第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 生物・化学兵器

 生物・化学兵器は、比較的安価で製造が容易であるほか、製造に必要な物資・機材・技術の多くが軍民両用であるため偽装が容易である。したがって、生物・化学兵器は、非対称的な攻撃手段1を求める国家やテロリストにとって魅力のある兵器となっている。
 生物兵器は、1)製造が容易で安価、2)曝露(ばくろ)から発症までに通常数日間の潜伏期間が存在、3)使用されたことの認知が困難、4)実際に使用しなくても強い心理的効果を与える、5)種類および使用される状況によっては、膨大な死傷者を生じさせるといった特性を有している2
 化学兵器については、イラン・イラク戦争中に、イラクが、マスタードやタブン、サリン3などを繰り返し使用したほか、80年代後半には自国民であるクルド人に対する弾圧の手段として、化学兵器を使用した4。また、さらに毒性の強い神経剤であるVXや、管理が容易なバイナリー弾5などが存在していたとされる6
 こうした兵器を求めているとされる国家として、たとえば、北朝鮮がある。また、95(平成7)年のわが国における地下鉄サリン事件は、米国における01(同13)年の炭疽(たんそ)菌入り郵便物事案や04(同16)年2月のリシン入り郵便物事案とともに、テロリストによる大量破壊兵器の使用の脅威が現実のものであり、都市における大量破壊兵器によるテロが深刻な影響をもたらすことを示した。


 
1)相手の弱点をつくための攻撃手段であって、在来型の手段以外のもの。大量破壊兵器、弾道ミサイル、テロ、サイバー攻撃など

 
2)防衛庁(当時)「生物兵器対処に係る基本的考え方」(02(平成14)年1月)

 
3)マスタードは、遅効性のびらん剤。タブン、サリンは、即効性の神経剤

 
4)特に88(昭和63)年にクルド人の村に対して行われた化学兵器による攻撃では、一度に数千人の死者が出たとされる。

 
5)2種類の化学剤を発射または爆発によって混合し、致死性の化学剤を生成する兵器。使用前は化学剤の致死性が低いため、貯蔵、取扱が容易である。

 
6)本年2月、イラクは化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention)の締約国となった。


 

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