難であるが、その真の意図が何であるか見極めることが重要であり、引き続き細心の注意を払っていく必要がある。


 
26)北朝鮮は、「米国による対北朝鮮敵視政策と核の脅威の根源的な清算」が核放棄の前提であると主張している。(本年1月13日北朝鮮外務省報道官談話)

 
27)本年4月に発表された「2008年版国別テロリスト報告書」では、直近の6か月間に北朝鮮政府が国際テロリズムに対するいかなる支援も提供しなかったという証明や、今後国際的なテロ行為を支援しないという同国政府による確約を含む米国内法の基準に基づき、北朝鮮のテロ支援国家指定を解除したと説明している。

 
28)北朝鮮は、韓国に対する非難を強めている。たとえば、本年1月に朝鮮人民軍総参謀部報道官が韓国との「全面対決態勢」突入を宣言する声明を発表したり、同年3月に祖国平和統一委員会報道官が李明博政権の退陣を求める談話を発表したりしている。

 
29)締約国(ロシア、北朝鮮)の一方に対する軍事攻撃の際には、他方の締約国は、直ちにその保有するすべての手段をもって軍事的またはその他の援助を与える旨の従前の条約に存在した規定がなくなった。

 
30)咋年7月のARF閣僚会合後、北朝鮮は、東南アジアにおける友好協力条約(TAC:Treaty of Amity and Cooperation in Southeast Asia)に署名した。


 

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